第17話



「ガァアアアアアアアアアア!!!!」


 雄叫びを上げて、オーガが地面を蹴った。そしてフミヤに肉薄すると、パンチを放ってくる。


 だが、その拳は空を切った。


 オーガはフミヤの姿を見失っている。


 そのときフミヤはオーガの背後に――正確には空中にいて、既にいつでもパンチを打ち出せる体勢になっていた。


(喰らえ!)


 フミヤの拳がオーガの頭部に叩き込まれる。


 頭蓋骨を砕き、首の骨をへし折った。


 殴り倒されたオーガは立ち上がろうと懸命にもがくが、その体はぴくぴくと小さく震えるだけ。やがて動かなくなり、そのまま絶命した。


(どうやら俺の予想は当たってたみたいだな……)


 現在の時刻は午前3時。真夜中だ。


 だが、今のところまったく眠気を感じない。もう既にまる一日ずっと起きっぱなしでいるにもかかわらずだ。


 もちろん、動きもまったく悪くなっていない。それどころか、むしろよくなっていた。


(昨日より身体能力も上がってるし、魔力量も増えてる。ランク5の魔物をたくさん倒したからか?)


 これで、フミヤは魔物を倒せば強くなれることが証明された。


 ここ一年ほど、魔物を倒しても成長が実感できなくなっていた。だからもう成長は止まってしまったのだと思っていた。


 だが、それはフミヤの勘違いだったようだ。


(いや。違うな。たぶん、勘違いじゃなくて本当に成長は止まってた。でも、能力アビリティが覚醒したことで何かが変わったんだ。それで、また成長できるようになった)


 どういう理屈でそうなったのかはわからない。


 しかし、そんなことはどうでもよかった。理由がわかるならもちろん知りたいが、現段階ではこれ以上検証のしようがないからだ。


 それよりも今は、これからも成長できること、強力な能力アビリティを手に入れたことを喜ぶべきだ。


(魔物を倒し続ける限り、不眠不休で戦い続けられる。食事もいらず、傷を負っても回復する。この力があれば、俺は他の奴の何倍ものスピードで強くなれる。それは身体能力や魔力量だけじゃない、技術面でもそうだ)


 フミヤは手のひらの上に、小さな炎を出現させる。


 それはほんの2~3センチ程度の大きさしかなかった。


(俺の魔法――今までは魔力量が少なすぎて、こんな戦闘じゃ使いものにならないような低レベルなものしか習得できなかった。でも、これからは違う)


 今の魔力量であれば、戦闘でも十分敵の脅威になるような強力な魔法だって習得できるだろう。


(ただ、魔法の習得には時間がかかる。魔力量が多くても、すぐに使えるようになるわけじゃない……普通なら)


 なぜそうなるのか。


 その理由は、普通の人間は魔法の習得にかけられる時間が限られているからである。


(睡眠時間。そして、戦って減った体力や魔力を回復させる時間。その間は魔法の練習はできないからな。それに加えて、強くなるためには魔物狩りの時間だって長くとる必要がある。そうなれば、一体どれぐらいの時間を魔法の練習に費やせる?)


 しかし、フミヤの場合は睡眠時間や体力、魔力を回復させる時間を魔法の練習にあてることができる。


 つまり、人の何倍も魔法の練習に時間をかけることができるのだ。


(一般的に、魔法は一つの属性に絞って鍛えるものだ)


 魔法には、炎、、氷、あらしの四つの属性が存在する。だが、そのすべてを均等に練習していては、あまりにも効率が悪い。


(極端な話、一つに絞れば10になるものが、4つ均等にやると2.5になるからな)


 だが、フミヤのように他人の何倍も練習に時間がとれるとしたらどうなるだろう。


(四つの属性すべてを、極めることができるかもしれない)


 もしそうなれば、自分はもっともっと強くなれる。


 そう考えたとき、フミヤは自分の体が震えているのに気づいた。


 興奮しているのだ。かつてないほど、気持ちが昂っている。


(よし……! 俄然やる気が湧いてきたぞ……!)


 それから一週間、フミヤは魔物を狩りながら魔法を練習し続けた――。


 そして帰宅。


 もう十分に交渉材料を得たと判断したフミヤは、サヨコに連絡をとった。

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