第9話 スライムVS勇者

会場に向かう時、レオンは僕に言った。


「全力で戦おう。俺は、お前に勝つ秘策を用意している」




――歓声に包まれ、盛り上がりを見せている会場に僕は姿を現した。


僕は、全力で戦う気は無かった。勝つ意味が無い。たった数日間しか出会ってないけど、レオンと会って、家族の大切さを知った。


家族を捨てて、逃げてきた僕とは全然違う。レオンは、家族の事を大切に思っていた。


だから、アリスとレオナルド、お母さんとお父さんにもう1度会ってもらいたい。レオンの楽しそうな顔を見てみたい。死んだら見れないけど……。


僕が勝ったところで、この世界でどう生きていけば良いかも分からない。レオンがいたからここまで生き延びる事が出来た。


あの時、アリスの攻撃を受けていれば、、僕は死んでいたかもしれない。レオンは命の恩人だ。


そんなレオンを殺せるはずが無い。


「バトルスタート!!」


レオンはバトルの始まりと同時に剣を持って、僕の方に走ってきた。その剣は、電気を纏っていた。その剣で僕を切った。


ビリビリ


体が痺れる。同じような事が前にあった気がする。


『サンダーショック!!』


そうだ。レオンと初めて出会った時、アリスに雷の攻撃を受けて、、動けなくなっていた。アリスがトドメを刺そうとした時、レオンが助けてくれた。


でも、、どうやって電気を纏う剣を作ったのか。もしかして……。昨日、戦う事をメリッサから聞いたとか。メリッサから魔法で電気を纏う剣を作ったのかもしれない。


『今からメリッサのところに行くからここで待っててね』


あの時、メリッサのところに行ったのは、これを作ってもらう為だったのか……。卑怯だな。


ビリビリ

 

動けなくなった僕に畳みかけるように、レオンは、ポケットから銃を取り出した。


――銃!?


レオンが銃を使っている場面を見た事が無かった。勇者は剣を使って戦う者だと思っていた。そんな固定概念に捉われずに、レオンは銃口を僕の方に向けた。


「ポイズンショット!!」


レオンはそう言って、銃の引き金を引いた。体が痺れて動かない僕に、、直撃した。


「う、、」


レオンが銃で放ったのは、毒だった。毒は全身に回り、体が再び熱くなる。あの時と同じだ……。毒を吐くを覚えて、すぐに使おうとした時、解毒が上手くいかなかった。あれから、何度も外で練習を繰り返したが、、解毒を完璧に物にすることは、出来なかった。


痺れと毒が身体中に広がり、体力を削られていく。


「お前のことは、全て知っている。まだ出会って全然経ってないけど、、アレックスと出逢えて本当に良かったよ」


地面が濡れている。スライムは歩くと地面が濡れる事がある。でも、今回は何だか違う。濡れた地面が温かい。


「アレックス、、泣くなよ……」


レオンに言われて初めて気がついた。これが涙だと。モンスターにも感情があり、人間と同じように生きている。そう実感した瞬間だった。


もっと一緒に居たかった。レオンの家族に会いたかった。ハルカを守りたかった。


色んな後悔が頭の中を過ぎる。でも、、もう終わりだ。これで全てが終わる。この異世界転生も終わりなんだ……。


レオンは、涙を流しながら僕を踏み、トランポリンのように上に飛んだ。


「サヨナラ……」


真上から振り下ろされた剣。僕は咄嗟に目を閉じた。今までの記憶が走馬灯のように蘇る。


『森の中にあると聞いた事があるが、どこにあるかはっきりと分からない。ねえ、突然だけど、僕の相棒になってくれないか?』


『相棒?』


『レベル60もあれば、大体のモンスターは倒せるし、僕と君は何だか合いそうな気がするんだよ』


相棒としての役目を果たせたかな。


『エクスカリバーインパクト!!』


初めての連携技。僕をトランポリンのように踏んで空に飛び、剣を真っ直ぐ振り下ろす技。もっと色んな技を2人でしたかったなあ。


「レオン、今までありがとう……」


――歓声に包まれる会場で、1匹のスライムの中にあった灯火は、静かに消えて行った。

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