第19話



 キョウシロウの言葉に、サヨコは目を見開く。


 そしてフミヤの顔をまじまじと見つめてきたが、それに彼が気づくことはなかった。


 キョウシロウの言った言葉があまりにも衝撃的だったためだ。


「……どういうことですか? 俺の能力アビリティについて、お二人は何も聞いていないはずじゃ?」


 自分の能力アビリティについて、フミヤはサヨコ以外には話していない。


 それに、サヨコに話したあとはずっと彼女と一緒にいたが、能力アビリティについて誰かに話すような素振りはなかった。


「いや。そもそも俺の能力アビリティはそういう類のものじゃありません。俺の能力アビリティは――」


 そんなフミヤの言葉を手で遮り、キョウシロウは告げる。


「自分じゃ気づいてねえだけだ。そもそも、お前は自分の能力アビリティについてどれぐらい知ってる? そのすべてを把握してるのか?」


「……いえ」


「うちの副マスターは、少し特殊な能力アビリティを持っててな。その目で見た人間の持つ能力アビリティを見抜くことができる」


「っ!?」


「その結果、俺たちはお前が世界最強になれる素質の持ち主だと判断したんだ」


 そこで、サヨコが会話に入ってくる。


「まだ気づいてない効果って何? 私がフミヤ君から聞いた内容だと、確かに強力だけど、そんなデタラメな効果を持った能力アビリティじゃなかった」


「人間にはそれぞれ限界がある。魔物を倒すと強くなれるが、それが永遠に続くわけじゃねえのは知ってるな?」


 キョウシロウの言葉に、フミヤとサヨコは頷いた。


「どんな奴でも、自分の限界を越えて強くなることはできねえ。理論上、鍛え続ければいずれ成長が止まるんだ。俺自身もそうだったからな……」


 そう語るキョウシロウの瞳は、遠い目をしていた。


「だが、お前にはそれがねえ。お前には強くなれる限界が存在しねえんだよ」


「正確には――あったけど今はもうなくなった、と言った方がいいのかしら」


 ミヨコがそう補足する。


「あったけどなくなった……?」


「ええ。あなたの能力アビリティには、本来決められているはずの強さの限界を壊し、無くす効果がある。つまり、理論上あなたは無限に強くなり続けるってことよ」


「俺の能力アビリティに、そんな効果が……」


「他にも、魔物を倒し続ける限り食事を必要とせず、不眠不休で戦い続けられること。傷を負っても回復すること。そして、格上の敵を倒したとき、能力アビリティの保有者を大幅に成長させる効果があるわ。これらの効果に、身に覚えはあるかしら?」


「……はい」


 ミヨコが指摘した能力アビリティの効果は、すべてフミヤにとって身に覚えがあるものだった。


 しかも、格上の敵を倒せば大幅に実力が伸びるという効果は確証がなかったため、サヨコには話していなかった。


 にもかかわらず、ミヨコはそれすら言い当てたみせたのだ。


 間違いなく、ミヨコの能力アビリティは本物だ。


 フミヤはそう確信する。


「ちなみに能力アビリティの覚醒条件は、限界まで自分を成長させた上で格上の敵を倒すことよ」


「それにも身に覚えがあります」


 少し前までのフミヤは、間違いなく成長が止まっていた。それはつまり、自分の潜在能力の限界まで成長しきっていたということ。


 その状態で、試験の帰り、親切にしてくれた女性を助けるためフミヤは狼男ウルフマンを倒した。


 今考えればあれがきっかけとなり、能力アビリティが覚醒したのだろう。


「これでわかったか? 俺がお前を最強になれる才能を持ってるって言った意味が」


「はい」


「じゃあその上で改めて聞く。俺が提示したさっきの条件、受け入れるのかどうか。ああ、一応言っておくが、さっきの60億ってのは基本給だ。つまり、契約さえすれば極端な話何もしなくても貰える」


「もちろん、それは怪我などのやむを得ない事情があるときに限った話よ」


「要するに、ちゃんと働けば問題ないってことだ。わざとサボったりしなければな」


「そんなことしませんよ」


「ああ。全力でやった方がいいぞ。何か結果を出せば追加でボーナスも出すし、基本給も上げる……それで、どうだ?」


 その問いかけに対し、フミヤはしばし間をおいてから答えた。


「受けます」


「いいのか?」


 キョウシロウは意外そうな顔をしていた。


「何がです?」


「自分の本当の価値がわかったんだ。もっといい条件で契約したいとは思わねえのか?」


「最低でも1年で60億貰えるわけだし、それで十分ですよ」


「欲がないんだな」


「あまり欲をかきすぎて、失敗しても困りますし」


 これ以上条件を吊り上げようとして、「じゃあ、お前とは契約しないわ」なんて言われてはたまらない。


 現状、フミヤの本当の価値を見抜くことができるのはこのクランだけだ。


 他に働き口を求めたところで、ここよりも遥かに劣る条件でしか契約はできないだろう。


「……そうか」


「それより一つ聞いていいですか?」


「なんだ?」


「どうして俺に能力アビリティのことを全部教えたんですか? それを隠しておけば、もっと安い金額で俺と契約できたと思うんですが」


「理由は二つある。一つは、俺たちなりの誠意だ。そしてもう一つが――お前に、自覚を持って欲しかったんだよ」


「自覚、ですか……」


「ああ。確かにお前は、世界中の誰よりも才能のある人間だ。だが、今は弱い。今のお前を殺せる奴なんて、世の中にはいくらでもいる」


「だから死に物狂いで努力しろ、ってことですね」


「そうだ。基本的に、強くなればなるだけ生き残れる確率は上がるからな」


 せっかく才能を持って生まれてきても、それを開花させる前に死んでしまっては何の意味もない。

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