#19.5 みゆきと沙尋のお茶会
「ねえみゆきちゃん、ここ東京本部には、最強の神門隊がいるって話はしたっけ?」
「え? あ、うん、聞いた気がする。津田カロニ先生が制圧された隊、だっけ?」
「そうそう、それそれ。東京本部で最強、つまり日本で最強、ってことね」
「沙尋くんは会ったことあるの?」
「いや、会ったことはぼくもないけど、でも、有名だからね」
「どんな人たちなの?」
「えっとね、隊長の神門深水さんは、小さい頃からFCCでね、ずっと戦闘訓練を受けてきた人なんだ。あ、でもこれ内緒ね」
「え、どうして?」
「だってさ、『FCCは小学校に入る前からこの子を英才教育してました。めっちゃ強いです』なんて言ってみ? 超炎上するよ? BBQだよ?」
「あ……そっか」
「ね、だから隊員はみんな知ってるけど、世間一般には秘密なの」
「FCCって秘密が多いなあ……」
「でね、その神門隊長は、蹴りが専門なんだ」
「へえー、珍しいね?」
「だからぼくもね、真似して蹴りで戦うスタイルにしたんだよ」
「あ、そうなんだ? 憧れってこと?」
「そうそう、めちゃくちゃかっこいいんだよー、蹴りでトドメ刺す神門隊長! 敵も最後はボカーンって爆発するしね!」
「ば、爆発!?」
「あ、もちろんCG加工ね。一般に見せられる動画は、最後フールが爆発することになってるんだ。人間に戻るシーンは見せられないでしょ。もちろん遺族にとっては気分の良くないものだから、許可取ったり、肖像権って名目でお見舞金渡したり、いろいろ気は遣ってるみたいだけど」
「へえー、そんな風になってるんだねえ」
「見たことなかったの?」
「うん……フール関連のニュースはね……あんまり見れなかったんだ……」
「そっか」
「あとねえ、神門隊はそもそも、広報用の部隊でもあるから、世間バレしないように気を遣った部隊でもあるんだよ」
「ん? どういうこと?」
「つまり、この人たちがテレビに出たとして、『あ! 先日フール化したはずの○○だ!』『あ! これは3年前に死んだはずのうちの子では!?』ってならない人たち、ってこと」
「ああ……そっか、そもそもそういう心配があるもんね」
「みゆきちゃんだって経験あるでしょ」
「う……あれはその……偶然が重なって……」
「その後、橘くんとはどうなの? 仲良くしてる?」
「い、いいじゃない、今は橘くんのことは!」
「えっへっへ、また詳しく聞かせてねえ」
「もー! で、バレないような人たちって、どういうことなの?」
「ああ、つまりね、4人のうち3人は、『幼少期にフール化して制圧された人』で、『10年くらい訓練漬けで世間に姿を見せなかった人』で、かつ『名前を変えて出自を隠した人』なんだよね」
「え、つまり、仮の姿?」
「そうそう、例えばさ、『難波隊の茅野みゆき隊員、大活躍!』みたいな新聞記事が出たとするでしょ? 君のお母さん、きっと卒倒するよね?」
「あ、それはびっくりかも」
「だから神門隊は大丈夫なように構成されていて、他の隊は名前が出ないようになってるんだよ」
「なーるほど」
「そういえばこれはぼくも詳しくは知らない話なんだけどね……」
「うん」
「過去に、『倒しきれなかったカテゴリー3』ってのがいるんだって」
「倒しきれなかった? それってどういう……」
「カテゴリー3って、変身時間は長くて2時間くらいなんだけど、短い個体だと1時間以下ってこともあるらしいんだよね。で、到着した隊が遅かったとか、相性が悪かったとか、逃げ回るタイプだったとか、いろいろあって、1時間かかっても倒しきれなくって、『人間に戻ったとき見失っちゃった』らしいんだよね。やばくない?」
「え……それやばい」
「でっしょ!? で、またカテゴリー3が発現する可能性があるから、探してるんだって。戦闘記録とか細胞記録とか、残ってはいるんだけど、さすがに姿が変わりすぎるから人間時代にどんな姿だったのかわかんない、ってさ」
「……発現したとき、周りにいた人たちに聞けば……わかるんじゃ?」
「あ、そうそう、そういうタイプもいるみたい。倒しきれずに人間に戻った人は、FCCが保護してる。まあ保護って言っても、軟禁みたいなもんだけど」
「ほえー」
「そういう人は、『生きていることを公表しても問題ない』ってことになってるね。ただまた発現する危険性があるから、外には出せないって感じで」
「そんな人、結構いるの?」
「いやー、稀だよ? 少なくとも大阪支部にはそういう人はいない。カテゴリー2を自分で抑え込んだ隊員、ってことなら寺沼さんがいるけど」
「あ、宮城隊の……色が薄かった人……」
「そうそう。知り合いが多い人なんかは、そういう場合でも保護しやすいから、まだマシなんだよね」
「でも、もともとが素性の知れない裏の人間だったりすると、フール化が解けた後も逃げ回っちゃったりして、捕まえらんないらしいんだよ」
「今も逃げ回ってる、ってこと?」
「そうそう、意外と身近にいたりするんじゃないかな」
「……過去に制圧された経験のあるカテゴリー3と、そうじゃないカテゴリー3は、私には見分けがつかないから……」
「だよねー、みゆきちゃんのその『色を見分ける力』も、万能じゃないよね」
「ごめん」
「いや、ちょ、謝らないで! そんなつもりじゃないっていうか! 責めてないから! 全然!」
「でもそんな話、私全然知らなかったなあ」
「まあ一番最近でも、5~6年前とかだからね。あんまり話題にはならないね」
「じゃあもし、そんな逃げてるカテゴリー3がまた発現したら……」
「絶対ニュースになるね」
「大阪に出ることも……」
「ありえるね」
「オペレーターさんに聞いたら、たぶん過去のフールの情報、教えてもらえると思うよ?」
「聞いとこっかな、いざとなったとき全然知らなかったら危ないもんね」
「ん、それがいいね」
「沙尋くんも聞いときなよ?」
「はーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます