第36話



「「「グオォオオオオオオ!!!!」」」


 カイエダたちは、の群れと対峙していた。


 ハイオーガはグレートオーガの上位種である。


 ランクはグレートオーガより一つ上の7。体格はオーガ、グレートオーガと差はないが、肌の色が黄色なので見ればすぐ判別できる。


「今度はハイオーガですか!!」


 その数は七体。


 格下とはいえ、決して侮れない数だ。


 ハイオーガは強靭な肉体と高い身体能力が特徴の魔物だ。その代わり、魔法が使えない。


 つまりそれは、遠距離攻撃の手段がないということ。


 ハイオーガたちが距離を詰めてくるが、先手はカイエダたちがとった。


(氷槍)


(炎球)


(風刃)


 無数の氷の槍、炎の球、風の刃が空中に生み出され放たれる。


 ハイオーガたちはこちらに向かって前進しながらも、なんとかそれを躱そうとする。


 四体のハイオーガに攻撃が命中した。


 しかし残りの三体には、避けられてしまった。


 さらに攻撃が命中したハイオーガたちも、それなりのダメージは負ったようだがグレートオーガのように倒れることはなかった。


 ハイオーガの方がグレートオーガよりも、肉体の強度が上がっているのだ。


 上位種なのだから当然といえば当然の話なのだが。


 魔法攻撃を避けたハイオーガ三体が殴りかかってきた。


 その拳を躱し、カイエダたちはそれぞれ魔力を纏った剣で反撃する。


 三人の剣がハイオーガたちの体に傷をつけ、出血させる。


 一瞬よろめくハイオーガたち。


 だが、倒すことはできなかった。


 ここで残りの四体のハイオーガたちが、殴りかかってくる。


 三人は後ろに下がってそれを躱すと、再び魔法で範囲攻撃を行う。


 それはすべてのオーガに命中した。


 だが、それでもまだ倒れるオーガはいなかった。


 とはいえ、もうかなりのダメージを負っていて虫の息だ。


 カイエダたちはそれぞれ標的を一体に絞って斬撃を浴びせる。


 三体のハイオーガが崩れ落ちた。


 だがハイオーガたちもやられっぱなしではない。


 まだ残っている四体のハイオーガたちが殴りかかってくきた。


 三人はそれを躱して、剣で反撃しようとする。


 しかし、カイエダだけは二体に攻撃を仕掛けられたせいで、一体は躱したもののもう一体のものは避けきれなかった。


 ハイオーガの大きな拳がカイエダの腹部に打ち込まれる。


(っ……!)


 口から強制的に空気が吐き出さる。一瞬息ができなくなった。


 だが、たったそれだけ。


 魔力循環によって強化されたカイエダの肉体強度は、ハイオーガを上回る。たった一発殴られた程度どうということはない。


 すぐにカイエダは剣で反撃した。そして続けざまに炎の魔法をもう一体に撃ちこみ、二体のハイオーガを仕留める。


 一方、マツイやシマモトの方はというと。


 こちらも既に決着していた。


 二人の斬撃を受け、ハイオーガたちは既に絶命していたのだ。


「あーあ。私だけ攻撃、喰らっちゃったかあ」


「仕方ないよ。カイエダさんだけ二体の敵に襲われたんだから」


「そんな言い訳にならないですよマツイさん。まだまだ未熟だからこうなるのよ」


 カイエダを擁護するマツイの言葉を、シマモトが一刀両断した。


「まあ、シマモトさんに比べたら全然熟してないからね私は。まだまだピチピチだよ」


 負けじとカイエダも言い返した。


「なんですって!?」


「はいはい二人とも。そろそろ日が暮れるよ。野営の準備をして」


 野営の準備を終え、食事をしている最中のこと。


 マツイが話を切り出した。


「今回の調査任務のことだけど……ここで打ち切って、引き返そうと思う」


 E-8の基地から現在地がどの程度離れているのか。方角はどうなっているか。


 カイエダたちはそれがわかる機器を所持している。


 それによれば、彼女たちが現時点で調査し終えたのはエリアE-8の約六割ほど。


 本来であれば、明日から残りの分を調査すべきなのだが――。


「オーガたちを使役している存在は、最低でもランク8以上の魔物だ」


「なんでそんなことがわかるの?」


「魔物を使役できる能力アビリティっていってもね、そんなに万能じゃないんだ。自分より格下の魔物にしか、能力アビリティは効かない。過去の事例では全部そうだった」


「まあ、どんな強い魔物でも操れるとしたら恐ろしいことになりますもんね」


 マツイは頷く。


「あのハイオーガたちは、間違いなく他の魔物に使役されてる。ハイオーガが自然に群れを作るなんてありえないからね。でもそれがランク7の魔物だとすると、おかしなことにならないかい?」


「そっか。ランク7の魔物が、同じランク7の魔物を操るのは無理だもんね」


「そう。だからオーガたちを使役してる存在は、最低でもランク8以上の魔物ってことになる」


「でも、そうだとしてもさ、まだ引き返すのは早いんじゃない? まだ操ってる魔物のランクはわかってないんだし。それにもしランク8なら、私たちだけで十分倒せるしさ」


「……僕は今回の敵は、ランク8じゃないと思ってる」


 そう言って、マツイは深刻そうな表情を浮かべた。


「僕たちは今まで、このE-8の六割近くを調査してきた。だけどその中で、オーガ以外は一体どれだけいた?」


 E-8の基地を出発したのが昨日。


 それから日を跨いでずっと調査をしてきたが、出会う魔物はオーガやその上位種ばかり。


 他の種類の魔物は、たったの一体だけしか見ていない。


「エリアE-8は元々、オーガ以外の魔物だって出る場所だ。にもかかわらずこうなってるってことは、元いた魔物は全部排除されたってこと。仮にオーガたちを使役してる魔物がランク8だとして、それにこんなことができると思うかい?」


「無理だと思う。だって、ここには本来ランク8の魔物がたくさんいるのに」


 エリアE-8の4分の1を調査し終えた段階では、まだ確信が持てなかった。


 だが、今では確信を持って言える。


 これは明らかに非常事態だ。


「本当はすぐにでも引き返したいところだけど……体力や魔力を回復させる時間が必要だ。一人一時間ずつ仮眠をとろう。それが終わったらすぐに出発する」


 体力や魔力を回復させる最も効率のいい方法は、睡眠をとることだ。


 座って休んでいるだけも回復はするが、眠る方が遥かに効果は高い。


「はぁ……ちょっとした気分転換になると思ってたけど、とんでもないことになっちゃったなあ」


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