第40話
(この魔物が……おそらくはE-5にサイクロプスが現れた原因ですね)
魔物は基本的に自分の縄張りを持っている。
あのサイクロプスは単に縄張り争いに負けた個体が、偶然E-5に迷い込んだのだとミヤモトは考えていた。
だが違った。
極めて強力な個体が多くの魔物を支配下におき、エリアE-8の魔物を軒並み排除してしまったのだ。
そこから運よく逃れたのが、あのサイクロプスだったのだろう。
――オーガキング。
通常のオーガ種の中では最も強いとされている魔物で、ランクは9。オーガ種を支配下におき、使役することのできる
(今までにランク9の魔物は数え切れないほど倒してきましたが……)
それでも絶対に勝てると言い切れるだけの自信は、ミヤモトにはなかった。
同じランクの魔物でも強さには違いがあるからだ。
それに一対一ならばまだいいが、他にも魔物は残っている。
基地の中にも、そしてそれ以外にも――ミヤモトが知らないだけで、他にもっと魔物がいる可能性もあるのだ。
(他の魔物まで参戦してきたら、正直厳しいですね。でも、簡単に逃がしてくれそうにはありません)
完全にロックオンされている。
あちらからしてみれば、自分の配下をたくさん殺した相手なのだ。排除したいと思って当然だ。
(なんとか隙を見つけるしかないですね)
そして一刻も早くE-7の基地へ行く。
もはやタテオカやクガヤマを探している余裕はなかった。
(カイエダさんたちも心配ですが……今はどうしようもありません)
今は姿が見えないが、ミヤモトは他にも魔物がいると考えていた。
その魔物たちが参戦してくる前に、ここから逃げる。他のことなど一切考えず、それだけに集中すべきだ。
オーガキングが殴りかかってくる。
ミヤモトは後ろに下がって距離をとった。
オーガキングの拳の硬さは相当なものだ。先ほどの攻撃で、おそらく肋骨の何本かに
今の状態ならまだ問題はないが、そう何度も攻撃を喰らうわけにはいかない。
(槍よ)
足元の地面が隆起し、無数の槍となってオーガキングを襲う。
が、オーガキングは素早い動きでその場から飛び退くと、一瞬にして魔法の攻撃範囲から逃れた。
今がチャンスかもしれない。
そう思ったミヤモトは、オーガキングに背を向けて走り出した。
だが――。
「っ!?」
背後から何かが迫ってくると感じたミヤモトは、横に飛んだ。
先ほどまで彼がいた場所を、透明な風の刃が通り過ぎていく。
(魔法まで使いますか……)
通常オーガ種は、魔法を使えない。オーガキングでさえもその例外ではない。
なのになぜこの個体は、魔法を使うのか。
(変異種ですかね?)
稀にその魔物が本来持たないような性質や力を備えた個体が発見されることがある。そういった魔物は、変異種と呼ばれていた。
(今奴に背中を向けるのは危険ですね)
ミヤモトは逃走を諦め、オーガキングと向かい合った。
オーガキングが無数の風の刃を放ってきた。
(速い……! すべてを躱すのは無理ですね……!)
ミヤモトは土の壁でその攻撃から身を守る。
オーガキングが壁を越えて回り込んできた。そして一瞬で距離を詰めてくる。
オーガキングの拳を躱し、ミヤモトはカウンターで斬撃を浴びせる。
手応えは――ない。
体の表面にほんの少し、傷をつけただけだった。
(やはり硬い。魔力が少なすぎましたか)
たった一つランクが上がっただけだというのに、オーガジェネラルとは肉体の強度がまるで違う。
オーガジェネラルに通用した攻撃がオーガキングには通用しない。
(後々のことを考えて、少しでも魔力を節約しておきたかったのですが……どうやらそうも言っていられないようです)
オーガキングの反撃を避け、ミヤモトは後ろに下がった。
オーガキングがすかさず魔法を放ってくる。
今度は広範囲攻撃ではなく、透明な風の刃が一つだけ。
だが、それに込められた魔力はおそらく相当なもの。威力の弱い範囲攻撃ではミヤモトにダメージは与えられないと考えたのだろう。
ミヤモトはなんとかギリギリでその攻撃を躱した。
だが――。
気づけば、オーガキングが目の前まで迫っていた。
今度は回避は間に合わない。
オーガキングの拳がミヤモトの腹部に突き刺さる。
「――っ」
だが、ミヤモトもただやられっぱなしではなかった。
痛みに耐え、先ほどよりも多くの魔力を纏った剣でオーガキングに反撃する。
今度はしっかりと、オーガキングの体を斬った手応えがあった。とはいえ致命傷には程遠い。
オーガキングが下がって距離をとる。
そして、
『――――――!!!!』
オーガキングが何かを叫んだ。
ただ単に咆えたのとは違う。それはきちんとした意味を持った、言葉のように思えた。
(まさか……)
大きな地響きとともに、三体のオーガジェネラルが地面に降り立った。
『――――――』
またしてもオーガキングが何かを喋った。
ミヤモトには意味がわからないが、何かをオーガジェネラルに話している。
恐れていたことが起こってしまった。
オーガキングだけでも自分に近い実力を持っているのに、それに加えてランク8の魔物が三体も。
形勢は、極めて不利になってしまった。
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