第7話 絡まれる?


 声をかけられて、僕が振り向くとそこには先ほどのイケてる男子三人組がいた。

 たしか金髪のリーダーが北村拓哉きたむらたくやで、さっき蓮華に連絡先交換を断られていた人だ。

 あとの二人もさっきホームルームで自己紹介をきいたから、一応覚えている。


 えーっとたしか、茶髪のオシャレでイケメンの人が、加瀬優莉かせゆうり

 それから、見るからに怖そうな見た目の、坊主頭にそりこみを入れた人が根越翔間ねごししょうま

くんだ。

 三人とも僕になにか言いたそうにしている。

 するといきなり根越くんが僕に突っかかってきた。


「おいてめえ! チビ! なんなんだオメェ!」

「え……ど、どういうこと……?」

「なんでお前みたいなカスがあの美人二人と仲良さげに話してんだよオラ! あんまり調子のるなよ……!」

「ご、ごめんなさい……」


 いきなり怒鳴られて、僕は思わず委縮してしまう。

 今にも殴りかかってきそうな根越くんを、加瀬くんが羽交い絞めにして制止する。


「ごめんねぇ、根越コイツ馬鹿だから……」

「あ、いや……」


 よかった、加瀬くんは優しいタイプの陽キャなようだ。

 ギャルと話したばかりに、入学早々命をとられるのかと思った……。

 するとさっきまで黙っていた北村くんが無言で僕に近寄ってきた。


 北村拓哉――通称キタタクはものすごい真剣な表情で僕に迫る。

 うわ……もしかして僕、殴られるのか……!?

 さっき蓮華に無視されてたもんなぁ……。

 それを根に持って僕をいじめようってことなのか……!?


 僕は思わず身構える。

 しかしキタタクは僕の両肩をつかんで、こう言った。


「おねがいだ……! 俺と友達になってくれ……!!!!」


「………………は?」


 一瞬、言われている意味がわからなかった。

 いったいなにがどうなって、クラス一のイケメンさんでカーストトップの北村くんが、僕にそんなことを頼むんだ……?

 直後、北村くんの口から衝撃の発言が飛び出した。


「お、俺……あの三鈴蓮華みすずれんかとかいうギャルの子に、一目惚れしてしまったんだ……!」

「え、えぇ…………!?!?!?!?」


 まさかあの蓮華に一目惚れしたっていうのか……!?

 ていうかあれだけ適当にあしらわれたというのに、それでも好きってことなのかな。

 ま、まあ僕の目から見ても、今の蓮華はとっても可愛いと思うけど……。


「お、お前あの蓮華ちゃんの幼馴染なんだろ!? 俺もどうにかお近づきになりたいんだ! な! お願いします!」

「う、うーん……まあ僕は別に友達になるくらいならいいけど……っていうか、普通にクラスメイトなんだし。そんなお願いしなくても……よろしくね」

「うおおおおお! お前いいヤツだな! ありがとう! 俺は北村!」

「うん知ってるよ。僕は矢間田和己やまだかずみ。よろしくね」

「おうカズ! 俺のことも拓哉って呼んでくれよな! キタタクでもいいぜ!」

「わかったよキタタク」


 てな感じで、僕はカーストトップのイケメン男子であるキタタクと友達になることになった。

 まあ蓮華を狙ってるっていうのはちょっと複雑だけど……って、それじゃあまるで僕が蓮華を好きみたいじゃないか……。

 確かにギャルの恰好をさせて、蓮華に興奮してたけどさ……。

 でもあくまで蓮華は幼馴染で、気の置けない親友っていうか……。

 いやでもあれは男友達とほとんど変わらないっていうかぁ――。

 って、なに僕は一人でごちゃごちゃ言い訳しているんだ!?


「マジかよキタタク……こんな陰キャと友達にぃ……?」


 僕とキタタクの友好に文句をつけたのは、さっき突っかかってきた根越くんだ。

 彼はどうもカーストにうるさいタイプらしく、僕みたいなのを毛嫌いしている。

 まあ、仕方ないことかもしれないけど、あまりいい気はしないよね……。

 だけど、そんな僕の気持ちを察したかのように、キタタクは。


「はぁ? てめえ俺のカズになに言ってんだ? 陰キャとか関係ねーだろカス。てめえなにダセえこと言ってんだ?」

「う……ご、ごめんって……そうマジになんなよキタタク」

「二度と俺の前でそういうこというんじゃねえぞ。ごめんなカズ」

「す、すまねぇ……その……カズ……」


 どうやらキタタクは案外悪い奴ってわけでもなさそうだ。

 むしろ誰にでも分け隔てなく接する、真のいいヤツなのかもしれない。

 根越くんもちゃんと謝ってくれたし、問題なさそうだ。


「あ、うん。僕は気にしないから、大丈夫だよ」

「まったく、カズ、お前はいい奴だな。仲良くなれそうだよ」

「キタタク……僕もだよ」


 入学早々、ギャルや陽キャに絡まれてどうなるかと思ったけど……。

 これはこれで案外うまくやっていけそう……なのかな……?


「ごめんねカズ。根越も根は悪い奴じゃないから……」


 加瀬くんもそう言ってフォローを入れてくる。

 さりげなく僕をカズ呼びしてくるし、コミュニケーション力が高めの人物だな。

 キタタクと根越くんを上手く束ねているのは、案外この加瀬くんなのかもしれない。


「加瀬くんも、よろしくね」

「うん、よろしく。カズ」


 なんだか一気に友達がすごく増えたけど……。

 それ以上に、クラスメイトたちからの視線がすごく気になる。

 みんな僕のことを遠巻きに見つめて、いろいろあることないこと噂をしている。


「なんだぁアイツ……? キタタクと友達になりやがったぜ……」

「ギャルだけじゃなく、男連中までアイツのものかよ……」

「あいつが裏のボスってこと? 裏番長こえええ……」

「なんかあの人、親がマフィアらしいよ」

「親が市議会議員って知ってた……?」


 いや……全部まるっきり嘘なんですが……。

 ほんと、変な噂をされるのはちょっと困るな。

 陽キャ男子三人が僕の席を離れていった後、ようやく親友の片桐翼が僕に声をかける。


「ねえカズ……めちゃくちゃ変なことになってない……?」

「うーん……まあ、そうかもね……」

「まあ、はたから見てる分には面白いからいいけどさ」

「えぇ……面白がらないでよ……」


 なんだか先行きが不安だけど……ちょっぴり刺激的な高校生活の幕開けだ。

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