第9話 なんか避けてない?
高校に入学してから、はやくも一週間が過ぎた。
入学早々、大変な目にあったけど、なんとかうまくやれている……と、思う。自分では。
そんなある日の放課後、僕の幼馴染で今ではすっかり立派なギャルの
いつものように、蓮華を部屋にあげる……んだけど……。
「カズくん……? どうしたの……?」
「ん……いや、別に……」
僕の部屋は二階だから、階段を上るときに蓮華のスカートから下着が見えそうになる。
まったく、なんでギャルJKのスカートってこんなに短いんだ!?
……って、僕が元凶なんだけどさ。
本当は僕が先に上ればよかったんだけど、そこはレディファーストだから仕方がない。
もし蓮華が階段で足を踏み外したりしたら大変だからね。いつも階段では僕が下を歩くようにしている。
ちくしょう……今まで蓮華って色気のない服装ばっかだったから、こんなことになるなんて予想外だった……。
今度から足元を見て階段を上ろう。
「さあ、座って」
「うん、お邪魔します」
今までにもさんざん部屋にあげているのに、なんだか今日はよそよそしい。
こうして二人きりで話すのが久しぶりってのもあるけど、やっぱり蓮華が見違えるほど変化したからだろうか。
蓮華は僕のベッドにちょこんと座った。ふわっとシャンプーのいい香りが、僕の部屋に漂う。
あれ? もしかしてシャンプー変えたのか……?
今までは石鹸のシンプルな香りだったけど、イマドキの女の子らしい甘い香りだ。
くそう、今まで意識してなかったことが、変に気になって仕方がない。
って……よくよく考えてみると……僕って今、自分の部屋にギャルの女の子と二人きりってこと……!?
ま、待て待て待て……相手はあの蓮華だ。落ち着け、僕。
とりあえず思考を逸らすためにも、何か言いたげに座っている蓮華に、僕から切り出す。
「そ、それで……蓮華。今日は何の用なのかな?」
「……じゃあ、言うけど」
「うん」
「カズくん、なんか最近私のこと避けてない?」
「え……? そ、そんなことないけど……?」
僕の目が回遊魚みたいに泳ぐ。
「避けてるよね? 絶対」
蓮華は上目遣いで、頬をぷくーっと膨らませて、フグみたいに怒る。
うわ……ギャルの激おこぷんぷん丸フェイス……かわいい……。
「さ、避けてないって……!」
「だってだって! カズくん最近、学校でも全然話しかけてくれないじゃん!」
「そ、それは……蓮華が人気者すぎて近づけないだけだよ」
実際、学校での蓮華はすさまじい人気だ。
休み時間になるやいなや、他の人気のある子たちに囲まれて、僕なんかじゃ取り付く島もない。
「話かけてくれりゃいいじゃん! 私だっていっつもみんなに絡まれて、困ってるんだよ? ほんとは人見知りだし……助けてよ!」
「そ、そういわれても……じゃ、じゃあ今度からそうするよ……」
ていうかあれ、困ってたんだ!? 結構楽しそうに友達作ってたりしたような気がするけど……。
まあ、蓮華がそういうなら、ちょっと頑張って学校でも話しかけてみようかな。
大事な幼馴染だしね、もし本当に困ってるなら、なんでも助けてあげたい。
「カズくんだって休み時間はいっつも男子と話しちゃってさ! 私だって話しかけにくいんだからね?」
「えーっと、北村くんのこと? そ、それは……まあ、そうだけどさ」
ここ最近の僕は、休み時間彼らと過ごすことが多い。
もちろん、旧友のつばっちこと片桐翼も一緒だ。
僕、つばっち、キタタク、それから加瀬くん根越くんの男子五人組。
正直、この僕がクラスで一番カーストの高いイケてるグループにいるなんて、今でも信じられないんだけど……。
「あ、あれは北村くんの相談に乗ってるだけだよ」
僕は苦し紛れにそう言い訳する。……っていっても、半分以上事実だ。
なにを隠そう、あのキタタクこと北村拓哉は、僕の幼馴染である蓮華に惚れているのだ。
キタタクの話といったら、ほぼ蓮華に関することばかり。
正直、幼馴染の僕としてはどういった顔できいてればいいのかわからない。
「ほんとぉ? オタクのカズくんになにを相談することがあるのかなぁ?」
「なっ……!? し、失礼な……」
全部お前に関することだよ! と言ってやりたい気がしないでもない……。
まあ、そんなことはしないけど。
キタタクはなんとか蓮華とお近づきになりたいと、僕にあれこれ相談してくるけど……。
正直なところ、僕としては蓮華とキタタクが仲良くなることを、あまりよく思えないというか……。
いや、別に僕が蓮華のこと意識してるとかじゃないんだ。ほんとだ。
ただ、単純に幼馴染として心配なだけだ。ほんとだ。これはほんと。うん、ほんと。
蓮華って見た目は完璧ギャルになったけど、まだまだ中身は初心なまんまだからなぁ。
キタタクみたいな経験豊富そうな男子を迂闊に近づけるのは、危ない気がする。
「なんか、高校入ってから変わったよね……カズくん」
「そんなことないって……!」
変わったといえば、蓮華さんのほうがよっぽど変化してるんだけどね……?
っていうかもしかして、こいつキタタクに嫉妬してるだけなのか?
蓮華の嫉妬はまだまだ続く。
「帰り道だって、いっつも佐々木さんと帰ってるしさぁ! 私家となりなのに……!」
「そ、それはだって……佐々木さんが強引についてくるだけだよ……!」
あれからというもの、下校時刻になるといっつも教室から佐々木さんに引っ張りだされる。
最初こそ周りの視線が痛かったけど、さすがにもう慣れた。
「嘘! カズくんだってまんざらでもないんでしょ!? デレデレしちゃってさ」
「で、デレデレなんてしてないよっ!」
「だってカズくん佐々木さんのこと好きだったんでしょ? よ、よかったね。佐々木さんと仲良くなれてさ。お幸せに!!!!」
蓮華は半分投げやりに、僕へあてつけるようにそう言った。
なんでそんなに怒ってるんだ?
「そ、それは昔の話であって……!」
「ふーん、じゃあ。もう好きじゃないってこと?」
「う、うん……まあね……? 正直、今はもうよくわかんない……かな」
「だ、だったらなんで断らないのさ!? たまには私と帰ってくれてもいいじゃん!」
「そ、それはぁ……」
正直、佐々木さんのことは別に嫌いではない。だから、特別断るような理由もなかった。
そういえば、佐々木さんって蓮華と仲良くなりたいんだったっけ?
僕は思い切って、蓮華に提案してみる。
「じゃ、じゃあ! 今度三人で帰ろうよ! それならいいんじゃないかなっ?」
「なんで私が佐々木さんと!? 私はカズくんと二人で帰りたいの!」
「えぇ……!?」
「佐々木さんとは二人で帰るのに、私とじゃダメなの!?」
「そういうわけじゃないけど……」
今の蓮華と一緒に下校なんてしたら、他の生徒からなにされるかわかったもんじゃない。
噂ではすでにファンクラブ的なものもできているとかいないとか。
蓮華もこれ以上僕と噂になったりしたら、せっかくの高校デビューが台無しになっちゃうから、きっと迷惑だろうしね。
それに正直なところ、前の蓮華ならまだしも、今の蓮華と肩を並べて下校なんて……僕の心臓が持ちそうにない。
だってこんな可愛いギャルの幼馴染との下校イベントだなんて、興奮しないわけがなかった。
もちろん佐々木さんだって相変わらず魅力的だけどさ。
ギャル蓮華のことは、どうしても必要以上に意識してしまっていた。
実際、今こうして部屋に二人きりで……って、また意識すると緊張してきた……。
「あ……! わかっちゃったぁ!」
「はい……?」
「もしかしてカズくん、私が急に可愛くなっちゃったもんだから、好きになっちゃった?」
蓮華は小悪魔的な笑みを浮かべて、からかうようにそう言った。
くぅ~魔性のギャル……たまんねぇっす……正直。
しかも、図星である。まあ、絶対に認めたくないけど。
「そ、そそそそそんなわけあるかいっ……!!!!」
僕は全力で否定した。
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