第10話 レオンの物語

「勝者 レオン!!」


響き渡るアナウンス。目の前に1匹のスライムが倒れていた。何が起きたのか分からない。状況が掴めない。


周りを見渡すと、多くの人やモンスターが盛り上がっていた。


「やっぱりスライムは弱いな」「雑魚スライム!!」


そんな罵倒が目立ち始める。目の前にいたスライムを見て、漸く全てを思い出した。


僕は、、アレックスを殺してしまったんだ……。相棒として過ごしていたのに。自分が生きたい為だけにアレックスを殺してしまった。


アリスもアレックスも居ないこの世界で、、どう生きていけば良いの。


アレックスは、3人の人間に暗闇の向こう側に連れて行かれた。


「必ず助けるから……」


小言を言いながら観客席の方に戻った。観客席に戻ると、メリッサが涙を流していた。僕も黙って、メリッサの隣に座った。


メリッサも相棒のクリスティーヌを亡くし、悲しんでいた。


どんな言葉をかければ良いかも分からず、重い空気が2人を包み込む。


「次のバトルは、、ハルカvsバスター様」


アナウンスが鳴り響くが、僕は興味が無かった。もうお金稼ぎなんてどうでもいい。僕は、会場の外に出た。


気分転換に街の中を歩いていると、1人の少女が魔法を使う練習をしていた。


「アイスロック!!」


氷の魔術を使おうとしていたが、魔法の杖から氷は出ていない。まだ未熟な魔法使いなのかな……。


『見て!!魔法使えるようになったよ!!』


脳内に再生されたのは、アリスの言葉だった。小さい頃、アリスと僕とレオナルドの3人でいつも遊んでいた。3人でかけっこやかくれんぼをした。アリスとレオナルドと遊んだ日々、レオナルドが居なくなった日の事を思い出した。






5年前、


「おにいちゃん、だれがいちばんはやくはしれるかきょうそうしよう」


アリスが僕とレオナルドに提案してきた。


「良いよ」「まあ暇だから……良いよ」


レオナルドは変な靴を履いていた。踵の方にエンジンっぽいのが付いていた。このままじゃ負けるかもしれない。僕も長い棒を1本持って、スタートラインに立った。


「ふたりとも、なにしてるの?」


アリスに気づかれた。怒られると思っていたが、アリスの手に魔法の杖があった。アリスは最近、2歳になって魔法使いという職業に決めたばかりだ。


この世界では、5歳で成人を迎える。それぐらい成長がみんな早い。でも、、まだ魔術は使えないだろう。


「あそこの木までね」


スタートラインから木まで100メートルぐらいはあるかな……。まあ行けるだろう。

 

「まけたらいちいの人のいうことをきくこと!!」


アリスがそう言い、僕達は頷いた。負けるはずが無い。僕達の戦いに手加減という言葉は存在しない。ガチの勝負だ。


「よーいどん!!」


「よっしゃーー行くぜ!!」


レオナルドは、手に持っていたボタンを押すと、エンジンが掛かり急加速をはじめようとしていた。


レオナルドの職業は研究者。剣も魔法も得意では無いレオナルドは、いつも僕との勝負に負けていた。


そんなある日、僕にレオナルドから勝負を挑んできた。いつもは僕から勝負を挑むが、この日は違った。バトルが始まると、レオナルドは姿を消した。


何処にいるか分からない中、突然剣で襲われた。初めて僕はレオナルドに負けた瞬間だった。それからレオナルドにバトルで勝つことは無かった。


だから、、このかけっこぐらいは……。


急加速しようとしたレオナルドの靴を、勢いよく棒で叩き壊した。


「中々やるな……」


そう言うと、レオナルドは姿を消してしまった。姿を消す方法がまだ分かっていない。いつの間にか手に入れていた。アリスはまだスタートラインで立ったままだった。


僕も全力で走り始めた。毎日、山を登り鍛えたこの筋力で勝ってみせる!!


レオナルドの姿がゴール付近で見え始めた。僕とレオナルドの距離は、、10メートルぐらい。この棒を投げて当たれば……。勝てるかもしれない。


一か八か棒をレオナルドに向けて投げた。


突然、不思議な事が起きた。その棒が浮いたまま止まっている。



――僕とレオナルドの時が止まった。


体が動かない中、目の前をアリスが歩きながらゴールの方に向かっていく。そして、ゴールの木にタッチした。


「やったーかった!!」


時は戻り、僕達はアリスの方に向かった。時を止める魔術を使えるなんて……。


時を止める魔術は、この世に存在する中で最強の魔術と言われている。時を止める魔術を習得するには、5年はかかると言われている。


最近、テレビでこんなニュースが流れていた。


「時を止める魔術を習得した人が現れました。100年前に現れ、姿を消した魔法使いが、時を超えて復活しました」


そんな力を妹のアリスは秘めていた。

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