第37話
フミヤたちの乗るヘリの中は、沈黙に支配されていた。
あれから職員による説明と質疑応答はすぐに終わった。
元々今回の調査任務について事前に説明は受けていたし、特段新しいことは何もなかったからだ。
カトウに関しても、最初こそフミヤたちに話しかけたりしていたのだが、段々と口数が少なくなり、今では完全に黙りこくっている。
対処しなければならない魔物のランクが上がってきたせいだろう。
サヨコやカリン、ミヤビたちも静かだ。
カリンは元々なのかわからないがずっと不機嫌そうな顔だし、ミヤビは音楽でも聴いているのかイヤホンをして目を閉じている。
二人がそんな調子だからか、サヨコもずっと外の景色を眺めているだけだった。
もしかしたら、余計な会話をしてフミヤの情報が漏れるのを避けようとしているのかもしれないが。
(……居心地悪いな。誰か喋ればいいのに)
こんな状況で、サヨコたちは平気なのだろうか。
きっと、平気なのだろう。
(そういえば、沈黙が続いても気まずくならないのは仲がいい証拠だって聞いたことがあるな)
自分の身に当てはめてみても、思い当たる節がある。
フミヤもアサカと一緒にいるときはそうだった。ずっと会話がなくても、特に居心地が悪いと感じたことはない。
この三人は以前からの知り合いのようだし、もしかするとそういう気安い間柄なのかもしれない。
「カネモト君ってさあ、何歳なの?」
そんなことを考えていたら、いつの間にかイヤホンを外していたミヤビが話しかけてきた。
「俺は20
「へえ。その年で僕らと一緒に行くのを許可されたってことは、かなり強いんだね」
「どうかな。あんまり自信はないけど」
手負いとはいえランク7の魔物に完勝できたことについては自信になった。
ただ、その程度ならこの三人にとっては朝飯前だろう。そんな彼らの目の前で自信を持って「俺は強い」だなんて、とてもではないが言えなかった。
「今回の調査任務が行われる原因になったサイクロプス。それを倒したのがこいつだ」
突然、カリンが会話に入ってきた。
「そんなこと、なんで知ってるんだ?」
ミヤビが聞く。
「E-5でサイクロプスを見つけたのが、うちのクランのメンバーだったからだよ」
「じゃあ、サイクロプスに襲われてたパーティーって、君のところのだったのか。そしてそれを、カネモト君が助けたと」
先ほど連盟の職員からは、エリアE-5で手負いのサイクロプスが出たこと。それがそこにいたあるクランのパーティーを襲ったこと。そしてそのサイクロプスは既に討伐されていること。
今回の調査任務が行われるきっかけとなった出来事については、それだけが説明された。
具体的にどのクランのパーティーが襲われたのかや、誰がサイクロプスを倒したのかについては言及されなかった。
そのことについて誰も質問しなかったから、既に知っているものだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
「サイクロプスに圧勝したらしいから、そいつの強さは……まあ、足を引っ張ることはないんじゃないの」
「ふうん。そうか。しかし珍しいな。君が他人にそこまで興味を持って調べるなんて」
「調べてねえよ! ババアから聞かされたんだよ。それで今度の調査任務にそいつが来るかもしれないから、もし来たらいろいろ探ってこいって――あ……」
しまった、という顔のカリン。
それにしても、ババアとは一体誰のことなのだろうか。
「まあ、別にいいよ。私にあんなババアの言うことを聞く義務なんてないし」
「それにしてもババアねえ。ルイコお姉さんが聞いたらどんな反応をするかな」
ルイコ。
そういえば、カリンの母親でクラン・アサオのマスターの名前がルイコだったような……。
(ババアって、あの人のことかよ……)
写真や映像でしか見たことはないが、かなり綺麗な人だったはず。
あれでババアなどと呼ばれた日には、激怒されても文句は言えないのではないだろうか。
「言うなよ! 絶対に言うなよ!」
トラウマでもあるのか、慌てた表情でそう言うカリンに対して、サヨコとミヤビが腹を抱えて笑う。
「笑うな!」
『まもなく、エリアE-7の基地に到着いたします』
パイロットの声だろうか。アナウンスが流れた。
少しずつヘリが減速していく。
着陸地点が見えてきた。
その真上でヘリが止まると、ゆっくりと下降していく。
(人がいるな)
着地点の近くに、ボディスーツを着た中年男性の姿が見える。
禿頭でかなりの大柄、ヘリのプロペラが生み出す強風にもびくともしない。
(かなり強そうだ。魔物が近づかないように見張ってたんだろうな)
ヘリから降りると、その男性がフミヤたちを出迎えてくれた。
基地長だという男性と軽く挨拶を交わすと、基地の中へ案内されそこで準備を整える。
そして、すぐにフミヤたちは出発した。
軽く走りながら周囲の様子を伺う。こうやって、何か異変が起こっていないのか調査をするのだ。
「さっそくお出ましか」
前方に、熊のような魔物を発見した。
「エレキベアか」
エレキベアはランク6の魔物で、頭頂部に角が一本生えた熊のような外見をしている。
ただ、その身体能力や頑丈さは熊とは比較にならないレベルだ。
そして何よりも大きな違いは、この魔物が魔法を使うこと。エレキベアは電気――魔法としての分類は嵐属性――を使って敵を攻撃する。
頭頂部にある角から、電気を放出するらしい。
「グォオオオオオオオ!!!!」
エレキベアがこちらに気づいたようだ。
「誰がや――」
誰がやる?
ミヤビがそう言い終える前に、エレキベアの攻撃が飛んできた。
フミヤたちはそれを後ろに下がって回避する。
常人であれば視認することすら不可能なスピードであったが、彼らにとってはまるでスローモーションのように遅く感じられた。
カリンが前に出る。
そして一瞬にしてエレキベアとの距離を詰めると、一太刀でその首を刎ね飛ばした。
「魔力の消費を抑えるために、戦う順番を決めておかない?」
エレキベアが完全に死んだのを確認した後、サヨコがそう提案してきた。
「じゃあ一番は私だな。さっき戦ったばかりだし」
カリンが言う。
「僕は何番でもいいや。サヨコやカネモト君はどうする?」
「俺も何番でもいい」
「私も」
いちいち話し合いをするのも面倒なので、手っ取り早くじゃんけんで順番を決めることになった。
結果はサヨコが二番目でミヤビが三番目、フミヤが最後になった。
「まあ一応わかってるとは思うけど、一人じゃ無理な魔物が出たと判断したら順番関係なく勝手に手を出していいからね」
サヨコがそう言うのに、フミヤたちは頷く。
結局、その後に遭遇した魔物のランクはすべて6。
フミヤたちにとってはまったく脅威にならない相手で、全員が一撃で敵を屠ってしまった。
そして日が暮れて、夜を迎えた――。
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