第4話
他の受験生たちの視線を感じながら、フミヤは試験官と向かい合った。
試験官は最初の小柄な女性から中肉中背の男性に変わっている。
特にトラブルなどがあったわけではないが、一人ですべての受験生の相手をするはずもないので、当初から予定されていたことなのだろう。
(なんか気持ち悪いな)
この会場には何十人もの受験生がいるが、一度に試験官と戦う受験生は一人のみだ。
そのため、必然的に他の受験生に自分が戦う姿を見られることになる。
魔物を狩っている時など、今まで戦っている姿を他人に見られたことがないわけじゃないが、こういった形で注目されるというのはどうもやりにくい。
「では、そちらからどうぞ」
試験官からそう促される。
今までフミヤが受けた試験も、今回の試験も、試験官から先に攻撃してくることはなかった。
受験生の力量を把握するのが目的だからだ。
基本的に実力が上の試験官が先に攻撃をすると試験が早く終わってしまい、きちんと実力を評価できない可能性がある。
フミヤは目を閉じ、一度深呼吸をした。
そして――。
「いきます」
フミヤは駆け出した。
そして距離を詰めると、試験官の頭部めがけて剣を振り下ろす。それは当然のごとく試験官に受け止められたが、少し感心したような表情を試験官は浮かべた。
今まで戦った受験生たちの中では、一番いい攻撃だったからだ。
だが、力負けしている。
こっちは全力で押しているというのに、試験官はびくともしない。表情も必死の形相を浮かべるフミヤに対し、試験官は平然としている。
試験官の身長は、せいぜい170センチを少し超えた程度。それも痩せ型だ。
190センチあり、体の厚みもそれなりにあるフミヤに、本来なら勝てる道理はないはずだ。
だが、最初に小柄な女性が大柄な青年を圧倒したように、探索者の世界では見た目上の体格など何の意味も持たない。
(……実力は向こうの方が完全に上だな)
一度刃を交えただけでそれを理解したフミヤは、一旦距離をとることにした。
(この戦い、勝つのは無理だ。でも、だからって不合格だと決まったわけじゃない。実力を試験官にアピールできれば、十分にチャンスはあるはずだ。俺は最後まで絶対に諦めない)
まずは、試験官との距離を詰める。
そして攻撃。突きで顔を狙う。
フミヤの優れた身体能力によって生み出されたその攻撃は、常人ならばまず回避は不可能だっただろう。
だが、相手は常人ではない。
試験官は自らの顔を狙った突きを己の剣で容易く逸らしてみせる。
だが、これこそがフミヤの狙いであった。
先ほどの一撃はあくまで陽動。全力ではなく、七割の力で放ったものに過ぎない。
しかも逸らされることを想定し、次の攻撃に移るために打った布石だ。
本命はこれから放つ攻撃。
試験官の剣が己の剣に触れた瞬間、フミヤは虚空を斬りつけるようにして剣の軌道を変える。
そして、それを利用して一瞬で溜めを作ると、斜め下から剣を振るい試験官の胴を斬りつけた。がら空きになった試験官の胴体に、フミヤの剣が迫る。
(これで――)
攻撃が通った。
そう思ったフミヤが、次の瞬間目を見開いた。
彼の攻撃は、試験官の剣によって受け止められていた。
(っ!? 読まれていたのか?)
自信はあったのだが、相手は地力でも経験でも勝るランク4の探索者だ。防がれたからといって落ち込む必要はないだろう。
と、そんなことを考えている場合ではなかった。
(まずい!)
攻撃が来る!
そう思ったフミヤは慌てて距離をとるが、予想に反して試験官は反撃してこなかった。
試験官は口を開く。
「あなたの実力はだいたいわかりました。次はこちらからいきますよ?」
そう言い終わった次の瞬間、試験官が走り出し距離を詰めてくる。
(嘘だろ!? もうかよ!?)
防御に徹していた試験官が攻撃に転じる。
それは、実質的に試験の終了を意味する。今までの受験生たちは、そうやってやられてきた。
受験生の実力を把握したので、もうこれ以上試験を続ける必要はない。
そう判断した時、試験官は攻撃に転じるからだ。戦いを終わらせるために。
だが――。
(まだ諦めるな! 攻撃を防げれば、希望はある!)
試験官の攻撃を防ぐことができれば、それは試験官の予想よりもフミヤの実力が上回っていたことになる。
そうなれば、試験続行か、もしくはたとえ試験が終わったとしても好印象を与えることができるだろう。
試験官が距離を詰めてくる。
そして、剣でフミヤの頭部を狙って突きを繰り出してきた。
(まさか……!)
その時、フミヤの頭にある予測が浮かんだ。
もしかすると、試験官は先ほどフミヤがやったのと同じことをしようとしているのではないか?
つまり、突きで頭を狙うと見せかけ、それは囮で実は胴を狙っているのだ。
仮にそうだとすると――。
(受けて立とうじゃないか)
試験官は、自分の手を読まれていることを承知の上で仕掛けてきている。
つまり、それでもなお攻撃を通す自信があるということだ。
ということは、もしこの攻撃を防ぐことができれば絶好のアピールになる!
(やってやる!)
フミヤは試験官の突きを、剣で払いのけるようにして軌道をずらす。
(次! 守るべきは胴体の右側!)
そして、フミヤは素早く剣を戻して胴体を守ろうとするが――。
「え……?」
フミヤの口から間の抜けた声が漏れた。
自分の目で見たものが信じられなかったからだ。
試験官の剣が、自分の胴体のすぐそばに添えられていた。
いつの間に……?
「それまで! 試験終了!」
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