第14話



(よし。相手の攻撃にもきちんと対応できてるな)


 そもそもの身体能力が違うので当たり前と言えば当たり前だが、それでも敵の攻撃を完璧に避けきったというのは自信になる。


狼男ウルフマンのときはこんなこと試す余裕もなかったからな。ここで試せてよかった)


 フミヤはあたりに飛び散ったリザードマンの死体を一瞥すると、そのまま歩みを進める。


 魔物の死骸には何の価値もない。お金にならないし、時間が経てば塵になって消えていくだけだ。


(それよりも……お、あったあった)


 しばらく歩き回っていると、フミヤはあるものを発見した。


 魔結晶。


 地面から生えているそれの外見は、クリスタルに似ている。


 この魔結晶は人類にとっては唯一のエネルギー源であり、探索者にとっては貴重な収入源でもあった。


 フミヤは持ってきていたリュックから金づちを取り出すと、それを使って魔結晶を採取する。


 魔結晶は硬そうな見た目だが実際はそうでもなく、こうして市販の道具でも簡単に採取することができる。


 採取した魔結晶の大きさはだいたい3~4センチほどで、色は赤。


 魔結晶にはいくつか種類があって、同じ大きさでも色によって内包するエネルギー量に違いがある。


 同じ大きさだと仮定すると、内包するエネルギー量の低い方から赤、青、黄色、緑、オレンジ。


 今フミヤの手元にある魔結晶は赤色で非常に小さいので、含まれるエネルギー量も大したことはない。


 以前これと同じ色でもっと大きな魔結晶を換金したことがあったが、だいたい3000マニーぐらいだった。


 魔結晶の買い取り額は常に一定ではないため一概には言えないが、この魔結晶を売ってもそれよりも高くなることはないだろう。


(このあたりが、下級探索者は儲からないって言われる理由なんだろうな)


 上級探索者の狩場ではもっと価値の高い色の魔結晶が採取できるし、見つけられる頻度も上がる。


 探索者は、上と下の差が非常に激しい業界なのだ。


「さて。行くか」


 フミヤはクリスタルをリュックサックに入れると、魔物を探して周囲を探索し始めた。


 それから何度かランク3の魔物と戦ったフミヤだったが、あまりにも弱すぎて相手にならなかった。


 より早く強くなりたいなら、ランクの高い魔物を相手にした方が効率がいい。


 フミヤはエリアE-4の深いところまで進み、ランク4の魔物を狙ってみることにした。


 ランク4の魔物を探し求めて走ること15分ほど。


 フミヤはついに、ランク4の魔物――ダブルハンドコングを発見する。


 ダブルハンドコングは、腕が左右にそれぞれ二本ずつついている。その点を除けば、外見は巨大なゴリラそのものだ。


(ランク4の魔物か。今の俺なら、十分倒せるはずだが……)


 今回も、奇襲は選ばず正攻法で敵と対峙した。


「ボォオオオオオオオオオオオ!!!」


 四本の腕で激しくドラミングを行い、コングがフミヤを威嚇してくる。


(……凄い迫力だな。でも、ビビるわけにはいかない……!)


 フミヤは地面を蹴ると、ダブルハンドコングに肉薄する。コングにはフミヤの動きが見えていないようだった。


 フミヤはコングの首元を狙って、剣を振るう。


 ――一閃。


 コングの首は分厚い肉に覆われ、骨も太く硬かったが、フミヤは腕力にものを言わせて無理矢理首を刎ね飛ばした。


 頭を失ったコングの体が、ゆっくりと地面に倒れる。


「……拍子抜けするぐらい、あっさり倒せたな」


 この感じだとランク4の魔物も、相手にならないかもしれない。


 そんなフミヤの予想は当たっていた。


 次に戦ったのは、同じくランク4の魔物――森林虎しんりんどら。体高2メートルはありそうな、巨大な虎だ。


「ガァアアアアアアアア!!!」


 森林虎が距離を詰め、その鋭い牙で攻撃してくる。フミヤはあえてそれを避けることはせず、左腕に虎を噛みつかせた。


(……やっぱり、まったく痛くないな)


 向こうは必死に嚙み千切ろうとしているのだろうが、鉄をも上回る強度を持つフミヤの腕は傷一つつかない。


 フミヤは右手に持っていた剣を地面に落とすと、左腕と右手を使って無理矢理虎の口をこじ開けた。そして口から左腕を抜き、今度は両手を使って虎の口を上と下に引き千切る。


 頭の上半分を失った森林虎は、当然のごとく絶命した。


 そのあともフミヤは魔物を狩り続けた。時折、魔結晶を回収しながら。


 結局、何十体もランク4の魔物を倒したが、苦戦した魔物は一体もいなかった。


「そういえば、今何時だろ?」


 魔物を倒すのに夢中になり忘れていたが、昼食のこともある。


 フミヤはリュックからスマホを取り出すと、時間を確認した。そして目を見開く。


「……嘘だろ。11時46分?」


 フミヤが朝食をとったのは、午前3時半頃。普通に考えれば、もうとっくに空腹になっていなければおかしい時間帯だ。


(……そういえば、体力も全然問題ないんだよな) 


 あれだけ激しく体を動かしたにもかかわらず、まるで疲れた感じがしない。


(……集中してたからか? いや、仮にそうだとしても、腹が減らないのだけはどう考えてもおかしい)


 そこで、フミヤはある一つの可能性に思い至る。


(まさか……能力アビリティの影響か?)

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