第18話
すると彼女は、迎えに行くから自宅の住所を教えてくれと言ってきた。
住所を教え、待つこと2時間ほど。
インターホンが鳴ったので外の映像を見てみると、そこには黒塗りの高級そうな車が止まっていた。
もうわかってはいるが一応用件を聞いてみると、フミヤを迎えに上がったとのこと。
車に乗せてもらうと、中でサヨコが待っていた。
「結構時間かかったね。そんなに悩んでたの?」
そう声をかけてきた彼女の顔は少し、嬉しそうだった。
それを見た瞬間、そんなに自分のことを評価してくれていたのかと、思わず頬が緩みそうになる。
だが、今からやるのは交渉――一種の戦いだ。
そんな気持ちではいい結果は勝ち取れないと、フミヤは表情を引き締めた。
「いや。そうじゃない。自分の
「……へえ。それで、何かわかったの?」
「ああ」
「もしよかったら、教えてくれない?」
「かまわないけど、防音は大丈夫なのか?」
今フミヤたちがいる場所は車内でも密室のようになっており、一見したところ声が外に漏れそうには思えない。
だが、念には念を入れたかった。
誰にも教えないとなれば交渉すらできないのでそれは不可能だが、それでもできるだけ自分の
他人に知られれば、それだけで何らかの不利益を生む可能性が高いからだ。
「大丈夫だよ。ここにいるのは私たち二人だけ。それに、防音は完璧だから情報が外に漏れることはない」
それならばと、フミヤはサヨコに自分の
「……なるほど。それはまた随分と強力な
「自分で言うのもなんだが、信じるのか……?」
「嘘なの?」
「いや。本当だよ。でも、まだ証拠を見せたわけじゃないだろ?」
「そうかもしれないけど、わざわざ嘘をつく意味なんてないでしょ? たとえ嘘をついても、あとから本当かどうか調べればわかるわけだし」
それは確かにその通りだ、とフミヤは納得する。
そのあと、フミヤはサヨコからクランについていろいろと教えてもらった。
そうこうしているうちに、車がクラン・シミズの本部に到着する。
「ここが……」
クラン・シミズの本部は、巨大なビル一棟だった。知識としてそれは知ってはいたものの、実際に見ると圧倒される。
サヨコに案内されて、フミヤはビルの中を進んでいった。
サヨコと一緒だから注目されているのか、妙に視線を感じる。が、エレベーターに乗ったことでようやくそれから解放された。
エレベーターが止まる。
それから再びサヨコのあとをついていき、ある部屋の前に辿り着いた。
その部屋の扉には、クランマスター室と書かれている。
(おいおい……いきなりトップと会うのかよ……)
サヨコが扉の横にいる警備員に声をかけた。
警備員がインターホンを鳴らす。
そして少しの間やり取りをしてから、フミヤは室内へと通された。
「失礼します……」
中に入ると、そこには二人の人物がいた。
一人はもちろん、クランマスターであるシミズ・キョウシロウ。
サヨコと同じエメラルドグリーンの髪をオールバックにした、巨漢の男性である。
そしてもう一人は、妙齢の女性。
(この人は確か――シミズ・サヨコの母親で、昔はランク12の探索者だったっていう、シミズ・ミヨコ……)
ミヨコはサヨコを生んで20年も経つとは思えないほど、若々しい容姿をしていた。
顔もサヨコとかなり似ていて、姉だと言われても信じてしまいそうなほどだ。
「っ!?」
と、そこでミヨコがフミヤを見て驚いた顔を見せる。
そして彼女はキョウシロウに耳打ちをした。するとキョウシロウも驚いた顔になり、フミヤの顔をまじまじと見つめてくる。
(なんだなんだ!? 俺、何かしたか!?)
そう不安になるフミヤだったが、一度死にかけた経験を思い出しなんとか表情を取り繕うことに成功する。
「は、初めまして。私はカネモト・フミヤと申します。本日はどうぞよろ――」
「あー……そういうのいいから。俺たちはお前の名前も聞いてるし、ここじゃそういうのは評価対象にはならねえから自然体でいい。ま、とりあえず座ってくれ」
「……失礼します」
既にソファーに座っていたキョウシロウに、そう促される。その言葉に従いフミヤが腰を下ろすと、サヨコも横に座ってきた。
ちなみにミヨコは、キョウシロウの後ろに立っている。
「さて。一応自己紹介をしておこうか。俺はシミズ・キョウシロウ。そこいるサヨコの父親で、クランマスターをしている。そして、俺の後ろにいるのがミヨコ。俺の妻で、副クランマスターだ」
「よろしくね。カネモト・フミヤ君」
「よろしくお願いします」
「それで、まず最初に聞きたいんだが……ここに来たってことは、お前はうちのクランに入る意思があるってことでいいんだよな?」
「……はい」
これから行われる交渉でよほど納得できないことがあれば話は別だが、基本はそのつもりでいる。
最初に声をかけてくれたクランということもあるし、なによりアズマノ共和国の中でもトップクラスのクランだ。
ここ以上の好条件を探すのは難しいだろう。
そんなことを考えていたのだが、次の瞬間キョウシロウから放たれた言葉はフミヤにとってあまりにも予想外のものだった。
「……そうか。じゃあ条件を提示しよう。60億でどうだ?」
「……は?」
キョウシロウが言ったことが信じられなくて、フミヤは思わずそんな反応を返してしまう。
「なんだ。不満か? 言っておくが、これ以上好条件を出すクランは、たぶん世界中探してもどこにもねえぞ」
「いや。そういうことじゃなくて……えっと、冗談ですよね?」
「何がだ?」
「その……60億っていうの」
「いいや。大真面目だ。俺たちクラン・シミズがお前に提示する条件は、年俸60億マニー。それの、10年契約だ」
「…………」
どうやら冗談ではないらしい。
だが、フミヤにはキョウシロウの言っていることがまるで理解できなかった。
年俸60億など、探索者の中でもほんの一握りの人間だけが手にすることのできる金額だ。
いくら強力な
「納得いってなさそうな顔だな。だが、お前の価値を考えれば本当はこれでも安いぐらいなんだぜ。なにせ、お前は世界で最強の探索者になれる才能を持っているんだからな」
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