第4話 正体
「おはよう、カズくん」
「えええええええええええええええええええええ!!?!!?!??!」
僕はなにがなんだかわからなかった。
こんな美人さんの知り合いはいない。
っていうか……マジで誰だ……!?
「なに驚いているの……カズくん、私をギャルにしたのは君なんだけど……?」
「は…………? はぁあああああああ!?!?!??!?!」
そこで、すべての点と点がつながった。
彼女が佐々木さんを知っていたこと。
佐々木さんを許していないと言ったこと。
僕のもとへやってきたこと――。
「お、お前……!
「うん、そうだよ。カズくん」
一瞬、マジで誰かわからなかった。
というか……変わりすぎだろ、コイツ……!!!!
春休み、僕は確かに蓮華をギャルにプロデュースした。
しかし、それは一回きりのことで。
そのあと僕は、趣味の同人誌の締め切りに追われ、蓮華と長い間合わないでいたのだった。
まさかその間に……こんな本格ギャルに生まれ変わっているなんて……。
「ど、どどどどうしたんだよ……その恰好……まるで僕とやったときとは、見違えたじゃないか」
僕が蓮華に渡したギャル衣装は、あくまでコスプレ的な範囲にとどまっていた。
たしかにあの時僕ができるベストを尽くしたが、あれはあくまで付け焼刃のギャルだ。
例えば、実際のメイドさんと、メイドカフェのメイドさんが違うように。
側だけにせても、魂まではなかなか再現することは難しい。
だがどうだろうか。
目の前にいるこのギャルは、まごうことなきモノホンのギャルだった。
髪の毛もウィッグではなく、地毛を染め上げたものだし。
制服も改造されてはいるものの、本物の制服だ。
「ちょっと会わない間に……めちゃくちゃ進化してるじゃないか……!!!!」
僕は興奮して立ち上がり、蓮華の肩をつかんでいた。
「えへへ……カズくんに褒められたくて、頑張ったんだよ?」
「うおおおおおおおおおおお!!!! なんてすばらしい幼馴染なんだ!!!!」
まさか僕の単なる思い付きを、自主的に継続していてくれていたなんて……!
本当に感激だ。
オタクに優しいギャル――ここに誕生しました。
記念館を建てよう。
「でも……ここまでの完璧なギャルになるまでに、相当な苦労があっただろう……!?」
「うん、でも……結構楽しかったよ。自分が変われるって知れて。それに、カズくんの驚く顔が見たかったから……」
「うううううううううう!!!!! もう、愛してる!!!!」
「って……っひゃ……! えええ……!? ちょ、ちょっとおぉ……。もう、カズくん……」
僕は思わず感極まって、蓮華を思い切りハグしていた。
これほどまでに僕になんでもしてくれる幼馴染の存在に、心から感謝だ。
ここが高校入学初日の、微妙な空気の教室であるということも忘れて、僕は蓮華を強く抱きしめた。
「あの……お二人さん? 周り周り……!」
「へ……!? え! あ……! 翼くん……! 同じクラスなんだね、よろしく」
小声で俺たちに声をかける片桐翼に、蓮華が気づき挨拶をする。
二人は俺の友人同士ということもあって、お互いに面識があった。
同じ中学だし、翼はしょっちゅううちに遊びにきていたからな。
「あ、うん。
「え…………?」
ふと俺たちが我に返って、周りを見渡すと――。
見知らぬクラスメイトたちからものすごい注目を浴びていた。
佐々木さんからはものすごい剣幕の視線が刺さるように飛んできているし……。
さっきの陽キャ男子たちも、僕のことを恨めしそうに見ている。
「あー……これは……」
入学そうそう、とんでもないことになってしまったのかもしれない……。
僕はただの目立たない生徒でいるつもりだったのに……。
なにせ横にいる蓮華が目立ちすぎている。
佐々木さん以上に派手で完璧なギャルファッションに、絶世の美貌と、スタイル。
それに加え、さっきの僕とのやりとり。
「はぁ…………」
これは困ったことになった。
変な奴らに目をつけられたらどうしようと思っていたけれど……。
これは先が思いやられる。
さっそく全クラスメイトから、要チェックリストに加えられてしまったじゃないか。
僕に聴こえていることを知ってか知らずか、周りの生徒たちが口々に噂する。
「なんだあの男……地味なのにあの美人さんと知り合いか……?」
「くそ……なんであんなやつが……。さっき俺も声かけときゃよかった……!」
「お前なんて無理だよ。さっきの見てたろ? 北村たちでも無視されてたじゃないか」
「ねえあの子……めちゃめちゃかわいくない……!? 私、絶対友達になりたい!」
「わかるー! ギャルの子って、怖いイメージだったけど、あの人なら話しやすそう……!」
「ねえ、超綺麗だよねー! 後で使ってるお化粧とか教えてもらお」
なんて、みんな好き勝手に言っている。
まあ、そうなるのも当然だろうけど……。
教室のざわつきを制したのは、遅れてやってきた教師の一声だった。
「はい、みんなー! 静かにぃ! ホームルームを始めるぞぉ!」
とにかくその場は、みんなそれで僕への関心は薄れたようだったけど……。
これはホームルーム後は地獄だぞ。
そう思い机に顔を突っ伏す僕なのであった。
「はいそこ! 寝ない!」
「は、はい……!」
なるべくみんなのことを見たくないんだけれど……。
ホームルーム中も、いくつか視線が気になってしまう。
結局、ホームルームで伝えられた大事なことも、ほとんど頭に入ってはこなかった。
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