第14話 友人の相談
佐々木さんとカラオケに行った日の翌日。
あんなことがあったから気まずいなと思っていたのだけど……。
案外佐々木さんは普通に挨拶してきた。
どうやら向こうはなんとも思ってないっぽい?
まあ、佐々木さんほどの経験豊富なギャルからしたら、あれくらい軽い遊びなのかもしれない。
僕としては、緊張していまだに佐々木さんのうるうるとした唇を思い出してしまうのだけれど。
なんだか蓮華にも佐々木さんにも、話しかけにくくなっちゃったな。
そんな中――。
◇
「お願いだ! カズ! 三鈴さんとの仲をとりもってくれ!」
「は、はぁ……」
昼休み、僕はキタタクからそんなふうにお願いされた。
やっぱりキタタクは蓮華のことが好きなんだな。
でも僕なんかに頼まなくても、経験豊富そうなキタタクならいくらでも自分でアプローチできそうなものだけど……。
まあ実際のところは、初日に蓮華に話しかけてもそっけなくされてたから難しいのだろうけど。
「ていうか、蓮華のこと三鈴さんって呼ぶんだね。北村くん」
「ばかやろう! 名前でなんか呼べるかよ! 恥ずかしいじゃねえか……」
「えぇ……。でも、初日はもっと蓮華にぐいぐい行ってたよね?」
「まあな。だがあれからすっかり思いが強くなってしまって……。もはや自分から話しかけることすらままならないんだ」
「意外とシャイなんだね……キタタク」
なんだか陽キャってもっとオラオラ系な人ばっかなイメージだったけど、実際に話してみると僕となんら変わりない一人の男子高校生だなって思える。
高校に入ってから、変な偏見なしにギャルや陽キャ男子と話せているからか、僕の中でもいろいろと印象が変わってきた。
僕も自分が陰キャだとか卑屈にならずに、もっとコミュニケーションをとっていこうと思えている。その点は、ほんとみんなに感謝だよね。
「でも……そうは言ってもなぁ……」
僕も最近、なんだか蓮華とはすれ違い気味だし。
昨日佐々木さんとカラオケに行ったあと、蓮華の家を訪ねてみたのだけど、タイミングが悪く出かけていたみたいで会えなかった。
なんだか本当に避けられているみたいで……むしろ僕のほうが蓮華との仲を取り持ってもらいたいくらいだよ。
「そんなこと言わずにさぁ! なんかないのか? 例えば、三鈴さんの好きなものとか。そういうのでもいいんだ。なにか情報を教えてくれ!」
「蓮華の好きなものかぁ、そうだなぁ」
蓮華は僕に付き合っていろいろアニメとか見てくれてはいるけど、彼女自信がなにかのオタクというわけではないしなぁ。
「あ、でも。本とかはよく読んでるなぁ。そういえば、異世界もののラノベにはまってたっけ」
「おお! なんていうタイトルだ!?」
「たしか『四畳半から始まる異世界神話』っていうタイトルのやつだったかな。web小説が原作で、アニメにもなってるやつ」
「それなら俺も名前くらいはきいたことがあるぞ! さっそく図書室で借りてみる!」
「あ、うん。図書室にはないかもだけどね」
「ありがとうなカズ! ようし、これを教室で読んでおけば……! きっと向こうから話しかけてくれるに違いない!」
そこは受け身なんだ……。
意外と陽キャっていっても、イメージほどキタタクは経験豊富ではないのかもしれない。
というか、勢いで言っちゃったけど、ラノベとかに偏見ないんだな。意外だ。
もっとキタタクのようなタイプは、そういうの教室で読んだりなんか抵抗があると思ってたけど……。
案外、人は見かけによらないものなんだな。
蓮華だって、今の姿しかしらない人からすれば、普段の姿は驚きだろう。
「うん。まあ、がんばってね……」
図書室に直行するキタタクを、弁当をつつきながら見送った。
口ではがんばってねという僕だけど、正直まだ複雑な気持ちだった。
万が一北村くんのアプローチが上手くいって、蓮華とどうにかなったりしたら……それこそ僕はどうにかなりそうだ。
って、それじゃあ僕が蓮華のことめちゃくちゃ好きみたいじゃないか。そうじゃない。
まあ北村くんが悪い人ではないというのは、なんとなくわかっては来たけれど……。
それでも、大事な幼馴染がどこか遠くに行ってしまうような気がして、素直には応援できない僕なのであった。
ていうか、僕のほうも蓮華となんとか気まずい雰囲気を解消しなきゃなぁ。
だが僕の不安は、その後思いがけない形で解消されることとなる――。
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