第41話
一つ目の巨人が崩れ落ちた。
――サイクロプス。
フミヤがE-5で倒した魔物だ。
あのときは手負いの状態だったが、今回は無傷のサイクロプスと戦った。そして、前回と同じように圧倒することができた。
(あれが手負いだったことが少し引っかかってたけど、これでスッキリしたな)
サイクロプスを倒したフミヤに、ミヤビが声をかける。
「やるじゃん。想像してた以上に強いね」
「…………」
カリンは特に何も言ってこなかった。
だが、こちらに探るような視線を向けてくる。
彼女は母親からの依頼で、フミヤのことを探って来いと言われていたらしいが……。
(やる気なさそうな感じだったのになあ……)
それともあれは演技だったのだろうか。いや、もしそうならわざわざ母親から探って来いと言われたなんて、口にしないはずだ。
目の前で実力を見せたことが、彼女の自分に対する興味を掻き立てたのかもしれない。
(この三人からすれば今の俺なんて、別に大したことないと思うんだけど……)
先ほどのミヤビの態度。
嫌味や皮肉ではなく素直にフミヤを称賛していたが、それでもまだどこか余裕があるように見えた。
相手の実力は認めつつも、自分が上だという自信があるのだろう。
(それなのに、俺なんかに興味を持つのか?)
サイクロプスが死んだのを確認したあと、そんなことを考えているとサヨコが声をかけてきた。
「フミヤ君。ちょっといいかな」
サヨコに連れられて、カリンやミヤビとは離れた場所へ移動する。
二人には声が聞こえないところまでやって来ると、彼女は口を開いた。
「わかってるとは思うけど、カリンちゃんがかなり君のこと気にしてるから……油断しないでよ? 口を滑らせて変なこと喋ったりしない限りは大丈夫だと思うけど」
「やっぱり俺、あの人に怪しまれてるのか?」
「気づいてなかったの?」
「いや。なんとなくそうじゃないかなとは思ってたけど、確信がもてなくて」
フミヤがそう言うと、サヨコがため息を吐いた。
「君はもうちょっと自分のことを客観的に見る必要があると思う」
「どういう意味だ?」
「自分が思っている以上に、君は人の注目を集める存在だってことだよ」
「そりゃ、まあ……俺もちょっとは強くなったし、彗星のごとく現れた期待の新人――って感じで、多少は注目されてるかもしれないけどさ」
少し照れながらそう言うミヤ。
そんな彼の言葉を、サヨコは首を横に振って否定した。
「それは違うね。今の君は彗星のごとく現れた期待の新人っていうより、いきなり現れた正体不明の怪しい奴って感じ」
あくまでこれは私の意見じゃなくて、事情を知らない外の人間から見た評価だよ。
サヨコはそう付け加えた。
「そうなのか?」
少し、ショックだった。
「だって、この前までどこにでもいるようなありふれた探索者だった君が、短期間でランク7の魔物を圧倒できるほど強くなったんだよ? 凄いっていうより、異常というか不気味だよね」
「いや。違うぞ」
どうやら彼女は勘違をしているようだ。
フミヤは短期間で急激に強くなったのではなく、実力を隠していた。
そういうことになっている。
フミヤはカンジたちを助けた際上手く機転を利かせられたと、自慢げにサヨコに話した。
だが、それを聞いて彼女は呆れた顔をする。
「そんなこと、相手が本気で信じるとでも思ってるの?」
「え? でも、疑ってるようなそぶりは――」
「まあ、仮にその場で信じたとしても、あとで調べたらそうじゃないってことぐらい気づくと思うよ。六大クランの調査力を侮らない方がいい」
「……マジか。バレてるのか」
そうだとすれば、カリンが自分に対して興味を持つのも理解できる。
「うん。間違いなく」
でも安心して、とサヨコは言う。
「たとえそうだとしても、具体的なことは何もわかってないと思うから。おそらく
「それってマズくないか?」
「どうして? 急激に強くなれた要因が
いや、と彼女は首を横に振った。
「ちょっと耳貸して」
そう言って、彼女が体を寄せてくる。とても大きなものがフミヤの腕に当たった。
ボディースーツを着ているせいで柔らかさは特に感じられなかった。
が、それが当たっているという事実と耳にかかる吐息がフミヤを平静ではいられなくする。
そのせいで彼女が何を言っているのか、聞き取ることができなかった。
「悪い。もう一回言ってくれ」
「耳打ちとはいえ、そう何度も言葉にはしたくないんだけどな。今度はちゃんと聞きとってよ」
サヨコが囁く。
『最悪、不眠不休で魔物と戦い続けられる力については、バレても問題はないと思う。強力ではあるけど、命を狙われるほどじゃないからね』
サヨコの声がさらに小さくなる。
『でも、君に限界がないってことだけは、絶対にバレちゃダメ。この情報が公になると、間違いなく命を狙われるよ』
「本当にそうなるかな?」
「私はそう思ってる。だって、放っておくといずれ手がつけられなくなるのがわかってるんだよ?」
だから相手が脅威になる前に殺しておく、ということか。
「まあ、普通にしてればまずバレることはないはずから、過剰に怖がる必要はないと思うけど」
「だよな」
「でも、油断はダメだからね? 一度でも口を滑らせると、それが命取りになると思っておいて」
「仮に口を滑らせたとして、信じるかな? 俺は将来、世界最強になれる才能を持ってるんだ――」
なんて言っても、鼻で笑われるだけ。
そう口にしようとしたフミヤの耳を、サヨコが強く引っ張った。
「いててててっ! 耳が千切れるっ!!」
「油断しないでって、今言ったばかりなのに。もう一回、耳貸して」
またサヨコの大きなものがフミヤの腕に当たる。
『普通の人なら鼻で笑われて終わるかもしれない。でも、君は違うんだよ。なんてったって、短期間でありえないぐらい強くなった人間の言うことだからね』
それだけで信憑性は増すし、仮に確信が持てなくても、その可能性があるというだけで暗殺を実行する者が出てくるだろう。
彼女はそう説明した。
「だから油断しないでね。わかった?」
「ああ。肝に銘じるよ」
いつの間にか気持ちが緩んでいた。
最初はもっと警戒していたのに。
(ここで釘を刺してもらってよかったな)
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