第13話



 アズマノ共和国は、人口約8000万人の国家である。


 その人口密度は極めて高い。国土が狭いからだ。


 そのおかげ――という表現が正しいかどうかはわからないが、わずか2時間でフミヤは目的地に到着することができた。


 ここは、人間の居住地と魔物の棲む領域の境目。


 少し先には、魔物の侵入を防ぐための監視塔が建っている。


 ここから周囲を監視し、魔物がいれば常駐している探索者が討伐する。そういう仕組みだ。


 朝の4時前に家を出たため、現在の時刻は午前6時。


 まだ日が昇りきっていない空の下を、フミヤは走り出した。


 だいたいの傾向として、人の暮らす場所から離れれば離れるほど魔物は強くなる。


 以前は弱い魔物を狙っていたため近場でよかったが、強くなった今、高いランクの魔物と戦うためには必然的に遠くに行く必要がある。


 だからこうして走っているわけだ。


 車よりも速いスピードで走り続けること、3時間ほど。


 フミヤはエリアE-4に到着した。


 エリアE-4で遭遇する魔物の強さは、ランク3~4程度。


 今のフミヤは実力的に最低でもランク5に近いレベルだと思われるが、リスクを下げるためあえてこのエリアから始めることにした。


 もし余裕があればエリアE-5に挑戦するつもりでいる。


 ちなみにエリアE-5に出没する魔物の強さはランク4~5程度だ。


「……さて」


 全身に魔力を循環させ、肉体を強化する。


 これでフミヤの肉体強度は飛躍的に高まった。物理攻撃や魔法攻撃に対する防御力が上がったので、いつ魔物に襲われても大丈夫だ。


 剣を手に持ち、魔物の姿を探す。


 すると――。


(……いた)


 濃い緑色の鱗を持つ、二足歩行のトカゲ。


 いや、木を削って作ったであろう槍を持っているから、トカゲ人間とでも表現するべきだろうか。


 ランク3の魔物、リザードマンがそこにいた。


 向こうはまだこちらに気づいていないようだ。


(どうする……? このまま奇襲をかけるか?)


 そうすればすぐに倒せるだろう。


 同じランク3の魔物の狼男ウルフマンを同時に五体相手にしたときでさえ、フミヤは圧勝している。


 普通に戦っても勝ちが見えているのに、奇襲となればなおさらだ。


(いや、今回はやめておくか。ここはあえて――)


 フミヤはわざと音を立て、堂々とリザードマンの前に姿を現した。


「シャァアアアアアア!!!」


 フミヤを見て、リザードマンが威嚇してくる。そして槍を構え、こちらの隙を伺うように腰を落とした。


 フミヤは剣をだらりと地面に垂らし、わざと隙を見せることによってリザードマンを誘う。


 すると、リザードマンは簡単にそれに乗ってきた。


 フミヤにはスローモーションのように見えるが、常人では対応しきれないほどのスピードでリザードマンが距離を詰めてくる。


 そして、手に持った槍でフミヤの胴体を狙って突きを放ってきた。


 それを体を横にずらして躱すと、フミヤはリザードマンの背後に回り込む。


 だが、あえて攻撃を仕掛けることはしなかった。


「シャアッ!!」


 簡単に攻撃を躱されたことに苛立ったのか、リザードマンが吠える。


 そして、再び突っ込んできた。


 胴体、頭、胴体。そして、また胴体。


 リザードマンの槍による突きを、フミヤは剣を使わず体捌きだけで回避していく。


 それも、槍から距離をとって躱すのではなく、攻撃が当たるか当たらないかというギリギリのところでだ。


 リザードマンからすれば、「もう少しで当たりそうなのに……!」と歯がゆい思いをしていることだろう。


 これが人間であれば、もう少しで当たりそうなのではなくあえてギリギリで躱していることに気づいたはずだ。


 だが、リザードマンにはそこまで理解するだけの知能がなかった。


 だから、リザードマンはさらに攻勢を強めるという選択をする。

 

 そんなことをしても何の意味もないというのに。


 当たらない。


 フミヤは以前と変わらず、紙一重で槍を躱している。


 そして――。


 フミヤの拳が、リザードマンの胸部に叩きこまれた。


 鉄に匹敵すると言われるほどの硬さを持つリザードマンの鱗だが、強化されたフミヤの拳は鉄をも上回る強度を持つ。


 フミヤの拳はあっけなくリザードマンの体を破壊した。


 体をバラバラにされたリザードマンは、あっけなくその命を散らしたのだった。


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