おまけ 閑話 ギャルとクレープ(2.5話)
長い春休みはまだまだ始まったばかりだ。
本当は今日もまた入学前課題とやらを進めなきゃいけないんだけど、僕は蓮華を外に連れ出した。
ギャル蓮華の写真を撮らせてもらったお礼もかねて、クレープ屋さんに行く予定だ。
いつものように隣の家のチャイムを鳴らして、家の前で待っていると、すっごく恥ずかしそうにしながら、蓮華が出てきた。
「ねえカズくん……ほんとにこの格好で行くの……?」
「うん! お願い!」
「めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
蓮華は昨日してもらったギャルの恰好で現れた。
恥ずかしそうに顔を赤らめて、短めのスカートを手で押さえてる。
いつもの蓮華はこんな女の子っぽい恰好しないし、スカートを履くことすら稀だ。
でも、そんな恥ずかしがってるところも可愛い。
「へ、変じゃないかなぁ……?」
「大丈夫だよ! めちゃくちゃ可愛いし! それに近所にちょっとクレープ食べにいくだけだし、そんなに恥ずかしがることないよ」
「うぅ……近所だからこそ恥ずかしいんだけど……」
蓮華は知り合いに見られないかとキョロキョロしながら歩きだす。
別にギャルっぽい恰好といっても、普通のイマドキの恰好なんだから、なにも不自然じゃないのにな。
まあ蓮華を知ってる人が見ればびっくりするかもだけど、逆にいつもの蓮華と違いすぎてバレないかもしれない。ウィッグもかぶってるしね。
「いやぁ……ギャルとクレープ屋さんにいくなんて、僕の夢がまた一つ叶ったよ」
「お礼にクレープおごるって言ってたけど、結局これもカズくんの都合のいい感じになってない……?」
「えへへ……バレた?」
「まあ、これだけよろこんでくれてるから、別にいいけどね。ギャルの恰好するくらい」
やっぱり蓮華は最高に優しい、最高の幼馴染だ。
そんなふうに話しながら、近所のクレープ屋さんにやってきた。
僕はとりあえずブルーベリーのやつを頼む。
蓮華はいつものイチゴのやつだ。
「うーん美味しい! やっぱここのクレープは最高だね」
「そうだね。ちょっと高いけど、蓮華のその幸せそうな顔を見れて、僕もうれしいよ」
なんだか蓮華だってわかってても、可愛いギャルとクレープを食べてると思うと、ほんとうに幸せな気分になる。
こんな可愛いくて優しいギャルが彼女だったらなぁ……。
なんて思うけど、蓮華は幼馴染だしなぁ。
男友達と変わらないというか、そもそも家族みたいなもんだし、だいいち、蓮華が恋愛に興味あるとも思えないしなぁ。
ずっと一緒にいるけど、蓮華がこれまで誰かを好きになったとか、付き合ってるとかっていう、そういった浮いた話はきいたことがない。
まあそれは僕も似たようなものだけど……。
なにせ、僕はギャルしか愛せないのだから。
そしてギャルというものは、オタクとは相性が悪いのだ。
ああ……どこかに優しくて可愛くて僕と付き合ってくれるようなギャルはいないものか……。
なんてぼんやり考えながら、クレープとタピオカミルクティーを口に入れてると、急に蓮華が顔を赤らめて、目をそらして言った。
「あの……そんなに見つめられるとさすがに照れるというか……。いくらカズくんでも、ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「え……? 僕そんなに見つめてた?」
「うん。穴が開くくらいに。ギャル好きなのは知ってるけど、さすがに幼馴染の顔を黙ってじっと見続けるのはどうかと思うよ……?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた」
照れてる蓮華も可愛い。
見た目はちゃんとギャルだけど、やっぱり中身は幼馴染で昔から知ってる、いつも変わらない蓮華だから、そのギャップがなんというか、すごい。
普通もっとギャルの子って堂々としてたりはきはきとした物言いだけど、中身は地味な蓮華のままだ。
だから普通のギャルからは引き出せないような魅力的な表情が見られる。
なんだかまた新たなギャルの魅力に一歩気づきそうだよ……。
ギャルってけっこう意外と、中身は純粋だったりもするし、蓮華はある意味僕の中の究極のギャル像を体現した存在なのかもなぁ……。
「あ、ちょっと僕お手洗いにいってくる。タピオカミルクティー一気飲みしちゃったせいだ……」
「もう。マイペースなんだから……カズくんは」
そうそうにクレープとタピオカミルクティーを平らげた僕は、まだクレープをゆっくり味わっている蓮華をその場に残して、トイレを探す。
女の子を一人でショッピングモールのクレープ屋さんの前に放置すると、ナンパとかされて危ないってきいたことがある。
だけどまあ、蓮華なら大丈夫でしょ。
今まで蓮華がナンパされてるとこなんて見たことないし、きいたこともない。
僕は安心してトイレに向かった。
◇
トイレから戻ると、蓮華がチャラい男たちにナンパされていた。
マジか……。
やっぱりギャルの恰好してるせいなのか……?
今までこんなことはなかったのに、不思議だ。
蓮華もはじめての出来事で対応不可能なのか、声をかけてきた男たちに囲まれて、なにか言い返すでもなくおどおどしている。
このままじゃ僕の大事な幼馴染が危ない。
僕は怖い気持ちを必死に振り切って、男たちの前に飛び出した。
「あの! 困ります!」
「あん? なんだこのガキ? 俺たちは今この可愛いギャルの姉ちゃんをナンパしてんだよ! 邪魔すんな!」
「彼女は僕の連れです! それに、彼女も嫌がってるじゃないですか!」
「はぁ……? お前みたいなオタク野郎がこの可愛いギャルの連れだと? はっはっは! 嘘だろ」
う……そういわれるとぐうの音も出ないのだけど……。
それでも、僕は大事な幼馴染を守るために、言い返さないといけない!
「いいえ彼女は正真正銘僕の幼馴染です! 僕は蓮華のことをなんでも知ってます! スリーサイズは上から89.59.86! 血液型AB型、誕生日は7月28日、好きな食べ物はここの店のクレープ! 好きなアニメは『よじはん!』好きな漫画は『ハンターマン海戦』毎朝7時に起きて僕のことを起こしてくれる、大事な大事な幼馴染です! だから絶対に、ナンパなんてお断りです! 僕の目が黒いうちは、絶対に蓮華に指一本触れさせません!」
「か、カズくん……!? なに言ってんの!?」
オタク特有の早口でまくしたてた。これが僕の固有結界だ。
とにかく喧嘩になったら絶対負けるから、勢いで押し切るしかない。
僕の演説に、チャラ男たちは困惑し、あきれた顔になった。
「な……なんかよーわからんけど……もういいわめんどくせえ。……なんか萎えた。連れがいるんならしゃーねえな……。おい、いこうぜ」
僕の作戦大成功で、チャラ男のリーダーみたいなのが仲間にそう言う。
「えーマジかよこんな可愛い子。もったいねえって」
「いやなんかキモイ男ついてるし、めんどうだわ……。警察呼ばれたら今俺やべえんだよ……」
「っち……お前、命拾いしたな。この人の機嫌が悪かったらボコボコにされてたぜ?」
なんていうふうに、捨て台詞を吐いてチャラ男たちは消えていった。
まあ、ああいいう連中はすぐにでも他の女の子に声をかけるんだろう。っち……羨ま…………なんでもない。
とにかく蓮華になにごともなく追い払えてよかった……。
「蓮華、大丈夫だった?」
「う、うん……こわかったけど大丈夫。てかカズくんこそ大丈夫? それと……ありがと」
「幼馴染を守るのは当然のことさ! ……ってかっこつけたいところだけど……正直めちゃくちゃ怖かったよ……殴られないでよかった……」
「まあ相手もこんな人の多いとこでいきなり殴ったりはしないでしょ……。警備員さんよばれちゃうし。でも、かっこよかった。ありがと。カズくんって、昔からけっこうそういう男らしいところあるよね」
「そ、そうかな?」
「うん、いつも私を守ってくれたよね。うれしい」
やっぱり蓮華はちゃんと僕のことを昔から見てくれてるんだなぁ。ほんと、よき理解者だ。
見た目はギャルでも、中身はやっぱ蓮華だ。僕の大事な幼馴染。
ていうかギャル蓮華はやっぱ他人から見ても可愛いんだな。
今度からはギャル蓮華と出かけるときは気を付けなきゃだな。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「そうだね。家で課題やろう」
◇
そんな感じで春休みはあっという間に過ぎていった。
気がつけば、明日からはもう高校がはじまる日だ。
高校生ではどんなギャルと出会えるだろうか、非常に楽しみである。
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