第3話 入学初日
長い長い春休みが明け、高校入学初日。
僕は新しいクラスの扉を、恐る恐る開ける。
教室にはすでに何人か到着していて、個別に話相手を作っていた。
僕はとりあえず、無言で自分の席に着席する。
「はぁ……」
あたりを見渡すけど、知っている人は今のところいない。
中学からの友人が、一人でも同じクラスになればいいんだけど……。
周りはみんなそれぞれ席の近い人とすでにグループを形成しはじめている。
けど中学3年間を目立たない陰キャオタクとして過ごしてきた僕に、知らない人に声をかけることなんてできようはずもなかった。
「やあ、カズ!」
そうやってぼーっとしている僕に、声をかけてきた人物がいた。
僕の中学時代の親友、
彼は僕と同じく目立たないオタク学生だったが、地味な恰好をしているのにも関わらず結構なイケメンさんだ。
中性的なおかっぱ頭で、色白の男の子だ。
「つばっち! つばっちも同じクラスなの……!?」
「ああ、そうだよ。僕もカズと同じクラス」
「よかったぁ……知ってる人いないからどうしようかと……」
「知ってる人? 知っている人ならいるじゃないか他にも。ほら、そこに……」
「え…………?」
翼が指さしたほうを見る。
すると、教室の反対側のほうに、あの佐々木さんが座っているのが見えた。
佐々木
「マジか……佐々木さんも同じクラス……」
僕はちょっとうれしいやら困ったやら、微妙な反応を見せる。
まあ、同じクラスに絶世美人のギャルがいるのが、目の保養的にもありがたいことだけれど……。
正直トラウマになるよね、あれは。
その反動で、僕は幼馴染をギャルに魔改造するという奇行を思いついたわけだし。
「おいおい、落ち込むなよ。これはチャンスだろ? 高校で夢をかなえろよ」
「えぇ……もうそんな気はないよ……。それに、佐々木さんきっと僕のこと覚えてないだろうし……」
「まあ、だろうな……。だからこそチャンスだ。当たって砕けろ……」
「結局砕けるのかよ……! ダメじゃん……」
佐々木さんのほうを見やると、どうやらさっそくイケメンの男子に声をかけられているようだった。
相手は同じクラスの陽キャDQNで、髪を金髪にしているチャラついた男だ。
正直、あんな男と佐々木さんが話ているのを見るだけで、もやもやした気持ちにはなるのだけど……。
まあしょうがないよね……僕にはあんな行動力もなければ、筋肉も、身長だってない。
「はぁ……まあ僕は目立たないように教室の隅でおとなしくしていることにするよ……」
「だな。どうせ相手はお前のことなんか覚えていないんだし、それがいいよ」
「どっちなんだよ……。お前は僕をどうさせたいんだ……」
「さあ、僕はカズと平凡に学校生活を送れれば、それでいいよ」
「はぁ…………だな」
触らぬ神に祟りなし。
佐々木さんはすでに何名かのイケてる生徒と、グループを作ったようだった。
リア充グループめ……僕には一生縁のない連中だ。
まあ、こちらからなにかしないかぎりは、なにかされるということはないだろう。
「それで、春休みの宿題はやってきた……?」
藪から棒に、翼がそんなことをきいてきた。
「え……やってないけど……」
「なんでさ……」
「春休みは同人誌の締め切りに追われていて忙しかったんだ。そのせいで蓮華との勉強会も途中からやらなくなったしな……。お前とも、後半は全然遊ばなかっただろ?」
「うん……それで宿題より同人誌作りを優先しちゃうところが、さすがカズだよねぇ」
「まあ入学前課題なんて、どうせおさらいばかりで大したことないだろ」
「怒られるのはカズだから、まあ僕はそれでいいけどね。カズのサークルの新作、僕も読みたいし」
僕たちがそんなくだらない会話をしていると――。
しばらくして、急に教室がざわつき始める。
「どうしたんだ……?」
「さぁ……」
僕たちも教室の入り口のほうに目を向けると――。
そこにはなんと、佐々木さんをも凌駕するような絶世の美女ギャルがいた。
ここからは後ろ姿だけで、顔までは確認できないけど……あれはやばい。
佐々木さんと違って金髪ではなく茶髪タイプのギャルだ。
かなり髪の毛や制服の着こなしにこだわりがあるようで、本格ギャルって感じの見た目。
あれはかなり気合の入ったギャルだぞ……。
僕は内心、ワクワクしていた。
どうやら件のギャルは、教室の入り口で佐々木さんグループの男子に話かけられたようだ。
そりゃあそうだ、あれだけの可愛いギャル、あの陽キャ男子たちが見逃すわけがない。
どうにかして、お近づきになろうと考えるはずだ。
もし僕が陽キャだったとしても、絶対にそうするだろう。
少し身を乗り出して、会話を聴いてみる。
クラスのほとんどの生徒が、その会話に集中していた。
「お、きみ可愛いね! 俺たちと友達になろうよ。俺、北村
「え……しないけど……。ていうか、入れてないし」
しかし、ギャルのほうは誘われたのにも関わらず、なんともそっけない返しをしていた。
あれほどのギャルなのだから、SNSを入れていないわけがないのに……。
それなのに入れてないといったということは、そういうことなのだ。
しかし男子たちも、それだけでは折れない。
「そ、そうなんだ……! じゃ、じゃあ……とりあえず友達になろうよ。同じクラスなんだしさ」
そう言う男子たちを支援するかのように、あの佐々木さんが口を開いた。
「ねえ、あんた何様のつもり? さっきから
お、これはバチバチしそうな香り。
佐々木さんは、新しくきたギャルの態度が気に食わなかったようで、メンチを切っていた。
しかし言われたギャルも負けてはいなかった。
それどころか――。
「はぁ……? 佐々木さんとは話す気ないんだけど、私。というか、あなたたち全員、興味ないんで……。通してくれるかな? そこ。自分の席に行きたいんだけど……?」
「あ、ああ…………ごめん…………」
強気な彼女の言葉に、男子たちは驚いて、おとなしく道を開けた。
男子たちからすれば、彼女ほどの美人ギャルに嫌われたくないから、あまりしつこくする気はないのだろう。
同じクラスなのだし、まだまだ仲良くなるチャンスもあるだろうし。
しかし、佐々木さんは違った。
自らのプライドを、傷つけられたのだった。
同じギャル同士、火花を散らしあう。
孤高のギャルVS上位カーストグループのギャル、といった感じか。
「ちょっと、待ちなさいよ」
「いや、待たないけど……。それに、佐々木さん……私はあなたのこと、まだ許してないから」
「え……? それってどういう……っていうか……なんであーしの名前……」
しかし、孤高のギャルAは佐々木さんなんて歯牙にもかけないようすで。
佐々木さんを無視して、僕のほうに近づいてくる。
あれ……僕の近くの席なのかな……?
そして、僕の席の横までやってきた孤高のギャルは、僕に向かってこう言った。
「おはよう、カズくん」
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