第16話



 拳を直接受けたオーガの腕は歪んでいて、明らかに折れているのがわかる。


 それに対し、フミヤの拳は無傷。


(こっちの肉体強度が、敵を上回ったみたいだな)


 オーガが距離を詰めてくる。


 そして、折れていない方の腕で殴りかかってきた。


 向かってくる拳に合わせるように、フミヤもパンチを放つ。オーガの拳とフミヤの拳が激突し、大気が震えた。


「ギャアアアアアアアアアッ!!!!」


 ダメージを負ったのは、またしてもオーガだった。


 フミヤの拳によって指を砕かれたのだ。これでもう両腕は使い物にならないだろう。


 だが、それでも戦意は衰えていないようだった。


 オーガはその太い足で、蹴りを放ってくる。


 しかし、それをフミヤは腕で簡単に受け止めてみせた。そして、反撃とばかりに懐に潜り込むと、拳を叩き込む。


 オーガの体が吹き飛ばされた。


 すぐにオーガは立ち上がるが、足元はフラフラだ。


(今がチャンスだ!)


 そう判断したフミヤは地面を蹴り、一瞬でオーガに肉薄すると、その拳を顔面に叩き込んだ。


 顔の骨を砕き折り、オーガを殴り倒す。


 オーガは仰向けに倒れ込んだ。


 そして、間髪入れずにオーガに駆け寄ると、その頭を思いきり蹴り上げた。


 蹴られたオーガの首が折れ曲がる。


(どうだ……?)


 フミヤはオーガの様子を伺う。しかし、今度は立ち上がってくることはなかった。

 

 しばらく待ってみたが、それでも動く様子はない。どうやら死んだらしい。


「……結構強かったな」


 ランク4から上は、一つランクが上がるだけで強さがまるで違うと言われているが、本当にその通りだった。


(でも……それでも俺は勝った。それに終わってみれば、そんなに苦戦しなかったしな)


 探索者のランクは、倒せる魔物のランクの高さによって決まる。


 たとえば、ランク4の魔物を倒せる探索者のランクは4、ランク5の魔物を倒せる探索者のランクは5と判断される。


 つまり、今のフミヤは客観的に見てランク5の探索者と評価されるだけの強さがあるということだ。


「……ん?」


 そんなことを考えていると、フミヤはあることに気づいた。


 顔の痛みが、消えている。


 フミヤは離れたところに置いていたリュックからスマホを取り出すと、ティッシュで顔を拭いてから自撮りをしてみた。


 すると――。


「なんでこんなに綺麗なんだ……?」


 フミヤの顔は、先ほどオーガに殴られ出血したとは思えないほど綺麗な状態だった。


 普通、血を拭き取ったとしても、唇が切れるなりどこが腫れるなりしていてもおかしくないはずなのに。


(もしかして、傷が治ってるのか……?)


 そのとき、フミヤはあることを思いだした。


 あの公園で、最初に狼男ウルフマンを倒したあとのことだ。あのときも確か、魔物を倒したあとに傷が治っていた。


 これは偶然とは思えない。


(ってことは、俺の能力アビリティは、魔物を倒すと傷が回復するのか……?)


 そう考えると辻褄が合う。


(今までわかったことをまとめてみると……俺の能力アビリティの効果は――魔物を倒し続ける限り、魔力が減らない。体力も減らないし、食事も必要ない。そして、傷も回復し続ける)


 こんなところだろうか。


(かなり便利な能力だな。でも、あと一押し足りない。もし眠る必要がなくなれば最高の能力アビリティになるのに。もうここまできたらその効果もついてるんじゃないかと思うけど、実際どうなんだろうな……)


 もし睡眠の必要がなくなれば、理論上はずっと魔物を狩り続けることができる。そうすれば人の数倍のスピードで強くなることが可能になるだろう。


 普通の人間は、様々な制約に縛られるが故に、どうしても魔物を狩ることのできる時間が限られてしまうからだ。


(探索者は体が資本だからな。戦わない日ならともかく、戦う日は最低6時間は寝たい。そうなると、起きていられる時間はせいぜい18時間ぐらいだ。でも、その間だってずっと動き続けられるわけじゃない。魔力や体力にも限りがあるからな。当然休みが必要になってくる)


 だが、フミヤに睡眠が必要なくなれば、これらの枷から完全に解放されることになる。


(もしそうなったら、チームを組んで魔物狩りする必要がなくなるな。完全に一人で狩りができる)


 単独での魔物狩りは、さらなる効率化をもたらす。


 同じ魔物を倒すにしても、戦う人数が多くなればなるほど成長のスピードは遅くなるとされているからだ。


 逆に、一人で戦えばそれだけ成長は早い。


(これは絶対に検証する必要があるな……)


 できるなら、自分の予想が当たっていて欲しい。


 そんなことを願いながら、フミヤは次なる獲物を求めて動き出したのだった。


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