第42話
それにしても。
カリンやミヤビに情報が漏れただけで暗殺の危険があるとは。
(やっぱり今回は、参加を見送った方がよかったのかね)
いや、そんなことはないはずだ。
今後もまた、誰かと一緒に仕事をする機会は当然あるだろう。
つまりこれは、避けることができない。遅いか早いかの違いでしかないのだ。
「二人して内緒話? もしかして君たち、できてたりするの?」
帰ってきて早々、ミヤビがそんなことを言ってきた。にやにやしながら。
こちらをからかっているのか、揺さぶりをかけているのか。フミヤにはわからなかった。
「別に違うよ」
特に表情を変えることなく、サヨコがそう返す。
事実だし正しい返答ではあるのだが、至極冷静なまま言われるとちょっと傷つく。
「じゃあ、何の話をしてたんだよ」
「プライベートな話だから。ミヤビ君に聞かせられるような内容じゃないかな」
「そう言われると益々気になるんだよなあ」
「くだらないことしてないで、さっさと行くぞ」
カリンがそう言って、フミヤたちは調査を再開する。
「わかってるって」
調査を再開してすぐ、一行は魔物に遭遇した。
「またサイクロプスか」
一つ目の巨人が、フミヤたちの前に立ちはだかった。
「次は私の番だね」
ランク7の魔物と遭遇するのは、これで二体目だ。
つまり、サヨコたち三人がランク7の魔物と戦うのはこれが初めてだということ。
(ランク6の魔物じゃ弱すぎて、実力がいまいちよくわからなかったからなあ)
相手が同じサイクロプスというのもいい。これで実力の比較がやりやすくなる。
(一体、どれほどの実力なんだ?)
サヨコの姿がブレた。
そして一瞬で距離を詰めると、魔力を纏った剣でサイクロプスに斬撃を浴びせる。
(……速いな)
スピードはフミヤと同じぐらいありそうだった。
脅威を感じたのか、サイクロプスが下がって距離をとる。
すると、すかさずサヨコがサイクロプスに向けて魔法を放った。
真っすぐに伸びた電撃が、サイクロプスを襲う。
躱しきれず、直撃。
「ギシャアアアアアアアアア!!!!」
悲鳴を上げるサイクロプス。
そして、目から光線を放ってきた。
それをサヨコは難なく避ける。
光線が後ろにいたフミヤたちの間を通り抜けていった。
サヨコがサイクロプスに電撃を放つ。今度も避けることができず、攻撃は命中。
サイクロプスが膝をついた。
(魔法の威力はあっちが上だな)
これはもう仕方がないだろう。
あちらは練習を始めてからもう何年も経つだろうが、こっちはまだ1ヶ月も経っていないのだ。
むしろ、サヨコたちには及ばないにしても実戦で使えるレベルまで来ているのだから、驚異的な成長速度といえる。
サイクロプスが単眼から光線を放った。
が、もちろんそんなものがサヨコに当たるはずもなく。
(終わりだな)
サヨコの剣がサイクロプスの単眼を貫いた――。
「お疲れ」
ミヤビがサヨコに声をかける。
「今のところ、特に異常はないみたいだね」
サヨコが言う。
現在地はエリアE-7の半分を少し過ぎたあたりだ。
これまでの調査で、特におかしなところは見つかっていなかった。サイクロプスもこのあたりではよく出る魔物だ。
(圧勝だったな。予想通りではあったけど、やっぱり強かった。でも、あれなら俺も負けてないと思うんだけど……)
勝てる、とまでは言わないが、いい勝負はできると思う。
もちろんあれで力の半分も出していないとか、そういうことでなければだが。
(ただ、向こうはまだ
サヨコは
そのうち見る機会があるだろうと言われたが、結局今まで一度も使うことはなかった。
おそらく相手が弱すぎて、使うまでもないということなのだろう。
「
「万が一に備えて、出来る限り消耗は抑えたいからね。あの程度の相手なら、使うまでもないかな」
やはりか。
それにしても。
(消耗を抑えたいってことは、
フミヤのように常時発動型のものもあれば、魔力を消費して発動するものもある。
「そういえばさ、カネモト君って
何気なく、ミヤビがそう聞いてくる。
想定していた質問ではあったが、少しドキりとさせられた。
「持ってるよ」
なぜ持っていないと答えなかったのか。
それは、そう答えたところでどうせ相手は信じないだろうと思ったからだ。
それに、つく嘘は少ない方があとからボロが出る可能性は低い。
「へえ」
興味深そうな顔をするミヤビと、目を見開くカリン。
「どんな
まるで「好きな食べ物は?」といった感じのノリで聞いてくるミヤビ。
(俺を探っているのか……それとも単なる興味本位なのか……)
あまりにも自然なので、後者かもしれない。
「悪いが、それは言えない」
「えー。教えてくれよ。僕の
「お前も
「あれ? サヨコから何も聞いてないの?」
どうやらサヨコはミヤビの
「だって、他人の
「それはそうだけどさ……そんなの真面目に守ってるところなんてないでしょ」
ミヤビ曰く、大っぴらに他人の
「っていうか、それだとそもそも交換条件になってないじぇねえか」
「そんなこと言わずにさぁ、頼むよー」
そう言って、縋りついてくるミヤビ。
(これはあれだな、探ってるわけじゃなくて単なる興味本位か)
こんなふざけたやり方で探りを入れてくる者など、いるはずがない。
(っていうか、昨日知り合ったばかりなのにやけに馴れ馴れしいなこいつ)
とはいえ、嫌いではなかった。
中学を卒業した後、強くなるためにすべてを捧げてきた。そのせいで学生時代の友人たちとは疎遠になってしまった。
こんなふうに年の近い同性とじゃれ合ったのは、いつ以来だろう。
酷く懐かしい気分だった。
まあ、だからといって
「どんなに頼んでもダメなものはダメだぞ」
「ちぇ。ケチ」
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