第15話 複雑な気持ち【side:蓮華】


 その日は今朝から憂鬱な気分だった。

 というのも――。





「はぁ……カズくん……」


 あれからカズくんとまだ話せてないし……。

 どうやら昨日、家を訪ねてくれたみたいだけど、まだ顔を合わせるのが恥ずかしくて居留守を使ってしまった。

 今日こそは学校で話しかけてみよう――そう思っていた矢先。


「ねえ、昨日佐々木さんと矢間田やまだくんが二人でカラオケに行ったらしいよ」

「あの二人いつも一緒に帰ってるよね? 付き合ってるのかな?」


 クラスの女子がそんなうわさ話をしているのが耳に入ってきた。

 教室でぼーっとしていた私も、あまりの驚きに急に立ち上がる。


「わ! 三鈴さんどうしたの!?」


 私はそのままの勢いで彼女たちに話しかける。自分でも、すごい剣幕だったと思う。


「ちょっとその話! 詳しくきかせて!!!!」





 クラスメイトからきいた話をまとめるとこうだ。

 昨日、カラオケでバイトしてる子が、カズくんと佐々木さんがカラオケで遊んでるのを見たらしい。

 私がいうのもアレだけど、佐々木さん有名人だからなぁ。

 しかも二人はただならぬ雰囲気だったという。


「うぅ……カズくんのバカぁ……なにやってんの」


 私は一人教室の机に突っ伏して、いろいろと考えこんでしまう。

 幸いまだ朝早く、カズくんも佐々木さんも教室に来ていない。

 もしかしたらカラオケに行ったあと……いや、それはないない。

 でも、このままだったら、カズくんをとられちゃうかも!? それだけは、いやだ。


「なんとかしなきゃ……!」


 恥ずかしいなんて言ってないで、はやくカズくんを取り戻さないと。手遅れになってからじゃ遅い!

 今日の放課後にでも、私のほうからカズにアプローチしてみよう。

 昼休みはいつも男子で固まっていて、ただでさえ話しかけずらい。

 佐々木さんがぐいぐい行くなら、私も同じくらい積極的にいかなきゃ。

 まあ、積極的にと思って行き過ぎた結果があのひざ枕事件なんだけど……。

 とにかく、気を取り直して、がんばれ私!





 その日の放課後、さっそく佐々木さんからカズを取り戻すべく、彼に話しかけようとするも――。


「あの、三鈴さん!」

「ふぇ……!?」


 なんといきなり、カズくんの友人である北村君に話しかけられてしまった。

 たしか彼って入学してすぐに私にLOVINきいてきたりしたっけ……。

 あれだけはっきり断ったのに、何の用だろう。

 私はカズくんに用があるのに……まあ、最悪の場合家に帰ってから訪ねればいいんだけどさ。

 前は北村君に冷たい態度をとったけど、今となっては彼も大事なカズくんの友達みたいだし……軽くあしらうのは気が引ける。


「三鈴さん、カズからきいたんだけどさ、この本好きなんだよね?」

「え……?」


 彼が手に持っていたのは『四畳半から始まる異世界神話』というタイトルのラノベだ。

 どうやら図書室で借りたものらしく、それ用のバーコードが貼ってある。

 てかカズくん、なに勝手に話してんの……。


「ま、まあ確かに好きだけど」


 といっても、もとはカズくんの影響で好きになったもののうちの一つだ。

 カズくんの好きな声優さんがアニメに出てるから、ちょっと見てみたらはまったのだった。

 だけど肝心のカズくんは思ったよりもこの作品に興味なかったらしく、結局私だけが読んでいる。

 そのせいで、カズくんは私の好きなものとしてこの作品を教えたのだろうか?


「お、俺も読んではまっちゃってさ! もしよかったら、今度いっしょにご飯でも食べながら語り合おうよ!」

「うーん、じゃあさ。どのキャラが好き?」

「へ? きゃ、キャラ……!? そ、そうだなぁこの赤髪の子とか……」

「北村君、全然知らないでしょ。この作品」

「う……そ、そんなことないし……」


 驚いた。せめて1巻くらいはちゃんと読んでから話かけてほしかったな。

 正直、いくら私と仲良くなりたいからといっても、自分の好きな作品を適当にだしにつかわれるのはいい気分がしない。


「じゃあ。私急ぐから」

「あ、ちょ……ちょっと!」


 これ以上彼と話す義理もないと思い、私はそそくさと教室を後にする。

 はぁ、なんだか面倒なことになったな……。

 正直、北村君にはまったく興味ないし、カズくんがそれを応援してるのも微妙な気分だ。

 まったく、カズくんはなにを考えてるのかな……?

 全然わからない。


 おかしい。今までずっといっしょにいて、カズくんのことならなんでもわかってると思ってた。

 それがどうだ。高校に入ってからというものの、カズくんの考えてることが全然わからない。

 カズくんは本当は佐々木さんのことどう思ってるのかな。まだ好きなのかな。

 私のことは? 北村君にとられちゃってもいいの?

 ほんと、よくわからない。


 今はもう、自分の気持ちでさえよくわからなかった。

 ただ確かなことは、私はこのままカズくんを手放したくはないってことだけだ――。


 ――絶対に。


「そうと決まれば、やることは一つ!」


 私は家に帰り玄関に鞄を放り投げるとそのまま、隣の家のチャイムを押した。


 ――ピンポーン!


「はぁい!」


 ――ドタドタドタドタ。


 カズくんの間抜けな声と、足音がきこえる。

 足音はだんだん近づいてきて、扉がひらく。


「……って、蓮華!?」


「よ……」


 久しぶり――。

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