第3話 ライの覚醒3

 ライはなおも父に言う。

「今後、何もしなければ我が家を襲う運命は今言った通りです。私が最後の戦いに出るとき、上の妹のミーシャはすでに嫁ぎ先の3つ隣のセーガル子爵家が炎上した時、自害しました。

 そこで母上と、まだ今はまだ生まれていないリリーカルは、家令のリーガンをつけて落としました。しかし、最終的には行き場はないと思います。父上!この運命を変えましょう!」

 ライは父に激しく言って、その目を見つめる。


「うむ。どうやら、ライの言うことは本当のようだな。私は、信じられるようになった。しかし、だと言って、私は父としてライのことをよく知っているから、信じられたが他の人々から信じてもらえるとは思えない。ライはそのあたりをどう考えているのか?」


「はい、私は単に若返っただけではありません。魔力は前と比べると段違いに強くなっていますし、何より私の頭の中には異世界の“えんじにあ”だった人の膨大な知識が詰まっています。

 その中には魔力の効率のよい使い方もありますし、自分で魔法は使えないと思っている人を使えるようにする知識もあります。さらに、この方の影響が大きいと思いますが、我々が豊かになれる沢山の知識があります。例えば、裏の山の中に入ると赤茶けた岩山がありますよね。あれは、実は鉄で出来た岩山なのです。

 我々には碌な知識がなかったので、あれを使う方法がわかりませんでしたが、あれから様々な鉄の道具、剣だって作れます。それと、我が領の主生産物は小麦ですが、1エル(1000㎡)あたりの生産量は300ブル(150㎏)程度ですよね。それも割に良くできた年で」


「うむ、そうだな。その程度だ」

「この生産量は、その3倍にはできます。ただし、肥料というものを使えば。大体、森を切って新しく開いた畑は1000ブル程度いくこともあるでしょう?」


「そうだ。確かに新しく開いた畑は、それくらいだな。だんだん落ちていくが……」


「それは、最初は森から与えられた栄養分がたくさんあったのが、小麦がそれを吸収していくのです。ですから、その栄養分を肥料として足してやればいいのです」

 そういうライを父はじっと見て言う。


「そうか、それもお前が与えられたという知識か?」


「そうです。まず、私の魔法を見てもらいましょうか。これが、人に一番信じてもらえる方法でしょう。外の前庭に出てもらえますか。そうだ、母上とミーシャにも見てもらいましょう」

 ライは、母のミワーランと妹のミーシャを呼びに行って庭に出ると、執事のリーガンも出てくる。父はすでに庭の木製のベランダに腰かけている。


「僕は魔法が使えるようになったので、皆に見てもらいたい」

 ライは、父に並んで腰かけた母と妹さらにそばに立った執事に声をかける。


「ええ!お兄様。なんで魔法がつかえるようになったの?」

 妹のミーシャが叫ぶ。


「うーん、“ミーナル神”様のおかげかな。今からこの国は大変な争いに巻き込まれるんだよ。だから、僕がそれに対して、ミーシャや母様を守るためにこの力を下さったのだと思う」


「ふーん、そう。でも見たい。お兄様の魔法を見せて!」

 妹の言葉にライは、空中を満たしているマナを集めることを意識して、その中心で高振動を発生させる操作をしながら叫ぶ。


「では、まず火から!ファイアボール!」

 その声に答えるようにマナの塊が着火する。その直径が30㎝程の炎の色は、最初はオレンジだったが、だんだん白っぽくなって遂には青白くなってくる。


 ライは、近くでは危ないと考えて、そのボールを庭の先にある高さ20mほどもある岩山に投げつける。岩山には、灌木がへばりついているほか、苔が半分ほどを覆っていたが、バシュ!と音を立ててファイアボールがぶつかり、数秒してそれが消えた後には、苔は全く消えてしまい、灌木の根のみがくすぶりながらも燃えている。


「うわー!すごい、兄さまの魔法すごい!」

 ミーシャが手をたたいて喜び、母もニコニコして手をたたいている。


 しかし、父は目を剥いていた。彼は、王宮で宮廷魔術師のファイアボールを見たことがあったが、大きさは同じ程度だったが、もっと赤っぽい炎で、かつあのように空気の揺らぎは出ていなかった。また、前に見たファイアボールはふわふわ飛ぶ感じで、あのようにビュンという感じではなかった。


『どうも威力が違いそうだな』

 父は思ったが、ライはさらに続ける。


「次は風ね。まず、あの材木を持ち上げます。それ!」

 庭の隅に置いていた、太さが30㎝長さは5mほどもある材木をライは指差し、掛け声共に、いわゆるテレキネシスでさっと持ち上げる。


 さらに2mほどの高さで持ち上げたまま、「では、風の刃でこれを輪切りにします」と言って「ほい!ほい!ほい!」と端を長さ30㎝程に輪切りにしていく。


「ワー!兄さま。すごい、すごい」ミーシャは喜んでさらに手をたたく。

ライは5つ輪切りを作ったあと、材木をそっと元の場所に置き、さらに言う。


「さて、次は土魔法だ。今から塔を建てます」

 ライは地面を指さして、手をゆっくり上げると直径1mくらいの土の柱が立ち上がってくる。それはどんどん高くなり、7mほどで止まり、ライはミーシャに呼びかける。


「これ以上は抵抗が強いようだね。ミーシャ触ってみるかい?」


「うん!触る、触る。お母様も」

 ミーシャはかわいい手で、母の手を引いて土で出来た柱に駆け寄ってくる。父も歩み寄ってくるがライに声をかける。


「これは見事だな。表面は固くしているようなだね」

 そういう間にも、ミーシャも柱について、夢中でその表面を撫でている。


「わあ!すべすべ。手が汚れない」


「ああ、そうさ、表面は固めているからね」

 ライは言って皆に存分に触らせてから声をかける。


「ようし。ではこれは引っ込めます」

 言った途端に、柱はするする!と地中に潜り込み跡形もなくなる。しかし、良く見れば柱の跡が丸く残っている。


「わあ!無くなっちゃった。すごーい」

 ミーシャが叫んだあとライは父に言う。


「じゃあ、次はちょっと大事な能力だね、土魔法だけど、一種の錬金術です。うーんと、そう庭の土の中にある鉄を集めます。この土には、結構鉄が入っているようです」

 ライが両手のひらを広げて手を下に向けたその掌の間に、もやもやと何か光るものが集まってくる。やがてそれは、はっきりした球形になって、直径5㎝程の銀色に輝くボールになり、ライの掌に収まる。


「父上、鉄のボールです。重いですよ」

 ライはそれを片手で父に渡す。父はもっと軽いと思ったのだろう、受け取った手がぐっと下がるが、さすがにこらえる。父は顔に近づけてそれをしげしげとみる。


 ラママール王国のような前工業時代には、精錬した鉄は高価なもので、1㎏で小銀貨1枚の10ダインもする。10ダインあれば、貧しい一家の一日の食事の材料費程度であり、概ね日本円で千円程度であろうか。

 銅貨が1ダインであり、その下には鉄貨の0.1ダインである1ダン。上は大銀貨の100ダイン、さらに小金貨の500ダイン、金貨の1000ダインになっている。


 父はそれを手の中でもてあそびながら考えた。確かにこれは鉄で、いびつなものが多い鉄の球としては極めて良質なものである。重量はたいしたことはない(500g)ので、材料としての値打ちは知れているが、飾り物としては結構な値打ちもので100ダインしてもおかしくはない。


 しかも、ライは森の中の赤茶けた山が鉄でできていると言っている。ライが、いま錬金術で取り出した方法で、鉄を取り出せばどれほどのものができるか。

そう思った時、自分のズボンを引っ張るものに気がついた。


「お父様、ミーシャも触りたい」

 娘が自分のズボンを掴んで引っ張りながら、恨めし気に言う。


「おお、ごめん、ごめん。ミーシャも触りたいよね。重いから気をつけてね」

 言いながら、両手で娘に丁寧に渡す、可愛い娘には甘い父であった。その球を熱心に見つめているミーシャを傍らに、父はライに聞く。


「庭から鉄を取り出したようだが、裏山の鉄でできているという岩山からはどの位取り出せるかね?」


「はい、自分の魔法だと一日に1000ブル(500㎏)程度でしょう。しかし、鉄を生産する高炉という塔を作れば、簡単な高炉でも一日に2万ブル程度の精錬した鉄は楽々できます。もっと大きなものを作れば、その10倍でも100倍でもできます。ただそのためには燃料として燃える石(石炭)が必要ですが」

 ライの答えに父はうなって言う。


「ウーム。それが知識か。なるほどどうやって生かすか。考えないとならんな」

 それに対して、ライが言う。


「当面は、鉄で金を作りましょう。それから、私が、小麦の肥料というものを作ります。これで、領の小麦の生産量を上げて、それを見せて肥料を国中に広めましょう」


 ミーシャが鉄の玉にも飽きて、ライにねだる。

「兄さま、次の魔法は?」


「うん、そうだね。火、風、土とくれば次は水だね。いいかな、ウオーターボール!」

 ライは向かい合わせた手のひらの中に水の玉を生み出す。これは周辺の空気中も水分を集めるものであるため、徐々にボールは大きくなって、やがて直径は30㎝程になる。


「すごーい。大きなボール!」ミーシャはライに寄って来て、ボールに手を突っ込んで首をかしげて言う。


「あら、あまり冷たくない」

 それに対して、ライは分子の動きを止めて温度を下げる。


「ほら、冷たくなっただろう」

 ライが言うのにミーシャは喜んで叫ぶ。


「わあ!冷たい」

 この水などを冷やす魔法は、夏には大いに重宝したものであるが、ミーシャも間もなくも魔法が使えるようになり、自分で冷たいものを作って食べすぎて腹を壊し母に叱られたのは夏口のことであった。


 最後に、ライは空中に浮遊して見せた。空にどんどん登っていくライを見て、ミーシャはむろん自分も飛びたがり、ライはミーシャを抱えて、暫くジュブラン村の上空を飛ぶことを余儀なくされた。

 こうした、魔法のデモストレーションが終わったあと、父がライに気づかわし気に聞いた。


「ライ、随分魔力を使ったようだが、まだ魔力は残っているかね。魔力ゼロになると気を失うらしいが」


「うーん、今日のいろいろやった結果でもまだ半分程度残っていますね。魔力も使い果たした方が成長すると言われているので、まだ足りませんね。ちょっと、鉄の精錬をしてきましょう。お金にもなるしね」

 そう言って、ライは裏山の鉱山まで飛んで行った。

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