第2話 幼馴染【side:蓮華】
私の幼馴染の
いつも私に、いろいろわけのわからない話をしてくる。
まあ、そういったところも、私からすればかわいくもあるのだけど……。
高校に上がる前の春休み、彼は突然、いつにもまして変なことを言い出した。
「オタクに優しいギャルなんてのはな、この世には存在しないんだよ」
「そう…………」
いつものことながら、私はあきれてしまう。
せっかく二人きりで勉強会をしているというのに、目の前の私ではなく、架空のギャルの話か。
オタクに優しいギャル、それがなんなのかはわからないけど、とにかく話を聞くことにしよう。
カズくんのオタク話はいつも理解不能だけど、そんなことでも、一生懸命私に話をしてくれる彼の姿は、とても微笑ましい。
ギャルといえば、中学のときに佐々木さんっていうとても綺麗な女子がいたっけ……。
でも、この私――
カズくんがギャル好きなのはなんとなく知ってはいたけど……。
そのせいで私には少しも興味をもってくれないし、あまり好きな存在ではない。
カズくんは急に、鏡の前に立って自分の姿を確認し始めた。
そういえば、今日の彼はいつもとは違った格好だ。
「そこで僕は……高校デビューをすることにした!!!!」
カズくんはそう言って、私に自分の全身を見せてくる。
前髪をワックスで固め、眼鏡もコンタクトにしている。
正直、ぜんぜん似合っていない。
服に着られているとはこのことだ、という感じ。
それになにより、私にとっては普段のカズくんのほうが何倍も素敵だった。
着飾らない、格好をつけない、ありのままの幼馴染を好きだったのだ。
だから私は、正直に答えた。
「ねえカズくん……本当にそれ、かっこいいと思ってる?」
「え…………。だめ…………?」
「うん、だめ」
「はぁ……そっかぁ……」
「もうね、絶望的にだめだよ? どうしてオタクの人って、黒い服ばかりを着たがるのかなぁ?」
ここはあえて辛辣な言葉を吐くことによって、カズくんの目を覚まさせることにする。
私にとって、他の男子とは違う、いつもの安心するカズくんは唯一無二の存在なのだ。
そんなカズくんに、どこにでもいそうな量産系男子になられては困る。
いつもの寝ぐせでだらしない頭髪や、度のきつすぎる眼鏡、部屋着みたいな私服。
変わらないカズくんが、私の理想の男性だった。
少し落ち込んだ後、カズくんはまたわけのわからないことを言い始めた。
「そうだ、オタクに優しいギャルがいないのなら、オタクに優しいギャルを作ればいいじゃない!」
「………………なにを言っているのかな……カズくんは」
「かわいいは作れるんだ!」
「そう…………」
つまりはこういうことらしかった。
カズくんにはリア充ファッションのセンスはない。
そして私にもファッションセンスはない……らしい――失礼な。
私だって、カズくんに合わせて地味な恰好してるだけで、ほんとはおしゃれとかにも興味あるもん。
だけど――。
彼にはギャルに対する並々ならぬこだわりがあるそうな。
曰く、僕になら、最強のオタクに優しいギャルをプロデュースできる……!
だそうな。
そして興奮さめやらぬまま、私は部屋を追い出された。
まったく……なんだったのかな……。
そして後日、カズくんはなにやら大荷物をもって、私の部屋を訪れた。
「で……これはなんなのかな? というか、どういうことか説明がないんだけど……本当になんなのかな?」
「大丈夫だ。僕に任せろ!」
「うーん、大丈夫じゃないと思うよ? カズくんは。……いろいろと」
カズくんが持ってきたのは、ギャル変身セットなるものだった。
もちろん、そんなセットが実際に売ってるわけではなく、彼自身が個別に集めたものだ。
とりあえず、私は今からそれを着ることになっているらしい。
はぁ……わけがわからないよ。
でもまあ、それで彼が喜んでくれるなら……とか思ってしまう。
彼の笑顔を見ていると、昔から、私はなにも断れないのだった。
もちろん、本気で嫌なときは嫌だというけれど、今のところ、そういった無茶なお願いはしてこない。
まあ、相手がカズくんだったら、なんでも許してしまいそうな私ではあるのだけれど。
「もう、しょうがないなぁ……」
着替える間、カズくんには部屋の外に出ていてもらう。
茶髪のウィッグに、異常に短すぎるスカート。
それから、上の服に至っては露出が多すぎる。
ちょっとさすがのカズくんもデリカシーがなさすぎるんじゃないかな。
これ私じゃなかったら犯罪だと思う。
まあ、私に対してそういう目でみていないのは知ってるけど……。
おへそとか肩とか出てるし……えっちだ。
「まあ、引き受けたんだから着るしかないか……」
私がギャルに変身するまで、カズくん納得してくれなさそうだし。
それになによりも、これを着れば少しは私を異性として意識してくれたりするかもしれない。
これを着たときのカズくんの反応が見たかった。
とまあ、なんだかんだで流されてしまう私なのだった。
「もういいよ……」
「じゃあ、開けるね……?」
「う、うん……」
カズくんは、恐る恐る部屋に入ってきてこう言った。
「か、かわいい…………!」
「へ…………!?」
「す…………」
「す…………!?」
「すっごいかわいい!!!!」
うわぁああああああああ!?
い、いいいいい今カズくん、なんて言った……!?
私、カズくんにかわいいとか言われたの初めてかもしれない……。
そりゃあ、幼稚園のときとかはあったかもしれないけど。
言われなれていないせいで、思わず顔が赤くなる。
やばい……こんな顔、見られたくない。
しかし、追い打ちをかけるように。
カズくんは私の肩をつかんできた。
あ……ちょっと……。
「あ、ちょ……カズくん!?」
「あ、ごめんごめん……」
カズくんのほうも、顔を赤くして照れているようだった。
これは……私の作戦は成功したのかな?
まあ、自分でも、意外とこの格好は似あっていると思う。
まさかここまで喜んでくれるとは思わなかったけど。
これでちょっとは、今後異性として認識してもらえるだろうか。
「と、とりあえず……写真撮らせてくれ!」
「う…………い、いいけど……」
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
写真となると、さらに恥ずかしいけど……。
でもカズくんがこんなに笑顔で嬉しそうにしてるんだし。
このくらいで喜んでくれるなら、お安い御用だ。
それに、私もコスプレとかには興味があったから、まんざらでもない。
褒められて、嫌な気はしないし。
「お願いだ、僕と勉強会をしている間、その姿でいてくれぇ…………」
「う、うう……仕方ないにゃぁ……は、恥ずかしいんだからね!」
「わかってるわかってる。このお礼は必ずするから!」
まあ二人きりだし、別にいいか……。
昔は一緒にお風呂にでも入った仲だ。
この姿で一緒にすごすことで、一気に私の魅力をアピールできる機会でもある。
それに、お礼といえばクレープだ。
クレープが好きなのもあるけれど、デートの口実になるから、いつもクレープをおごってもらう。
まあカズくんはデートだなんて微塵も思っていないだろうけれど。
――チラ。
勉強会の最中、何度もこちらを見てくる。
申し訳なさそうに、盗み見るようにして。
私としては、もっと堂々と見てもらってもいいんだけど。
そんなにこそこそされると、こちらも恥ずかしい。
あ、今目が合った。
うう……勉強になんて集中できそうもない。
「じゃ、じゃあ……もう遅いから、帰るね?」
「う、うん……じゃあね、また」
夕方になって、カズくんは隣の自宅に帰っていった。
「はぁ…………」
一人になって、肩の力が抜ける。
この格好は、とても緊張してしまう。
でも、ちょっと普段よりも積極的になれたかもしれない。
普段の私は、地味そのものだ。
「ちょっと……かわいいよね……?」
鏡で見ながら、自分でもそう思う。
ギャルをコーディネートするセンスに関しては、カズくんのセンスは確かなようだ。
あの地味だった私が、佐々木さんばりのギャルに変身している。
ちょっと、自信が出てきた……。
「よし……こうなったら……!」
私はけっこう、凝り性なところがある。
カズくんのためにも、今後春休みを使って、ギャルを研究していこう。
それで完全にギャルになれば、きっとカズくんの態度も変わるはずだ。
ちょうど高校に上がるタイミングだし、みんな不思議に思わないはず。
そうして、私のギャル化作戦は始まった。
◆
最初は予想もしていなかった……。
まさか私がのちに学園一のギャルと呼ばれ、名を馳せることになるなんて――。
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