LAST BRAVER

ウーゴ

第1話「伝説」

これは古い古い言い伝え…この大地は深淵から放たれた闇の権化〈魔物〉が支配していた。魔物は意思を持たず、その圧倒的な力であらゆる命をその牙と爪で奪った。

だがいつか魔物への恐怖さえも凌ぐ、怒り、愛、悲しみが邪悪と戦う〈力〉を生み出した。

 そしてその力の真価を見出だした者が現れる。嵐を司る異端の魔女フィオ。輝く彗星の巨駆を持つ巨人の王メルテル。黄昏の支配者、古竜ヴァギルシア。魔物殺しと呼ばれた最強の英雄、ウォルゼ。

 それら四英雄はその強大な力をもって魔物に戦いを挑んだ。大地を埋めつくす魔物たち。魔女の暴嵐が塵に変え、巨人の剛腕が押し潰し、竜の火炎が悪しき怪物たちを焼き尽くした。

 そして…勇者の剣が最後の魔物の血によって染まった時、戦いは終結したと云われる。彼らがいなくなったその後、長い年月が経った。つかの間の平和は破られ、時代は人間が造りし帝国アヴァンロードが時代の台頭となった。

 だが限られた者を除いて深淵から再び闇が這い上がってくることを誰も知らなかった。

これは世界の存亡を懸けた、伝説の勇者とその仲間達による大いなる冒険の記録である。


 大きな戦争があった。闇の吸血一族〈シャドウマンサー〉と人間の帝国〈アヴァンロード〉の戦い。熾烈を極めた戦争は約5年間続いたと言われる。

 焼け落ちていく城の中で吸血鬼(ヴァンパイア)の少女はアヴァンロード軍の追手から逃げていた。屋上までなんとか生き延びたが、しかし、人間の兵士たちに行く手を塞がれてしまった。兵士達が弓を放ち、その鋭く輝く矢じりが少女に突き刺さろうとした瞬間、伸びた〈影〉が矢を弾いては兵士たちを切り裂いた。影の主が少女の前に現れる。その者の名はオルダ・ブラドナイト2世。ウルナの父にして吸血鬼の王だった。

 満身創痍の王に少女は焦燥と不安に混じり合った表情で彼を心配する。


「父上!大丈夫ですか⁉腕にお怪我を…」


「触るんじゃない‼」王は激怒して少女の歩みを止めさせた。


「これは〈聖魔導〉だ‼触れば弱いお前の腕も消え去るぞ‼」


 怯える少女を見て父親は咄嗟に我に返り反省した。思わず戦の緊縛した状況で自分の娘に強く当たってしまった。そして彼は彼女に近づき、腰を低くし顔を見合わせる。


「…すまない。しかし聞いてくれ、今すぐエルネシア城へ向かうんだ。あの場所は我が一族の魔導術式で護られている。シャドウマンサーの生き残りも私たちだけ…お前だけでも生き延びるんだ」


「私も戦います!」


「ならぬッ‼」シャドウマンサーの王の覇気のある声が轟き少女はたじろぐ、しかし涙をこらえて拳を握ぎり締めて抗議する。


「嫌‼」王は溜息をつきながら呆れて彼女を睨んだが、しばらくして笑みが零れた。娘の成長を感じることができて嬉しかったのだ。


「私が知らないうちに強くなったなウルナ…。だが〈奴〉は誰の手に負えるものでもない…底が知れない」


 その瞬間、二人の頭上から光の剣が降り注いだ。父は自身の闇を盾に変型させ娘を庇った。少女は父の安否の伺おうとしたがその眼は憎悪に燃えており、彼はその者の名を口にした。


「〈アヴァンロード〉…!」


 燃え盛る火炎から歩み出る深紅の鎧の帝王、その兜には鬼のような角が飾られ、猛禽類のような鋭い瞳が特に印象的だった。だがなにより突出していたのは周りに与えるその覇気だった。王は耐えてはいたが少女は恐怖していた。

 帝王は彼ら一族を褒め讃え拍手した。


「素晴らしい…素晴らしいぞシャドウマンサー。貴殿らの種族ほど我が帝国に抗ったものはいない。賞賛に値する」


「何故他の種族を襲うアヴァンロード…いや質問を間違えたな…貴様は一体何者だ⁉それほどまでの力は人の身では有り得ぬ!何を代償にした⁉」


「滅ぶ者に言う価値があるのか?極限魔導…〈滅刃の剣陣〉(ロスト・ブレイド)」


 凄まじい魔導の力が空気を震わせる。幾千の魔導で強化された剣が現われ、彼らに襲い掛かる。王の盾は剣を防いではいたが着実に傷を残していった。盾は割れ始め、シャドウマンサーの王はある決意をした。


「第三上級魔導〈影の拘束〉(シャドウ・チェーン)」


少女の手足に影の枷が組み込まれる。一方、魔導の剣がオルダの右肩を貫く。


「ぐあッ!」


「父上‼」


しかし彼は再び足に剣が突き刺さり、王は激痛で顔を歪めたが渾身の力で魔導を唱える。


「第四超級魔導〈強制転送〉(ストロポート)」


 帝王はオルダの魔導を阻止しようと〈滅刃の剣陣〉(ロスト・ブレイド)を少女に向かって放つ。滅刃の刃先が少女の命を奪おうとした時、オルダが両腕を広げて彼女を庇った。

 少女はその黒い瞳を大きく見開いた。目の前に立っているのは串刺しになった自分の父親。起きている現実を受け入れることが出来なかった。

 彼女が転送によって姿が消える中、シャドウマンサーの王は吐血しながらも笑って娘を見送った。


「生き延びろよ我が娘…ウルナ」


 転送が完了する刹那、オルダの心臓を剣が貫いた光景を見て彼女は叫んだ。その叫びは現実と繋がり、彼女は夢から覚ました。キングサイズのベットから上体を起こす。


「ああ…夢か」


否、泡沫の夢であったらどんなに良かったか。


「…忌々しい過去だ」


 窓から差し込む月光が彼女の薄白い肌を撫でるように照らす。あれから身を潜めておよそ10年、ウルナ・ブラドナイト三世はシャドウマンサーの生き残りにして最後の王位継承者としてひっそりと生きていた。

 彼女は身を潜め実に退屈な日々を送っていたのだ。


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