第23話
あまりにも失礼極まりない態度。
それも入って来たばかりの新人が、自分より一回りも二回りも年上の相手に対してだ。普通なら激怒されてもおかしくはない。
だが、男性は怒らなかった。その代わり、ため息を一つ。
「まあいい。とりあえず自己紹介してくれ」
そう言って、男性はカンジを見た。
まずは自分から始めろということらしい。カンジは口を開く。
「アオヤマ・カンジです。よろしくお願いします」
「……それだけか?」
好きな食べ物だとか、座右の銘などを言って欲しかったのだろうか。
だが、男性のそんな願い?も虚しく、短い自己紹介が続いていく。
「マルヤマ・キリカです」
「イイヤマ・タイシです」
「キリシマ・タイガ。いずれ世界一の探索者になる男だ。覚えとけ」
ガラの悪い青年――キリシマのそんな宣言に、他の三人が一斉に彼のことを見た。
「なんだァ? 文句あんのかよ」
「いいや。別に」
カンジが答える。
(世界一の探索者か……考えたこともなかったな。でも、それぐらい高い目標を持たねえとダメなのかもな)
キリシマ・タイガ。
遅刻しても謝罪すらせず、礼儀もまるでなっていない。おまけに態度も最初から喧嘩腰で、正直第一印象としては最悪だ。
だが、高い目標を持ち、それを親しくもない人間の前で臆することなく公言できる。
そういう度胸というかハートの強さは、見習うべきかもしれない。
もっとも、ただの自信過剰な勘違い男の可能性もあるが。
「最後に俺も、自己紹介をしておこう。俺はマエジマ・サブロウ。もう前線からは退いたが、現役のときはランク6の探索者だった」
「ランク6……」
カンジ、キリカ、タイシの三人が感嘆の声をあげる。
探索者の等級はランク1から12までであり、ランク6は上から七番目と、それだけ聞けば大したことがないように思える。
だが、ランク6まで上がれる探索者はほんの一握りだ。
探索者の世界でもランク6は腕利きとして評価され、年収が億を超える者もいる。
つまりマエジマは、探索者としては間違いなく成功した部類に入る人間だということだ。
「さて。自己紹介が終わったところで、さっそく新人研修を始めるぞ。まあ、新人研修といっても別に特別なことをやるわけじゃない。やるのは魔物狩り。お前たちがこれまで散々やってきたことだ」
「質問いいですか?」
カンジが手を挙げる。
「なんだ?」
「なんで俺たちだけ、他と扱いが違うんですか?」
カンジの言う、扱いが違うというのは、他の新人たちがクラン内にいくつかあるチームにすぐ配属されたのに対して、カンジたちだけはこうして集められ、新人研修をやらされているということだ。
「さっきも言ったが、お前たち以外の新人は他のクランからの移籍組だ。それはつまり、クランに所属して仕事をした経験があるということ。だが、お前たちにはそれがない。だからいきなりチームに入れるより、こうして一度研修をして肩慣らしをした方がいいと判断したんだよ」
「……なるほど」
言われてみると、確かにその通りかもしれない。
「他に質問はないか? なければもう出発するが」
マエジマは四人の顔を見渡し、質問を待つ。が、他に手を挙げる者はいなかった。
「よし。それじゃあ出発だ」
カンジたちは、エリアE-4へとやって来た。
「さて。それじゃあそろそろ魔物狩りを始めるか。持ってきた荷物を置け」
それぞれ、背負っていたリュックを地面に置く。
戦闘をするときリュックは邪魔になる。だからこうして、魔物を探す際は、いつ遭遇してもいいようにリュックは置いてから探すのだ。
「おいおい。ここ、エリアE-4じゃねえか。こんな雑魚しか出ねえような場所で狩りなんて、俺はごめんだぜ」
だが、早速キリシマがマエジマの指示に反発した。
「確かに、ここにいるメンバーの実力を考えれば、このエリアは適正とは言えないな。だが、今日は研修の初日。このチームで動くことに慣れるという意味でも、まずは弱い魔物が出るエリアから始めるべきだろう」
「なんでだよ! そこまで慎重になる必要なんてねえだろ! 俺は一刻も早く強くなりてえんだ! 無駄なことをしてる時間なんてねえんだよ!」
マエジマがため息を吐く。
これ以上説明しても無駄だと悟ったからだ。
「だったら単独行動でもしてみるか?」
「それもいいかもな」
自分の意見が受け入れられたとでも思ったのだろう。
得意げな顔で、キリシマが言う。
だが次の瞬間、彼の表情が変わった。
「そうか。悪質な命令違反を犯した者はクランから追放――つまりクビだが、それでもいいのか?」
「なっ!?」
「いいから黙って指示に従え。さもないと、クビにするぞ? 俺にはそれだけの権限がある」
チームを率いるリーダーの指示に従わないメンバー。それは時として、チームに壊滅的な損害を与える。
だからリーダーには、強大な権限が与えられているのだ。
指示に従わない人間を、クランから排除できるほどの。
「ちっ」
キリシマは不満そうではあったが、それ以上文句を言ってくることはなかった。
どうやら脅しが効いたようだ。
「……迷惑な奴だ。どうしてこんなのと同じチームになってしまったのか」
タイシがそう言い、カンジがそれに同調する。
「まったくだな」
だが、図らずも嫌いな相手と意見が合ってしまったことに気づき、二人は互いに舌打ちをして目を逸らした。
それからしばらく、一行は魔物を探して回る。
そして、リザードマンを発見した。
「あそこに魔物がいるのが見えるか? こういう場合、本来はチームで戦うところなんだが、流石にあれは弱すぎる。だから今回は、一人ずつ戦ってもらうとしよう……そうだな。まずは――」
だが、マエジマが指示を出す前に、キリシマが勝手に飛び出していた。
キリシマが持つ剣を、金色の魔力が覆っている。
魔力剣。魔力を剣に纏わせることによって、攻撃力を飛躍的に高めるスキルである。
キリシマは一瞬でリザードマンと距離を詰めると、剣を振るう。
そしてリザードマンの体を、いとも簡単に真っ二つにしてしまった。
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