第24話



「あの野郎!」


「ちっ……」


「はぁ……」


 キリシマの勝手な行動に対し……カンジは憤慨し、タイシは舌打ち。そしてキリカはため息を吐く。


「弱すぎだな。歯応えがまるでねえ。さっさとこんなエリア、抜けちまおうぜ」


 リザードマンを瞬殺したキリシマが、得意げな顔で戻ってくる。


 そんなキリシマを、マエジマが呼び止めた。


「キリシマ」


「なんだよ」


「どうして先走ったりした?」


「ああ? そんなの決まってんだろ。俺はチームのために、脅威を速やかに排除しただけだ」


 へらへら笑って、心にもないことを口にするキリシマ。


「そうか。だが、リザードマンはランク3の魔物。ここにいるメンバーなら、全員一対一で危なげなく勝てる相手だ。そこまでする必要はなかったと思うが?」


「そう言われればそうかもな。けど、さっきはそこまで考える余裕がなかったんだよ。俺としたことが、どうやら緊張してたらしい。気づいたら体が動いてた」


 白々しい言い訳である。


 しかし、同時に反論しづらいのも確かだった。


 マエジマはこれ以上追求するのをやめ、あまり効果はないだろうとわかっていながらも一応釘を刺しておく。


「そうか。だが次からは、俺の指示に従え。指示を待たずに動いていいのは、緊急性があるときだけだ」


「わーってるよ」


 次に遭遇したのは、オーク。同じくランク3の魔物だった。


「ブビィイイイイイ!!!!」


 豚の顔を持つ人型の魔物。それがオークだ。


 身長は2メートルを越え、体の厚みも半端ではない。


 そして、その体格に似合わぬ俊敏さ。一般人であれば、オーク一体を倒すのに最低10人は必要になるだろう。


 ランク3といえば低ランクではあるが、それほどまでに魔物という存在は危険なのだ。


 だが――。


 金色の魔力に覆われた剣を、カンジが振るった。


 それだけでオークの体は綺麗に切断され、真っ二つになる。


 カンジにとって、オークはあまりにも弱すぎた。


 タイシにしてもキリカにしても、ランク3の魔物程度に苦戦することはない。


 結局、その日は代わる代わる単純作業のように魔物を倒し、野営の時間を迎えた。


「さて。これから野営の準備をする。が、その前に見張りの順番をまずは決めてもらおうか」


「見張りの順番か……」


 人間には必ず睡眠が必要だ。


 だが、その間魔物が攻撃をストップしてくれるわけではない。


 だから寝ているときに襲われないよう、見張りが必要なのだ。


「見張りは二人体制。2時間を1セットとして、計5セット。お前たちには、そのうちの2セットに必ず参加してもらう」


「順番はどうやって決めるんですか?」


 キリカが質問する。


「お前たちで相談して、好きに決めろ。俺は空いたところに入ろう」


 マエジマがそう返すと、


「じゃあ、俺は最初の2セットに参加する。あとはお前ら、好きに決めていいぞ」


 キリシマがそんなことを言い出した。


「なに勝手に決めてんだよ。まず話し合いだろ。それもしねえで、自分の希望だけが一方的に通るとでも思ってんのか?」


「ああ。この中じゃ俺が一番強ェからな。お前らは、俺の言うことを聞いてればいいんだよ」


 キリシマのあまりにも横暴な振る舞いに、カンジがキレた。

 

「てめえいい加減にしろよ! さっきから自分勝手な行動ばかりとりやがって!」


「あァ? 誰に向かって口きいてんだよてめえ」


「んだとコラ!」


「落ち着いてカンジ君……話し合いに参加する気はないの?」


 キリカがキリシマに尋ねる。


「ねえって言ってんだろ。さっさと俺以外が入るセットを決めて来い」


 だが、取り付く島もなかった。


 カンジは怒りでプルプルと体を震わせている。


 このままではいつ爆発してもおかしくない。


 そう思ったキリカはカンジの手を引っ張ると、タイシのところへ連れて行った。


 キリシマと引き離したかったのもあるが、とりあえずこれからどうするのか、三人で話し合いをするのだ。


「どうする? あいつぶっ飛ばすか?」


 開始早々、カンジがそう言った。


「やめておけ。僕たちは曲りなりにもチームを組んでるんだ。そんな仲間割れみたいなこと、許されるわけがない」


「私もそう思う。ここで喧嘩なんかしたら、後でどんな処分受けるかわからないよ」


「……じゃあ、どうしろっていうんだよ」


「あんな奴、放っておけばいいだろう。僕たちだけで順番を決めて、空いたところに入れてやればいい」


「なるほど。いいな、それ」


「いいの?」


「もしそれで認められなければ、別の方法を考えるだけのこと」


「そうだな。やるだけやってみよう」


 そして、三人はそれぞれの希望を出し合った。


「まずは――そうだな。言い出しっぺのお前の希望から聞くか」


 カンジはタイシに視線を送る。


「僕は最初か最後の2セット。そのどちらかを希望する」


「次は俺だな。俺は……最初の2セットに参加したい。そして、できればキリカも――」


「私はどのセットでもいいから、カンジ君と一緒がいいな」


「なら、僕が最後の2つに入ろう。お前たちは最初の2つに入ればいい」


「いいのか?」


「こっちの方が合理的だろう?」


 結論が出たので、カンジたちはマエジマのところへ行き、自分たちの要望を伝えた。


「わかった。お前たちの希望通りにしよう」


 すると、拍子抜けするほどあっさりと、カンジたちの希望が通った。


「よし!」


 カンジは力強くガッツポーズをする。


 だが、キリシマにとってこれは、到底認められるものではなかった。


「ちょっと待てよ! なに勝手に決めてんだよ!」


「一方的に自分の要望だけを通そうとして、話し合いを拒否したのはお前だろう。自業自得だ」


「だったら俺も話し合いに参加する!」


「今更もう遅い。これは決定事項だ。受け入れろ」


 マエジマがそう告げると、キリシマは唇を強く噛み締めて、叫んだ。


「認めねえ! 俺は認めねえぞ!」


「いい加減にしろ! 口で言ってわからないようなら、力づくで教えてやるぞ? どうする? 俺は回復魔法が使える。死ぬ寸前まで痛めつけてやってもいいんだぞ?」


 マエジマのそんな言葉に、流石のキリシマも顔を強張らせた。


 いくら自信家の彼でも、マエジマに勝てないことはわかっていたのだろう。


「くそがっ!!」


 そう吐き捨てると、苛立たし気にその場から立ち去ろうとする。


 が、それをマエジマが呼び止めた。


「警告しておくが、下手なことは考えるなよ? 俺が悪質だと判断した行動をとれば、本当にクビにするからな」


「わかってるよォ!!!」


 キリシマはそう怒鳴って、今度こそその場から立ち去っていった。


 しばらくとすると、何かを折るような大きな音が聞こえてくる。


 おそらく、森の木々に八つ当たりでもしているのだろう。

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