第20話
「それから、自分の
「まあ、仮に教えたところで信じる者は少ないでしょうけど」
自分には世界中の誰よりも強くなれる才能がある。
フミヤがそう言ったところで、普通はまず信じないだろう。
そもそも証明できるようなものではないし、ミヨコが特殊な
「それでも、用心することに越したことはないわ」
「……わかってます。そういえば、ここでの会話の内容が外に聞こえてるなんてことは?」
驚くことが多すぎてすっかり忘れていたが、重要なことだ。
もっとも、こんな話をしている時点で対策していないはずはないだろうが。
「大丈夫だ。この部屋は防音になっているからな。会話の内容が外に漏れることはねえよ」
「それならよかったです」
その後、フミヤは正式に契約を結んだ。
ただし、一週間は取り消しが可能になっている。
契約内容を書面にしたものを渡されているので、それを家に持ち帰って最終確認をするようにとのことだった。
「帰りに下の受付に寄っていけ。お前に渡したいもんがある」
部屋から退出する際、キョウシロウにそんなことを言われた。
言われた通りに受付に行くと、縦長の黒いケースを渡される。
さらにフミヤは一週間あまりの魔物狩りで採取した魔結晶を換金した。
買い取り額は約50万マニー。そのうちのほとんどが、ランク4から5の魔物が出没するエリアE-5で採れたものだった。
クランの出した車に乗せてもらい、自宅に帰る。
自宅で渡されたケースを開けてみると、剣とボディスーツのようなものが入っていた。
剣は鉄よりも硬いと言われている、特殊金属ミスリルで作られたもの。
ボディスーツは戦闘用で、着用している者の魔力を吸うことで破壊されても再生する。
いずれも高級品で、普通に買えば100万は軽く超えるだろう。
「こんなものまで貰えるのか……」
これがクランに加入した者に無条件で与えられるものなのか、それともフミヤだけ特別だったのかはわからない。
だが、どちらであっても非常にありがたいことだった。
と、そのとき。家のインターホンが鳴る。
映像を見てみると、そこにはアサカの姿が映っていた。
「早く中に入れなさい!」
どうやらかなり怒っているようだ。
怖かったので一瞬中に入れるか迷ったのだが、ここで入れない方があとあともっと酷いことになると判断したフミヤは、彼女を中に招き入れる。
「あんたこの一週間ぐらい、一体どこで何してたの!?」
入って来るなり、アサカはそう怒鳴ってきた。
「なんでそんなに怒ってるんだよ」
「怒るに決まってるでしょう! 一週間以上もずっと連絡がつかなかったのよ!?」
「心配しすぎだよ。子供じゃないんだから。それに、今までだって一週間以上会わないときもあっただろ?」
「今までのと一緒にしないで! ずっと家の電気はつかないし、電話してもいつも圏外! これで心配するなって言うほうがおかしいわよ!」
「で、でも……さっきちゃんと、大丈夫だってメッセージ返しただろ?」
魔物狩りから帰宅したあと、フミヤのスマホにはアサカから大量の着信履歴とメッセージが残されていた。
内容は、連絡のとれないフミヤを心配するもの。
そこでフミヤは、アサカに対し自分は大丈夫だということをメッセージで伝えたのだ。
「あんなので納得できるわけないでしょ!」
「わ、悪かったよ」
だが、アサカの怒りはおさまらない。
「あんた、また魔物狩りに行ってたんでしょ! そうなんでしょ!?」
「わ、わかったから落ち着けって」
これではまともに話もできないと本人も悟ったのだろう。
アサカは何度も息を吸ったり吐いたりを繰り返すと、ようやく落ち着いた表情になった。
「私、この前言ったわよね? あんたには才能がないんだから諦めなさいって。このままじゃいつか取り返しのつかないことになるって。それなのにどうしてわかってくれないの?」
「アサカ姉の言いたいことはわかってる。でも、一度俺の話を聞いてくれないか? それで納得してもらえなかったら、今度こそ本当に探索者はやめるから」
「……わかったわ」
「この前、クラン・シミズにスカウトされたって言ったの覚えてるか?」
「ええ。でも、あれは――」
「あれ、本当なんだ。これを見てくれ」
フミヤはクラン・シミズと交わした契約書を持ってきて、アサカに渡した。
最初は訝し気だった彼女も、契約書を読み進めていくうちに少しずつ表情が変わっていく。
そして、読み終わった頃には――。
「……これ、本物だわ」
信じられない、といった様子でアサカはフミヤを見つめている。
「本当は、あのときちゃんと説明しておくべきだったよ。そうしてれば、こんなにアサカ姉を心配させることもなかった」
「ねえ。この契約内容……年俸60億の10年契約になってるけど、これどういうこと?」
「俺、
「そういう次元じゃないと思うけど。確かに
「それは言えない。クランとの約束なんだ」
そう言って、フミヤはアサカから目を逸らした。
本当は教えてあげたかった。
だが、クランとの約束もあったし、それ以上に
そんな思いが、フミヤを踏みとどまらせた。
ところが――。
「……そう」
アサカのすすり泣く声が聞こえてきて、フミヤは慌てて顔を上げる。
「お、おい! 悪かったって! だから――」
「違うの……! 私、嬉しくて……! あんたが報われて……! ずっと、頑張ってきたものね……!」
「アサカ姉……」
本当は、彼女も辛かったのかもしれない。
フミヤに才能がないと言い続けることが。
だが、それでも彼女は心を鬼して言い続けたのだ。フミヤのために。
「でも、やっぱり心配だわ……! あんたを危険な目に遭わせたくない……!」
「アサカ姉。それは――」
「わかってる……! もう、探索者をやめろなんて言うつもりはない。これだけ評価してもらったら、もう止まれないわよね。私だってそうするもの」
そう言って、アサカは涙をぬぐう。
そして、
「おめでとう。頑張ってね」
精一杯笑顔を作ってみせた。
「アサカ姉……」
そのときフミヤは誓った。
アサカを心配させないぐらい、強い男になろうと。
「俺、やるよ。てっぺんとってくる」
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あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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