第15話
もしそうだとすれば、
(……いや。それだけじゃないな。魔力も減ってない)
魔力循環は非常に有用な技術だが、当然デメリットもある。
それは、魔力を消耗するということ。
(初めて魔力循環を使ったから忘れてたけど、こんなに長時間使い続けてたら普通はもっと魔力が減ってるはずだ。それなのに俺の魔力はまったく減ってない。これはどう考えてもおかしい)
間違いなく、
(ただ、魔力に関しては減らないとしても、他の2つについては別の可能性もあるんだよな……)
たとえば、空腹なのにもかかわらずそれを感じていないだけ。体は疲れているにもかかわらず、それを感じていないだけ。
そういう効果の可能性もある。
(もしそうだったら厄介だな)
本来、空腹になるというのは体に食事が必要であることを教えてくれる大事なサインだ。
疲れも同じ。休息が必要だということを教えてくれる。
もしそれがなければ極端な話、餓死してしまうかもしれないし、無理をして体に異常をきたしてしまうかもしれない。
だから
これは絶対に検証しなければならない。
(どうすればいい?)
フミヤは考える。
そして、
まず、フミヤはエリアE-4の浅いところまで戻り、そこでランク3の魔物を狩り始める。
食事はもちろんとらなかった。
そして、午後3時までランク3の魔物を狩り続けた。
その結果、やはり空腹を感じることはなかった。そして、疲れもしなかった。
しかし、体の動きが悪くなっているかといえば、決してそうではない。
むしろ体の調子はいい。ずっと休むことなく戦い続けているにもかかわらず、まったく動きが鈍ることはなかった。
(これは……
本当は空腹なのにそれを自覚していないだけ。疲れているのにそれを感じないだけ。
もしそうなら、パフォーマンスが落ちているはずだからである。
(次は
とはいえ、今日はもうこれで終わりだ。
帰りの時間を考えて、フミヤはここで魔物狩りを切り上げることにした。
午後8時に帰宅する。
そして、風呂から出た後、スマホにサヨコからメッセージが届いていることに気づいた。
内容は当然、昨日フミヤが彼女に電話をかけたことについてだ。
あれから折り返し電話をかけたが、繋がらなかったのでメッセージを残しておいたとのこと。
(俺たち探索者が魔物狩りをする場所は、スマホの圏外だからな。たぶん魔物と戦ってる間に、あの人から電話がかかってきてたんだろう)
フミヤは間違い電話をしてしまった(本当の理由を言うのもどうかと思ったので)ことについての謝罪と、クランに入ることについては前向きに考えているがもう少し待って欲しい、という主旨のメッセージを送り返した。
そんなふうにしているうちに9時になり、明日も早いのでもう寝ようと思っていた矢先、ようやくお腹が空いてきた。
そのまま寝ることはせず、食事をとってからフミヤは眠ることにする。
そして翌朝3時に起床。食事など諸々の準備をして4時に家を出る。
9時にエリアE-4に到着し、浅いところで魔物を狩り始めた。
正午になった。
だが、まだ空腹になっていはいない。疲れも感じていない。
そして、当然魔力も減っていなかった。
(……どうやら俺の
魔物を狩り続けていたときは空腹になることはなかった。だが、魔物を狩るのをやめてしばらくすると、お腹が空いてきた。
この事実から導き出される仮説。
それは――。
(おそらく、魔物を倒し続けている間は疲れを感じないんだ。そして、食事もいらない。魔力も減らない)
フミヤはエリアE-5にやって来ていた。
いよいよ、ランクの魔物と戦うのである。
ランク4の魔物を蹴散らしながら、フミヤはエリアE-5を奥へ奥へと進んでいく。
そして――。
ついに、ランク5の魔物に遭遇した。
(いた。あいつだ……)
フミヤの視線の先にいるのは、赤い肌をした巨大な人型の魔物。
オーガだった。
オーガは背後にいるフミヤの存在に気づいていない。
(……ここは奇襲を仕掛けてみるか)
そう考えたフミヤは息を潜め、ゆっくりとオーガに近づいていく。
そして地面を蹴り、一瞬で距離を詰めた。
しかし――。
(気づかれた!?)
オーガがその場から飛び退き、フミヤが振るった剣は空を斬った。
(さすがはランク5の魔物……簡単に不意打ちは成功しないか)
攻撃され怒り狂ったオーガが咆哮し、大気が震える。
「ヴゥウウガァアアアアアアア!!!」
オーガが一瞬で距離を詰め、フミヤに殴りかかってきた。
(……速いな。ランク4の魔物とはまったくレベルが違う)
だが、それでもまだフミヤには余裕があった。フミヤは体を横にずらし、オーガの拳を躱す。
そして、持っていた剣でオーガの体を斬りつけた。
だが――。
「っ!?」
剣が折れてしまった。
それに気をとられ、一瞬隙ができたのをオーガは見逃さなかった。
フミヤの顔面にオーガの拳が叩き込まれる。
フミヤは後ろに下がって距離をとった。
顔全体が痛い。
触ってみると、手に血が付着していた。
(今の俺の体に傷を負わせるとは……道理で剣で傷がつかないわけだ)
ある程度上のランクの魔物になると、魔力循環を使って肉体の強度を上げているらしい。
もっとも、フミヤたち人間のように技として使っているのではなく、本能でやっていることらしいが。
(少し、舐めてたよ)
フミヤは全身に循環させている魔力の量を、今できる限界ギリギリまで増加させた。
これでフミヤの肉体は、さらに強度を増したはずだ。
(行くぞ……!)
フミヤが地面を蹴り、オーガに肉薄する。
少し反応が遅れたオーガはそれでも、両腕をクロスして攻撃から身を守ろうとした。
だが、そんなものは何の意味もない。
ガードの上から、フミヤが拳を叩き込んだ。
骨を砕く感触がした。
フミヤの攻撃を受けたオーガが、後ろに吹き飛ばされる。
「ガァアアアアアアアアアアッ!!!!」
そして、痛みに絶叫した。
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