第8話 屈辱【side:樹乃】
読者モデルもやっていて、SNSのフォロワーだって数万人いる。
そう、私はそういう存在だった。
なのに――。
「なんなの……アレ……!」
高校入学して、クラスメイトの注目を集めたのは、私じゃなく――
中学のときは目立たない優等生だったはずの彼女が、なぜかとびきりのギャルになって、生徒の話題をかっさらった。
そのことは、私にとってはなによりもの屈辱だった。
「クラスの男子みんな私の虜にするはずだったのに……ぐぬぬ……」
カーストトップのイケメン男子である北村拓哉はじめ、クラスの男子は全員あの三鈴蓮華にくぎ付けだった。
いや、男子だけじゃなく、女子もみんなそうだった。
彼女のアイドル並みのルックスと一流ギャルファッションセンスの前には、私なんてただの派手目の女子ってだけだった。
そのくらい、素の魅力で勝負したら勝ち目がないほどの差があった。
今までは誰も私に並ぶようなイケてる女子はいなかったというのに……。
もちろん高校生になれば、それなりにイケてる女子も集まってくるかと思っていたけど……。
それがまさかあのいけ好かない蓮華だなんて、思ってもみなかった。
彼女は中学のころからなにかと言いがかりをつけてきて、あまり得意ではない。
それに、なんかカズくん? とかいう男のせいで、謎に私を恨んでいたみたいだし……。
蓮華と仲良くなってなんとかクラスの2番手でいたいけど、それも上手くいくかわからない。
「そうだ……! 面白いこと考えついちゃった……」
私は蓮華の幼馴染であるカズくんとやらに、ちょっかいをかけてやることにした。
蓮華がこのままクラスの中心人物になって、幼馴染と幸せなカップルにでもなったりしたら、私はますますゆるせない。
なんであんな地味で今まで努力してこなかった女が、私よりも先に素敵な彼氏を作って幸せそうにするところを、見せつけられなければならないのか……。
「あーしだってまだ彼氏いたことないのに……!」
そう、実は私はこうやってギャルをやってるけど、まだそういったこととは無縁なのだった。
でもカズくんとかいう男は誠実そうだし、ちょうどいい。
蓮華をぎゃふんと言わせれるのなら、童貞男子一人くらい軽くからかってやるとするか。
どうやらそのカズくんは中学のときに私に気があったようだし、ちょろいでしょ。
そう思っていたのだけれど――。
「ね、ねえカズくん……! 一緒にかえろーよ」
放課後、私はカズくんをつかまえて、腕に胸を押し付ける。
ま、まあちょっぴり恥ずかしいけど、このくらい勢いでなんとかなるっしょ!
「う、うぇええ!? 佐々木さん……!?」
カズくんは驚いてバタバタ慌てふためいた。
めっちゃ童貞っぽい反応……萎えるわー。
私はもっと経験豊富なイケてる男子が好みなんだけどなー。
ま、顔は悪くないし、蓮華に一泡吹かせるためだ。がんばろう。
「さ、いこ?」
「う、うん……」
まわりの生徒がやたらとこっちを見てくるけど、気にしない気にしない。
べ、別に私はこんな陰キャ童貞と腕組んで帰ったところで、全然ドキドキなんかしないし……。
てかむしろコイツを落とすためにやってんだし……!
しばらく一緒に雑談しながら下校する。
「なんだか、カズくんって意外とおしゃべりなんだね……」
「え? そうかな」
見るからに暗そうな陰キャだし、もっとおとなしいのかと思ったけど……。
っていう心の声は出さないようにしておく。
なんだか、意外と女慣れしてるっていうか……妙に話しやすいのはなんでだろう。
普通私みたいなギャル(しかも前好きだったっていう)がこんなに密着してたら、もっとキョドるとかしろし!
こうも自然と会話されると、なんだか自信なくすっていうか……。
もっとギャルの色気で魅了するつもりだったのに。
「うん、もっと大人しいのかと思ってたけど……。結構優しいし、女の子に慣れてるって感じ」
「ああ、まあ……蓮華とずっと一緒にいるからかな……? おかげであまり女の子に緊張はしないかもね」
「そ、そうなんだ……」
っく……また蓮華か……。
って、なんで私が嫉妬してるみたいになってんの!
別にちょっと名前が出たくらいだし……。
今にカズくんは私に夢中になるに決まってるし……!
「ね、ねぇカズくんは私のどこが好きだったの?」
「ふぇ……!? え、えーっと……うぇ……そうだなぁ……」
よし、直球な質問でちょっとうろたえさせたぞ!
カズくんは顔を少し赤らめて答えずらそうに、眉の横をポリポリかいた。
困った顔がちょっと可愛い……。
って、私はまたなにを言ってるんだ……!?
直後、不意打ちのように、目の前の冴えない男の子から、なんとも男らしいセリフが飛来する。
「佐々木さんって、努力家だから。そういう真っすぐに努力できる姿とかが、とても素敵だなって」
「ふぇ…………???!?」
私は一瞬、なにを言われているのかわからなかった。
それは、私が一番言われてうれしい言葉だった。
日頃からギャルとして、モデルとして、女の子として、私はかかさず努力を続けている。
だけどそんなのは、はたから見れば気づかないし、そもそもどうだっていいことだ。
特に無神経な男子は、そんな細かいところ、誰も気づいてくれない。
でも彼は、それに……気づいてくれていた……?
私を見ていてくれていた……?
「それに、ギャルだけど真面目だし。意外と性格可愛いところもあって、あ、あと……優しいよね!」
「ちょ、ちょちょちょっと待ったぁあああ!」
「えぇ…………? そっちがきいてきたのに……」
だめだ、これ以上褒められると、本当にどうにかなってしまう。
そのくらい彼の言葉は的確で、私のことをよく理解してくれていた。
ただ私がギャルだからってわけじゃなかったんだ……ギャルならだれでもいいと思ってるクソオタク男だと思ってたけど……違ったんだ……。
私が私だから、好きになってくれたんだ……。
そんな彼の言葉は、一言一句私の脳内に甘い砂糖菓子のように浸透していった。
「も、もう……! カズくんのばかぁ……!!!!」
あまりの羞恥に、私は顔からマッハでジェット噴射。
そのままカズくんを突き放して、反対方向へ走り去る――。
走り去ろうとした、そのとき――。
――パァアアアア。
「危ない……!!!!」
「え…………?」
気が付いたときには、カズくんに腕をひっぱられていた。
あんなに気弱に見えても、男の子らしい強い力で、一気に引き寄せられてしまう。
そしてそのまま、カズくんの胸の中に飛び込んで……。
カズくんごと私は地面に倒れてしまう。
「いてててて……」
「大丈夫……!?」
どうやら私は、彼に助けられたようだった。
暴走運転をした車が、ふらふらと電柱に突っ込む。
――ドーン。
幸い、けが人はいなかったようだ。
私以外には……。
「大丈夫? けがはない……?」
「う、うん……」
カズくんが倒れた私を優しく起き上がらせてくれる。
そう、私はこのとき、恋という傷を負ってしまったのだ――。
あろうことか、一度振ったオタク男子くんに……。
「なんだ……意外と男らしくてかっこいんじゃん……ばか……」
「え…………?」
「なんでもない……!」
こうなったらますますあの蓮華とかいう幼馴染に負けるわけにはいかない。
スクールカーストも、カズくんも、全部私のものにするんだ……!
いけ好かない蓮華から、全部を取り戻す――!
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