第六話② 初めての敗北

 模擬戦では腕に腕章を付け、『相手の腕章を切断した方が勝ち』というルールが課された。また、授業では<継承器>の使用が許可され、『模擬』と名は付くものの、ほぼ実戦に近い形式の授業だった。

 カイは赤の、ベレトは青の腕章を身に着け、修練場に立った。

 これまで続いてきたベレトとの勝負に決着をつけると思うと、カイの手は興奮と緊張で震えた。カイは震える手を抑え、改めて気を引き締めた。

 一方ベレトは、指を鳴らしながら、鋭い目でカイを睨みつけた。殺意を感じるほどの眼力にカイは怯みそうになるものの、負けじと睨み返した。

 ハヤテ、エミール、ブラウは、場外から静かに見守っていた。


「両者、武器を構えよ!」


 審判を務めるミザールの合図を受け、向かい合う両者は剣を抜いた。修練場の窓から差し込む日の光に照らされ、カイの剣が白く、ベレトの剣が黒く煌めく。

 互いを睨み合ったままの静寂は、永遠にも感じられた。その静寂を、審判の声が破る。


「三、二、一……始めぇ!!」


 戦闘開始の合図に合わせて、ベレトが真っ先に駆け出した。

 一気に間合いを詰め、カイの頭めがけて、上から勢いよく斬りかかった。その勢いに、カイは驚いた。


(殺す気かよこいつ!?)


 カイは慌てて自分の剣を頭上に構えて、攻撃を防いだ。


(お、重い……!)


 想像以上の重さに押し負けそうになるものの、地に着く足に力を込め、どうにか踏ん張る。しかし、剣を持つ腕は徐々に下がってきていた。ベレトの剣がカイの頭の数センチ上にまで届いた瞬間、カイは腕に力を込めて、剣を思い切り弾き返した。その勢いで、ベレトの剣が場外に飛ばされるのだった。


(チャンス!)


 そのまま、ベレトの腕章を切ろうとしたその時。

 カイは顔の真ん中に、鉄球が真っ直ぐに飛んできたような強い衝撃を覚えた。そして、カイの体は後ろに飛ばされ、そのまま場外にでて、壁にめり込むのだった。

 カイは何が起きたのかわからなかった。

 模擬戦を見ていたハヤテたちも、一瞬の出来事に何が起こっていたのか理解できなかった。

 ブラウとミザールは、その攻撃の出所を見ていた。彼らの視線の先には、力が抜けたように左腕をぶら下げるベレトの姿があった。その様子は、ベレトの左拳が、カイの顔面目掛けて真っ直ぐに飛んでいたことを表していた。

 カイは壁から地面に倒れた。そこにベレトが歩いてきて、カイを冷たく見下ろした。そのまま彼のそばにしゃがみ込み、腕章を引きちぎる。そして、カイの耳元で、温もりのないひどく冷たい声で囁く。


「調子に乗るなよ、雑魚が」


 その言葉を引き金に、カイの意識は薄れ始める。


「今回の模擬戦、勝者は──ベレト・ゴエティウス──」


 カイは、ミザールの声が遠くから聞こえた気がした。しかし、よく聞き取れず──あるいは、聞きたくなかったのか──カイの意識はそこで途絶えるのだった。

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