第6話 両手にギャル?
「で、二人は付き合ってるの?」
佐々木さんのその発言に、僕たちは面食らう。
そして気まずい雰囲気が流れる。
もちろん、僕と蓮華とは、付き合ってなどいない。
それどころか、僕に至ってはほんの夏休み前までは異性として意識すらしていなかった。
僕の好みはギャル一筋だったからだ。
それこそ、佐々木さんのような。
たとえ罵られようが、冷たい目で見られようが、僕はギャル以外愛せないのだった。
だが、今は状況が違っている。
蓮華は今やあの佐々木さんをも凌駕するほどの完璧ギャルだ。
しかも蓮華は佐々木さんとは違って、僕にすこぶる優しいし、幼馴染で気心も知れている。
そんな素敵な女性を、僕が意識しないはずはなかった。
「え、えええ……っと……それは……その……」
僕は思わず口ごもってしまう。
「わ、私はカズくんがどうしてもっていうなら……その……付き合ってもいいけど……?」
「えぇ……!?」
蓮華の衝撃発言に、僕は顔がぼっと真っ赤になる。
見た目がギャルだからか知らないが、今日の蓮華はとても積極的だ。
僕としても、蓮華がそういってくれるなら、ぜひお付き合いしたいわけだけれども。
それってどうなんだろうか。
今まですぐ隣にいた幼馴染である蓮華――それが見た目が変わったからといって、急に付き合ったりなんかしたら……それは、僕ってかなり最低な奴じゃないか?
いくらギャル好きだからと言っても、それはあまりに都合がよすぎるきがする。
だから決して、僕からはあまり積極的にそういうことを言えない。
もし今の状況で、僕と蓮華が付き合ったりなんかしたら、それは蓮華の中身を見てるわけじゃないから、とても不誠実な気がしてしまう。
それに、蓮華のほうも僕に気なんてあるはずもないし……。
「え、ええと……その……」
「え、なに!? カズくんは私と付き合うのがいやなの……!?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
僕はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
そんな僕を面白がって、佐々木さんはにやりと笑った。
「ふーん、二人はまだ付き合ってるってわけじゃないんだ」
「ま、まあ……そうだね。幼馴染ではあるけど」
なんとか佐々木さんが話をそらしてくれたみたいだ。
蓮華は横で少し不満そうな顔をしている。
しかし、そのあと佐々木さんが言った言葉は、さらなる衝撃を呼んだ。
「じゃあ、あーしが狙っちゃおうかな?」
「は……?」
「え? だって、カズくん……だっけ? 今彼女いないんでしょ? それに、昔あーしに告ってきたって言ってたし。いーじゃん。ねぇ? 蓮華ちゃん?」
な、なにを考えているんだこの人……!
ギャルの奔放っぷりには驚かされるばかりだ。
蓮華は佐々木さんの言葉を受けて、頬を膨らませながら――。
「か、勝手にすれば? カズくんがいいならいいんじゃない?」
「じゃ、決まりね! カズくん、今日放課後一緒に帰ろうね?」
などと、佐々木さんが勝手なことを言い出してしまった。
僕はどうしようもなくなって、あたふたするばかりだ。
「ちょ、ちょっと……! 勝手な……!」
僕が否定をしようとした途端、佐々木さんは逃げるようにしてどこかへ行ってしまった。
まあ僕としては……喜ぶべきなのか?
いや、でも蓮華がさっきからすごい剣幕でにらみつけてくるし……。
「あ、あの……蓮華さん? さっきのは佐々木さんが勝手に言ったことだからね?」
「もう、カズくんなんか知らない!」
「あ、ちょっと……」
蓮華も蓮華で、僕を突き放すような態度でどこかへ行ってしまった。
一人になった蓮華は、さっそくほかの男子や女子に囲まれ、いろんなアプローチを受けている。
さすがは見た目にもカーストトップだとわかるだけあって、みんななんとか取り入ろうと必死だ。
「ねえ、モデルとかやってるの?」
「どこ中?」
「さっきの人は彼氏?」
などと、質問攻めにあっている。
僕は僕で、いろんな男子からざわざわと噂されてしまう。
「なんだあいつ……謎のギャルと、しかも佐々木さんまで……」
「うらやましい限りだぜ……なんであいつが……」
「まさに両手にギャルだな……」
なんて、わけのわからないことを言われている。
はぁ……。
僕はため息をついて、机にうなだれる。
目立ちたくはなかったのに、入学初日から大変なことに巻き込まれてしまった。
蓮華も佐々木さんも、なにを考えているのやら……。
まあ、ギャルっていうのはそういう自由奔放なところも魅力なわけだけれど。
そんな僕を見かねて、親友の片桐翼が声をかけてきた。
「大変だったね、カズ」
「ほんとうだよ、つばっち」
「まあ、結果としてはよかったじゃん。念願のギャルにちやほやされてさ。しかも二人も」
「そ、そうかなぁ……。思ってたのとは違うような……」
まあ、これからどうにかなるだろう。
今はこの状況を楽しむことにしよう。
そう思う僕なのであったが……。
人生そう簡単にはいかないもので――。
「おい、てめえ」
「はい……?」
声をかけられて振り向くと、そこには見るからに陽キャな三人組の男子がいた。
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