第17話 恋人契約


「じゃあ私とカズくんが付き合えば、全部解決するよね?」

「は、はぁ……!? なに言ってるの!?」


 蓮華はまたとんでもないことを言い出した。

 それって、僕のことが好きだってことなのか!?

 いや、僕はどうすればいいんだ!?


「あ、あくまで付き合ってるふりだからね!? 二人からのアプローチを止めるため」

「そ、そっか……そうだよね。ふりか……」


 よかった……。いや、よかった……?

 心臓が飛び出るかと思った。

 そっか、でもふりか……。

 ふりだったら、いいのかな?


「私たちが付き合ってるってことにしちゃえば、二人とも平穏な高校生活が送れるんじゃない?」

「うーん、そうなのかなぁ」

「私は変なのに言い寄られないですむし、カズくんだって、もう佐々木さんや北村君に面倒な絡まれ方しないですむよね」

「ま、まあね」


 別に佐々木さんのことは面倒ってわけじゃないんだけど。

 確かに、佐々木さんとあらぬ噂を立てられることで、男子生徒からの視線は痛いけど。でもそれは蓮華だったらなおさらなんじゃないか!?


「でも僕が蓮華と付き合ったら、クラスの男子から殺されたりしない?」

「そんなことないって! みんなもう私とカズくんが幼馴染なのは知ってるから、むしろあきらめてくれていい感じかもよ!?」

「そうかなぁ……不安だけどなぁ……」

「それに、私の彼氏になったらカズくんだって一目置かれるだろうし、絶対にいじめられたりなんかしないよ! というか、私がさせないし」


 ていうか、まあ今の現状で、ただでさえ一目置かれてはいるのだけれど。

 うーん、よくよく考えたら、確かに悪い案ではないのかもしれない。

 僕と蓮華が付き合ってることにすれば、前みたいに二人で楽しく遊んでいても不自然じゃない。

 学校でも、人目を気にせずに蓮華と一緒にいられる。さすがに、付き合ってることを知らせれば、周りも遠慮してくれるだろう。

 今の蓮華は、話しかけるのも困難なくらいみんなに囲まれているからね。


「でも、それじゃあ僕、キタタクに恨まれないかな?」

「それも大丈夫でしょ! カズくんになにかしたら私が許さないし!」

「まあ、蓮華に嫌われるようなことはしないか……」

「それに、北村君だって私たちが仲いいことは知ってるでしょ? 付き合っちゃえばあきらめてくれるって!」


 なんだか断る理由がもうないぞ……。

 っていうか、僕は本当にそれでいいのか……!?


「えーっと、蓮華は僕と……その、付き合いたいの?」

「べ、べべべべ別にっ……!? 私はもしカズくんがどうしてもっていうなら……」

「ぼ、僕も別にどうしてもなんて言わないしっ! あくまでふりだからね……!」

「そ、そうね。あくまでふりだもんね……お互いの平凡な学校生活のための契約ね」


 僕からどうしても付き合ってほしいなんて、そんなの蓮華に悪いじゃないか。

 今まで蓮華のこと異性として意識すらしていなかったのに、ギャルになったとたん急にそんなふうに言い寄ったりなんかしたら、僕は本当に最低のクズ野郎になってしまう。

 あくまで僕が好きなのは蓮華のギャルとしての見た目だけで、中身は別に女性として意識してないんだから……! そう、あくまで中身は幼馴染、同性の友達と変わらないんだ。

 だからこれは恋人契約だ。

 人間関係を円滑にするための、対外的なポーズにすぎない。

 世間体を気にして結婚するようなものに近い。

 僕たちはお互いの学校生活を平穏に過ごすために、恋人を演じるのだ。


「よし、じゃあ付き合おう。それで蓮華が学校で少しでも過ごしやすくなるんなら、僕はなんだってするよ! だって、唯一無二の親友で幼馴染だからね!」

「ありがとうカズくん。じゃあ……今日から恋人、ってことで」

「うん、なんだか緊張するね」

「で、でも……ふりだから」

「そ、そうだね。ふりだ。だから……緊張は必要ないね……」


 よかった、蓮華とはここ最近気まずかったけど、恋人になったからにはこれからは安心だ!

 いつでも好きなときに学校で話しかけても大丈夫だ!

 それに、佐々木さんともこれで普通の友人になれるぞ!

 あーよかった。これで万事解決だ。


 あれ……なんかおかしいような……?

 まあ、いいか。

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