第21話 後悔


 放課後になって、僕の席に佐々木さんがやってきた。

 いつもは佐々木さんと下校していたけど……今は蓮華と付き合ってることになってるからなぁ……どうなるんだ……?

 今日一日佐々木さんとはあまり目も合わなかったし、話す機会もなかったわけだけど。なんだか気まずい感じではある。

 この前のカラオケでの一件もあることだし。

 だけど佐々木さんは、まるでなにごともなかったかのように、ギャル全開の人懐っこい満面の笑みで僕に話しかけてくる。


「よ! カズくん、一緒に帰ろ?」

「え……あ、うん……」


 もしかして僕と蓮華のこと知らないのか? と思うくらい、普段通りの佐々木さん。

 そんな佐々木さんをにらみつけ、蓮華が口を開いた。


「ちょっと、佐々木さん! カズくんは私の彼氏なんだから盗らないでよね! カズくんとは私が一緒に帰るんだから!」

「あれぇ? 蓮華ちん、もしかして嫉妬してるの? あーしが毎日カズくんと帰ってたから」

「ち、違うし……! ただ付き合ってる彼女を放っておいて別の女の子と帰るのはどうなのかなって……」


 これは修羅場の予感しかしない……。

 蓮華からは、佐々木さんへメラメラ燃えるライバル視ビームが出ている。


「ま、別にあーしとカズくんはただの友達だけどね? ねー? カズくん?」

「え……あ、まあ、うん。そうだね」


 あらためてそう言われると、僕と佐々木さんの関係ってなんなんだろうか。


「ほ、本当に……? なにもないの……? カズくん!」

「え……な、なにもないよ……もちろん」


 僕は口ごもってしまう。

 たしかに、僕と佐々木さんの間に、恋愛感情はない……はずだ。

 だけど、この前のカラオケのことは……正直に話すべきなんだろうか。

 心配する蓮華をなだめるように、佐々木さんは。


「大丈夫だって蓮華ちん。本当にあーしはカズくんみたいな陰キャに興味ないから!」

「えー……」


 佐々木さんは、満面のギャル笑顔であっけらかんとそう笑ってみせた。

 さすがにそこまではっきり言われると、僕もくるものがある……。


「ほ、本当に……?」

「そんなことより、せっかくなんだから一緒に帰ろ? どうせ蓮華ちんも方向いっしょでしょ? ふたりのなれそめとか、あーしにもきかせてよ」

「う、うん……」


 なかば強引な佐々木さんにひっぱられるようにして、蓮華と僕と、三人で教室を出る。


「で……なんだこの状況は……」


 僕の右腕には、僕をとられまいとして、蓮華が胸を押し当てて、絡まっている。

 そして左腕には、あくまで友達としてのスキンシップ的な感じで、佐々木さんが絡まっている。

 ギャルってここまで積極的なものなのか……?

 間に挟まれている僕は、二人の間になおもバチバチとしたものを感じざるを得ない……。


「き、気まずい……」

「いいじゃん! 両手にギャルだよ? もっと喜べよ!」

「えぇ……」


 佐々木さんは笑っていうけど、絶対これ蓮華は怒ってるよね……?


 そのまま、三人で、周囲からのすさまじい視線を浴びながら下校する。

 佐々木さんは家が一番遠く、先に僕と蓮華の家に到着する。

 すると、蓮華は怒っているのか、そのまま不機嫌そうに家に入っていった。


「あはは……ごめんね、カズくん。もう明日から、あーしは遠慮するからさ」

「いや……うん、こっちこそ、なんかごめん」

「じゃ、また明日ガッコでね。あ、蓮華ちんへのフォロー忘れんなよ!」

「うん……あとで家にいって謝っておく……」


 僕が優柔不断な態度なのもいけないんだろうな……。

 でも、佐々木さんを突き放すことなんて、僕にはできない。

 佐々木さんは、それでもあっけらかんとした態度のまま、帰ろうと踵を返す。

 それを、僕は思わず呼び止める。


「あ、あの……佐々木さん……!」

「んー……? どした? カズくん」

「い、一応確認なんだけどさ……この前の……カラオケのキスの件……」


 そこまで言って、佐々木さんは察したように答えた。


「あー、あれね。ごめんごめん。ちょっと童貞のカズくんをからかっただけだよ? え? もしかしてマジに思ってた? うっそー! だったらごめんね? あーしらふつうに遊びでキスとかするからさ。あれはもう忘れて! ただの遊びだから! 気にしないで、蓮華ちんとお幸せにね?」

「そ、そうだよね……。遊び……だよね……よかった……じゃあ」

「じゃね……!」


 佐々木さんは、逃げるように帰っていった。

 そりゃあ、佐々木さんにとっては、あんなのなんでもないよね……。




◆◆◆



【side樹乃】



 くそ……くそ……くそ……!

 なんで私はあんなこと言ったんだろう。

 本当は蓮華にカズくんをとられてくやしいのに。

 本当は、まだキスなんてしたことない。

 あれは勇気を出した結果だったのに……。

 だめだ……これから、どうやってあの二人の顔をみればいいんだろう。

 なんで、私は自分に素直になれないんだろうか。

 なんで今更、カズくんのこと好きになったんだろう。

 中学のとき、カズくんと付き合っておけばよかったな……こんなことなら。

 取り返しのつかない後悔を抱き、涙目で、私は街を駆け抜けた。


「なにが遊びのキスだ、バカ。本気にしろよなー!!!! バカあああああ!!!!」


 帰り道、河川敷で一人、そう叫んだ。

 うん、これも青春だ。

 だけど、なぜだか涙は、止まらなかった。

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