第5話 ジュブラン領の所得3倍増計画2
魔法の知識については、ラママール王国には系統的なものはなく、経験的なものの積み重ねである。その点で、新興帝国として存在感を急速に増しているサンダカン帝国が魔法国家と言われるくらいで、圧倒的にその知識も実力も優れているとされている。
しかし、ライの場合には、ヒロトがライの人格の一部として一体化する際に、“どういう訳か”たぶん正しい知識を与えられている。ちなみにヒロトは、日本という科学技術が発達している国で現役の技術者として活躍していただけはあって、幅広い技術的知識と社会的知識を身に着けている。
しかし、それにしても、その知識は幅広すぎ、深すぎるが、これはどうも“えんさいくろぺでぃあ”というものが頭に入っている状態らしい。
ライは、父母と妹から成る家族に魔法の処方をするとき、魔法について説明している。父は、ライと時間をかけて話をしているが、母はまだライが急に大人のような話かたになっている点で納得がいかない様子だ。
「ライちゃんは、話し方も可愛いかったのに、そんなに大人のようになって、お母さんはちょっと悲しいわ」
ふっくらした金髪の優し気な母は悲しそうに言う。ライは母に抱き着いてなだめて言う。
「ごめんね。母さん。これは神の思し召しなんだ。22歳の僕が8歳の僕の体に入っているので、しょうがないんだ」
ちなみに母はいま妊娠の初期で、6ヵ月後にはもう一人の妹が生まれるはずだ。
「さて、続けるね。魔法というのはさっき言ったように、頭のここのあたりにある器官に魔力があって、それを人の意思であやつって様々な現象を起こすことを言います」
ライの言葉に父は頷き、母は首を傾げ、賢いミーシャは半分わかったような顔をしている。
「魔力は、持っている大きさには個人差があって、大きい方が当然使える魔法の種類もその力も大きくなります。全く魔力を持っていない人はいないとはずで、皆ある処方をしてやり方を教えれば、自分の魔力を体に巡らせることができます。
魔力を体に巡らせることで体の機能が活性化強化されて、身体強化の状態になりますし、多分頭の働きもよくなるはずです。魔法は、その魔力で空気中にあるマナを操って、様々な現象を起こすものです。
ですから、ある程度以上の魔力の持ち主以外には魔法は使えません。さらに、魔力は6歳から20歳までは使えば使うほど成長しますし、それも空っぽになるまで使う方が有利です。だから、ミーシャは今でも結構大きな魔力を持っているから、鍛えればたぶん、王国でも有数の魔術師になれるぞ」
ライの説明に父が口を挟む。
「では、私たちはもう、成長しない訳だな。しかし、私とミワ―ランは魔力がないから、魔法は使えないし、身体強化も出来ないと言われてきたが、どの程度の魔力かな?」
「はい、母上の方が大きめですが、二人とも魔力はちゃんとあります。それを、活性化する方法が知られていないために、魔力がないと言われてきたのです。どちらも、身体強化はもちろん、ある程度も魔法は使えるようになるでしょう。また、ミーシャは相当魔力が大きくて強力な魔法が使えますよ」
ライの言葉に、ミーシャがはしゃぐ。
「わーい!魔法が使える。うれしい。わーい!」
「うん、では、処方をやりましょう。ミーシャもお母さんの横に立ってね」
3人がライの前に立つと、ライは話しながら魔力で各々の前頭葉にある魔力のある器官に働きかける。
「どう、ここが皆の魔力が宿っている場所だよ。いま僕が刺激しているけど、自分の魔力が感じるかことができるかな?」
ハヤトの言葉に口々に答える。
「ああ、感じるな。これが魔力か」
父が言う。
「ええ、ハヤトの手みたいなものを感じるし、私のこれが魔力ね」
母も目を閉じて言う。
「わあ!お兄様を感じるわ。これが魔力ね。なにかうねうねしている」
ミーシャが目を上に向けながら言う。
「じゃあ、それを体のそうだね。腹のあたりまで下し、また頭に上げてみましょう」
父 と母は目を閉じて黙ってライの言うことをやっているようだが、ミーシャは口に出して言いながらやっているようだ。
「うーんと、これを下に、おなかの方にと……。あ!動いた。下に、下に。ああ、もう動かないや。次は上に、上に……」
「そう、その調子で下に、上にぐるぐる回してください」
しばらく続けると、ミーシャが叫ぶ。
「ああ、体がポカポカしてきたような、また軽くなったような気がする。また、なにかうきうきするような」
「うん、それが魔力を体に循環させている状態だよ。身体強化も魔法を使うときもその状態から始めるのだ。では、身体強化のやり方だけど、その回している魔力を体の隅々に行き渡らせるように意識してください」
ライの言葉に、皆目を閉じて、言う通りにやろうとするが、一番先に声を挙げたのは母のミワーランであった。
「できたと思うわ。今は体の隅々まで力がみなぎっているような気がする」
「出来たようですね。その状態に行けた感覚を忘れないように、その状態で少し待ってください」
ライは言いながら、父とミーシャを観察すると、やがてミーシャが叫ぶ。
「体に力がみなぎってきたよ!体が本当に軽いような気がする」
「うん、どうやってその状態になったかキチンと覚えておいてね。その状態で少しまってね」
ライは母と妹の魔力が行き渡っているのを確認しつつ、ミーシャに声を掛けて父の様子を窺う。父も、もう少しのようだ。
「うん、出来たようだ。一度できれば、今度は問題ないな」
父がやがて言ってほほ笑む。
「皆、出来ましたね。では、軽く右足で跳んでください。軽くですよ、軽く!」
ライは後に仲間の子供たちにやらせるように、ジャンプをさせて、外に出て軽く走らせる。普通ならあり得ない大きな歩幅で軽く走る父の傍らに、ミーシャは張り切って走っているが、妊娠している母については、走るのはやめてもらっている。
「さて、もう一度ここに集まってください」
ライが手で自分の前を示すと、再度家族が集まってくるので、ライは話しを続ける。
「わかったと思いますが、これが身体強化です。多分、普段の倍以上の力を出せますし、鋭敏さも倍程度行くと思いますよ」
「うむ。この状態に持っていける者といけないものでは勝負にならんな。身体強化ができたものが強いはずだ。しかし、ライ。お前は身体強化は誰でもできると言ったな?」
父の言葉に、ハヤトは頷く。
「そうです。誰でもできるはずです」
「では、農民も職人もできるはずだな。その場合、彼らの働きが大きく違ってくるだろう?」
父の言葉にライは曖昧に頷いて言う。
「たしかに、言われるとおり、身体強化をやっている間はそうです。しかし、普通の魔力の持ち主だと、強化は精々2タル(1時間)続けばいい方でしょう。だから、これぞというときに2倍以上の力が発揮できますから、大いに役には立ちますが、全体としての働きが大きく改善されることはないですね。
その意味では、兵士の場合には多いに有用ですよ。2タルの間、普通の倍の力と鋭敏さの発揮でいる兵が、どれだけ有用化は言うまでもないですよね。また、身体強化の間に普通の倍の動きをすれば、概ね普通の倍近く腹が減ります。ですから、食事に気をつけてやる必要があります」
「なるほど、それは使い方を考えないといかんな」
父は顎に手をやって考えながら言う。
「では、次は魔法の使い方です。魔法は火、風、土、水、光、空間魔法などがあります。よく属性ということが言われますが、基本的には絶対的なものではなく、得意と苦手程度のものと考えてください。ち
なみに空間は、空間収納や瞬間移動など非常に便利ですが、よほど大きな魔力がないと使えません。かくいう僕もまだ使えませんから、ラママール王国には使える人はいないでしょう。
あと、魔法では無から有は生じませんし、基本的にマナの性質と物理法則に従います。ですから、これらについて、正確な知識を持っていれば、使う際には非常に有利です」
ライが一旦言葉を切ると、父が聞く。
「マナの性質というのは、魔力で操れるものであるということだな?しかし、物理法則とは何かな?」
父の質問にライが答える。
「マナはその通りですね。実際に、この世界にマナがないと魔力があっても、身体強化しかできないところです。しかし、火魔法は実際には熱を出して、マナを燃やしているのです。
物理法則とは、物を持ち上げるためには力が必要とか、水を冷やすと凍るとか熱すると蒸発するとかのことで、これを知って魔法を使うのとそうでないのとでは、大いにその効率が変わります。
こうした、知識を科学と言います。この科学の知識は、領で開く予定の学校で教えるつもりです。科学は農業にも大いに役に立ちますからね」
その後、ライは自分で見本を見せながら、皆に魔法の初歩を教えて行った。父母は小さな火を灯し、軽いものをマナで持ち上げ、空中から水を集める、さらに明かりを灯すことができる程度のことはできることが判った。
これらは、生活の中では便利ではあるが、産業に使ったり戦いで使えるものではないことも判った。父は口には出さないが落ち込んでいる様子であったが、母は喜んだ。
「これは便利だわ。私は、家事をしなくてもいいような奥様ではないから、毎日の家事に大変助かるわ」
一方で、ミーシャは桁が違っていた。彼女は火を出せば温度こそライより低そうだが、同じ程度の火の玉を出せ、かつそれを飛ばすこともできる。さらに空中から水をバケツ一杯程度の水を出せ、自分の体を持ち上げてみせた。
特筆すべきは、錬金の能力を見せたことであり、その魔力を伸ばすためにも、肥料生産に励んでもらえるなとライは大いに喜んだ。
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