第11話 ギャルだから恥ずかしくないもん


「あ、もしかして……カズくん、私が可愛いギャルになったから、急に意識しちゃってるんじゃない?」


 蓮華はいたずらな笑みで、僕を煽るようにそう言って、頬をツンツンと人差し指でつっついてくる。


「だ、誰がお前なんかに……! ぼ、ぼぼ僕は避けてもいないし、意識なんか絶対してない!」

「好きになっちゃった?」

「なってない……!!!! 蓮華はただの幼馴染だよ……。それは今も前も、まったく変わらずにね」


 確かに僕はギャルでしか興奮しないちょっと変わった人間だ。

 だけど、ギャルだからって誰にでも節操なく興奮するわけじゃない!

 地味な幼馴染が急に可愛いギャルに変身したからって、すぐに好きになったりするものか!

 蓮華は大事な幼馴染なんだ。

 今更その関係を壊したくないし、そんなのは中身を見ていないってことだし、不誠実だ。


「じゃ、じゃあ……証拠は?」

「は…………?」

「証明してよ。私にはまぁったく、興味がないっていうこと!」

「は、はぁ……!?」


 いったい蓮華はなにをムキになっているんだろう。

 よほど僕の友達に嫉妬しているのか?

 今まで男女の違いはあるとはいえ、ずっとべったりだったからなぁ……。

 蓮華がさみしがるのも、仕方がない。とはいえ、もう高校生になったんだし、お互いギャルとオタクなんだし……今まで通りというわけにもいかないんじゃないのか?

 って……ちょっと涙目になってる……!? 花粉症かな。


「わ、私なんかじゃ興奮しないんでしょ!? だ、だったら……」

「だったら……?」


 ゴクリ。

 蓮華の真剣な表情に、僕は一瞬身構える。

 もしかしてここにきて幼馴染から絶交宣言でもされるのか……!?

 なんて、いらぬ心配をしながら。

 やがて、蓮華は羞恥心を押し殺した表情で、苦虫嚙み潰したみたいに、言った。



「ひ、ひざまくらでもしてもらおうか……」



「はぁ…………!?」



 ◇◇◇



「……で、なんでこうなってんのかな?」


 というわけで(なにが?)僕は今、蓮華の膝の上に寝転んでいる。

 あれ? ひざまくらって、そういう……?

 てっきり僕がする側かと思ったけど、そうじゃないみたいだ。


「こ、興奮しないなら、ひざまくらくらいできるでしょ? 別に私の太ももなんかに、ちーっとも興味ないんだもんね? カズくんは」

「あ、ああ……! もちろんだよ!? だって蓮華とは幼馴染だしね。男友達の太ももとなんら変わりないよ」

「ふ、ふーんっ。そ、そう。じゃあもう少しこのままでいても、なんの問題もないよね?」

「ああ! いくらでも! 受けて立とうじゃないか!」


 って……僕たちはなにをやっているんだ?

 でも正直、蓮華の太ももなんて今更……見慣れてるし触り慣れてる……わけではないけど……とにかく問題ない。子供のころから一緒だし、お風呂に一緒に入ったりもしたような仲だ。

 男友達とまではいかないにしろ、今まで異性として意識したことなんてちっとも……。

 ……くそ、だけど今は事情が違う……!


 はい、僕は心の中でだけ白状します。

 あえて言おう、最高であると。

 うおおおおおお念願のギャルの太ももだあああああああああ!!!!

 なんだコレ!? なんでギャルの短いスカートから放たれるこの太ももだけ、こんなに魅力的なんだ……!?

 はっきりこれだけは言える。ギャルの生足ひざまくらからしか接種できない栄養素は、確実に存在すると。

 なんだもう、スベスベだしいい匂いするし、これ本当にあの地味な蓮華の足!?


 だがそんなこと、絶対にバレるわけにはいかない……ッ!!!!

 僕は男として、いや……幼馴染、友人として、そんな最低な奴になるわけにはいかないのだ。

 今までなんとも思っていなかったのに、ギャルっていう属性にだけ反応して興奮するなんて最低だ!

 僕はクズ人間だ……!!!! いや、さすがに言いすぎか……? 自分で傷ついた……。

 でも、とにかく僕は悟られるわけにはいかない……!


「って……あれ? もしかして、蓮華……お前緊張してるのか?」

「は、はぁ……!? し、してないし……!」


 ふと、蓮華の身体がわなわなプルプルと震えているのに気が付いた僕は、そう投げかけてみた。

 でもどうやら違うみたいだ。まあ、さすがにずっとひざまくらしていると、足でも痺れたのかな。

 僕としては、もうちょっと緊張してもらってもいい気がするけどね。

 だって年頃の女の子が、自分の生足に男の頭を載せてるんだよ!?

 あれ……自分で言っててなんだか僕まで緊張してきたぞ……。


「う、ううぅ…………」


 蓮華のほうも、なんだか次第にプルプルが大きくなってきた。

 気のせいか、太ももだけじゃなく、身体全体が熱を帯びてきているような……?

 僕はひざまくらされながら、蓮華の身体とは反対側を向いているので、その表情までは確認できないけれど。

 雰囲気で、なんだか顔まで真っ赤になっているような感じがする。


「もしかして蓮華、恥ずかしい……? その……スカート短いし……さすがに、ね?」


 僕は心配になって、優しくいつものトーンできいてみる。

 もし、蓮華のほうも変な意地でやってるだけなら、ここらで意地の張り合いは終わりにしよう。

 こういうとき、折れるべきは僕のほうだ。女の子に無理させちゃいけない。

 さすがに蓮華も、ここまで短いスカートでひざまくらだなんて、そりゃあ恥ずかしかったに決まっているよね……。気づかなかった僕が悪い。


「ち、違うもん……」

「え……」


 違うそうだ。


「ギャルだからこのくらいのスカート恥ずかしくないもん…………もん(小声)」


 蓮華は若干涙目になりながら(こっちからは見えないけど声色でわかる)声を震わせてそう言った。

 やっぱ無理してんじゃん……。

 こいつ……どこまでも意地を張るつもりだ。

 よし……だったら僕も、とことんまで張り合ってやろうじゃないか。

 なんだか妙な対抗心まで芽生えてきてしまう。


「じゃ、じゃあ問題ないな」

「う、うん。てか、そっちこそ興奮してんじゃないの?」

「は、はぁ……!? し、しししししてねぇし……!!!!」


 図星をつかれて、僕はうろたえる。

 正直、このまま太ももと接着剤でくっつきたいほどには心地のよさを感じてしまっている僕がいる。

 そこで、蓮華のほうから思わぬ仕掛けが繰り出される。


「じゃあさ……」

「はい?」

「こっち向けるよね?」

「は…………?」


 なにを言ってるんだ……蓮華さん!?

 そっちを向くってことは、つまり……え……!?

 この幼馴染、思った以上に強敵だ。


「ほんとに興奮してないんならさ……こっち向けるよね……?」

「う、うん……。む、むけるよぉ……?」


 いや……ダメだろ……!!!!

 ダメだろ僕! それはさすがに!

 このひざまくらした状態でさぁ! そっち向いたら!

 いろいろ見えちゃうよぉ……!?

 だって蓮華のスカートめっちゃ短いですよ!?

 それわかってて言ってる……!? だったらとんだ小悪魔だ!


「じゃ、じゃあ……こっち寝返りうってみてよ」

「あ、ああ……わかったよ。今そうするよ……」


 ああ……さすがにこれ以上は理性が保てないよ!?

 このままそっち見ちゃったら、僕は自分を抑えられないかもしれません……!

 だってギャルと二人きりだよ!? 部屋で……!

 蓮華のことは大切にしたいけど……けど……っ……!!!!


 ――そのときだった。


「あれ~? カズ、蓮華ちゃん来てんの?」


 僕の姉だった。

 ノックもせずに、いきなり僕の部屋の扉を開けやがった。


「…………って、なにやってんの? アンタら」


 僕と蓮華は、反射的にお互いからバッと離れて、その場に正座していた。

 狭い部屋で、二人並んでピシッと正座しているもんだから、そりゃあその姿は奇妙に映っただろう。


「な、なんにも……」

「お、おかまいなくぅ……」


 そんな気まずい僕たちを一瞥すると――。

 姉は最後に爆弾を置いていきやがった。



「ま。なんでもいいけど、ゴムはつけろよ」



「「――――ッ!?!??!?!?」」


 僕と蓮華は顔を真っ赤にして、お互いにしばらくなにも言えなくなった。



◆◆◆



【side:蓮華】


「はぁ……危なかったぁ……」


 あれからすぐに気まずくなり、カズくんの家を出て、一人でそっとため息をつく私。

 でも、カズくんのお姉さんにはある意味助けられた。

 正直、私も恥ずかしさの限界だったからだ。

 あのまま、本当にカズくんがこっちを振り向いていたら……。


「うう……やばいやばい……! 考えただけで恥ずか死するよぉ……」


 真っ赤になっている顔を抑えながら、隣の自宅に逃げ帰る私なのだった――。



 ◆◆◆



 その後しばらくの間、またカズくんと話にくくなったのは、言うまでもない。


「距離を縮めるどころか、余計避けられちゃってるじゃん……!」

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