第18話 バカなの……?


 翌朝、早くに学校についた僕は、ことの顛末を親友のつばっちに説明した。


「――と、いうことなんだ」

「アホなのか?」


 つばっちは僕のことを心底あきれたふうに白い目で見た。


「え? なにかおかしかったかな?」

「もうおかしいことだらけだよ! なんで付き合うふり・・になる? もう普通に付き合っちゃえよお前ら……!!!!」


 つばっちは柄にもなく声を荒げて、机をたたいて立ち上がって僕に唾をとばす。


「いや、付き合うのはできないでしょ」

「なんでだよ!!!!」

「だって蓮華が僕のことを好きとは思えないし……」

「なんでだよ!!!!」

「それに、僕だって別に蓮華のこと……」

「…………」


 あれ……僕は蓮華のことどう思ってるんだ?

 つばっちはなおも無言で僕のことを非難の目で見てくる。


「いや、実際のところカズは三鈴さんのことどう思ってるんだよ」


 急に真剣な目でつばっちにそう問われると、なんだか返答に困る。

 そういえば長い付き合いだけど、つばっちとそんな話を真面目にしたことなんて、一度もなかったな。


「そ、そりゃあ可愛いと思ってるよ? もちろん、仲もいいし、大事だし、唯一無二の親友であり幼馴染だ。もし蓮華に頼まれればなんでもするし、悪い男が言い寄ってきたら僕が守るつもりだ」


 僕は思ったありのままのことを口に出す。


「うん、それって好きってことだよな?」

「え……? 違うと思うけど……」

「なんでだよ!!!!」


 僕が今までに本気で好きになって、告白までしたのは佐々木さんくらいなものだ。

 だけど、あのとき佐々木さんに感じていた思いと、今蓮華に抱いている感情はまた違う気がする。

 あれを恋と呼ぶなら、この感情はいったい……?


「だって、蓮華のことは前から大切なんだ。その思いはまったく変わっていない。ただ、最近ちょっと可愛くなったから異性として意識しちゃってるだけで……これはその……好きとは違うというか……」


 僕は整理のできない感情を目の前の親友に吐露する。

 なんだかんだで、人に話すのは考えをまとめるのに効果的だ。

 つばっちはいつも相談にのってくれるし、本当に頼れる友人だ。


「あのさぁ、カズ」

「はい……?」

「気づいてないのが不思議でしょうがないんだけどさ、あえて言うよ……?」

「うん……」


 そのあと、つばっちは数秒溜めてこう言った――。



「――それって、つまり前から三鈴さんのこと好きってことだよね」



「え…………?」


 僕はさっぱりなにを言われているのかわからなかった。


「だって、前から三鈴さんのことは大事なんでしょ?」

「うん、そりゃ当然。幼馴染だしね」

「誰にもとられたくないんでしょ?」

「ま、まあ……蓮華が他の男と付き合ったりしたら、正直……うん。いやだね」

「じゃあ好きってことじゃん、それ」


 言われて、僕はようやく理解し始める。

 あれ……もしかして僕って……。


「いや待て待て! 蓮華のことはずっと男友達みたいに思ってたんだって!」

「それは、例えば僕と同じってこと?」

「いや……それは違うけどさ」

「じゃあやっぱり……」


 いや、あくまで男友達みたいってだけで、男友達だとは言ってない。

 たしかに、つばっちに抱いてる感情とは違ってはいたけどさ。

 でもだからといって、蓮華を好きってことにはならないだろう?

 僕は必死に、否定する材料を探し求める。


「だって前は蓮華のこと可愛いなんて思ってなかったんだよ!? 蓮華を女性として意識しはじめたのは最近のことだ」

「それはまあ、カズがギャルにしか興奮しない変態だからじゃない?」

「ひどい!?」

「まあそれは冗談としても、ずっと一緒にいるから気づかなかっただけだよ。彼女の魅力に気づいたっていうんだったら、それはもう好きってことでいいんじゃないかな?」

「そうなのかなぁ」

「だって、なんとも思ってない相手だったら、急に見た目を変えてもなんとも思わないでしょ? 中身に惹かれていたからこそ、見た目の変化に思ったより動揺したわけで」

「言われてみれば……そうなのかも」


 あらためて、自分の中で整理してみる。

 僕は蓮華を、大事に思っている。

 そして、見た目にも魅力を感じている。

 彼女の内面も、嫌というほど知り尽くしている。

 そのうえで、やっぱり誰にもとられたくないんだ。


「あ、僕って蓮華のこと好きなんだ……」

「やっと気づいたか……」

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