第10話 積極的にいかなくちゃっ【side:蓮華】


 なんだか最近、カズくんが私を避けている気がする――というのは、気のせいだろうか。

 入学から一週間、そっけないカズくんにしびれを切らして、私は彼の家を訪れた。


「カズくん……? どうしたの……?」

「ん……いや、別に……」


 階段を上って、彼の部屋に向かう途中、どうしても太もものあたりに視線を感じてしまう。

 ま、まあ別に……カズくんに見られるのはいいんだけど……ね?

 やっぱりどうしても、まだ恥ずかしい。


 今までは制服のスカートだって、極限まで長くして履いてたから、こんなギャル丈にはまだ慣れない。

 カズくんはいっつも、階段やエスカレーターで、私の下を歩くようにしてくれる。

 もし私が転んでも、絶対に彼が助けてくれるという、安心感がある。

 意外とそういう男らしいところがあって、私は彼のそういうところが好きだ。


「さあ、座って」

「うん、お邪魔します」


 今までにも何回も訪れたこの部屋だけど……高校生になってからは初めてだ。

 その……今までは中学生だったけど、高校生になったってことは……そのうち、そういうこと・・・・・・もするんだろうか?

 カズくんだって、ギャル好きな点をのぞけば、普通の男の子だ。

 いつもみたいにベッドに座ってしまったけど、もしかしてこのまま押し倒されたりぃっ……!?

 そんなことを一人で考えていると、カズくんの方から話を切り出してきた。


「そ、それで……蓮華。今日は何の用なのかな?」

「……じゃあ、言うけど」

「うん」

「カズくん、なんか最近私のこと避けてない?」

「え……? そ、そんなことないけど……?」


 彼の目線が金魚のように泳ぐ。


「避けてるよね? 絶対」

「さ、避けてないって……!」

「だってだって! カズくん最近、学校でも全然話しかけてくれないじゃん!」

「そ、それは……蓮華が人気者すぎて近づけないだけだよ」

「話かけてくれりゃいいじゃん! 私だっていっつもみんなに絡まれて、困ってるんだよ? ほんとは人見知りだし……助けてよ!」

「そ、そういわれても……じゃ、じゃあ今度からそうするよ……」


 あ、ちょっと優しい。

 本当は私からもっと話しかけれたらいいんだけど……カズくんのほうもいつも大勢の男子に囲まれている。

 カズくんは幼馴染だから大丈夫だけど、正直まだ男の子とはうまく話せない。

 怖いってほどじゃないんだけど、とにかく耐性がないのだ。


「カズくんだって休み時間はいっつも男子と話しちゃってさ! 私だって話しかけにくいんだからね?」

「えーっと、北村くんのこと? そ、それは……まあ、そうだけどさ」

「あ、あれは北村くんの相談に乗ってるだけだよ」

「ほんとぉ? オタクのカズくんになにを相談することがあるのかなぁ?」

「なっ……!? し、失礼な……」

「なんか、高校入ってから変わったよね……カズくん」

「そんなことないって……!」

「帰り道だって、いっつも佐々木さんと帰ってるしさぁ! 私家となりなのに……!」

「そ、それはだって……佐々木さんが強引についてくるだけだよ……!」


 なんだかあれから、佐々木さんはやけにカズくんにちょっかいをかけるようになった。

 正直、カズくんのどっちつかずな態度も気に食わない。

 そりゃあ、佐々木さんは理想のギャルかもしれないけどさ……。

 でも私だって、カズくんの理想に近づくために、春休みをかけて頑張ったんだから……!


「嘘! カズくんだってまんざらでもないんでしょ!? デレデレしちゃってさ」

「で、デレデレなんてしてないよっ!」

「だってカズくん佐々木さんのこと好きだったんでしょ? よ、よかったね。佐々木さんと仲良くなれてさ。お幸せに!!!!」


 あれ……なんでだろ。

 カズくんにこんなにキツい口調で怒るつもりなかったのに。

 なんで私こんなにムキになってんだろ?

 自分でも、よくわからない。


「そ、それは昔の話であって……!」

「ふーん、じゃあ。もう好きじゃないってこと?」

「う、うん……まあね……? 正直、今はもうよくわかんない……かな」

「だ、だったらなんで断らないのさ!? たまには私と帰ってくれてもいいじゃん!」

「そ、それはぁ……」


 よかった……もう佐々木さんのことは好きじゃないってこと……?

 とにかく、まだ私にもチャンスはある……よね?

 戸惑う私に、お構いなしでカズくんは話を続ける。無神経だ。


「じゃ、じゃあ! 今度三人で帰ろうよ! それならいいんじゃないかなっ?」

「なんで私が佐々木さんと!? 私はカズくんと二人で帰りたいの!」

「えぇ……!?」

「佐々木さんとは二人で帰るのに、私とじゃダメなの!?」

「そういうわけじゃないけど……」


 だめだ、このままじゃ本当に佐々木さんにとられてしまう。

 何故だか知らないけど、私がこれだけウェルカムしているのに、カズくんの方からは攻めてこない。

 もっと私から、積極的にいかなくちゃっ!

 思い切って、私はカズくんとの微妙に開いちゃった距離を埋めるべく、踏み込む。


「あ……! わかっちゃったぁ!」

「はい……?」

「もしかしてカズくん、私が急に可愛くなっちゃったもんだから、好きになっちゃった?」


 やばい……自分で言ってて照れる。

 なにやってんだ私……。

 でも、それを受けてカズくんは。

 顔を真っ赤にして否定した。


「そ、そそそそそんなわけあるかいっ……!!!!」


 ……ッ。

 ちょう、かわいいです。

 んもう、かわいいなぁコイツぅ……。

 やっぱりこの幼馴染は、最高にかわいい男の子だ。

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