オタクに優しいギャルがいなかったので、とりあえず僕に優しい幼馴染の地味子をギャルにしてみた~なぜか僕を振ったはずのギャルやクラスの陽キャまで僕に寄ってきて学校生活が充実しはじめました~
月ノみんと@世界樹1巻発売中
第1話 オタクに優しいギャルはいない
端的に言おう。
僕はギャルが好きだ。
とはいえ僕はオタクだ。
ギャルとオタクは相いれない。
それはもう太古の昔からの真実だ。
まるで水と油。
「でも、僕はギャルが好きなんだああああああああ!!!!」
僕はギャル好きのオタクという、なんとも救いがたい生命体だった。
きっと、僕の夢は永遠に叶わない。
でも――。
そんな僕にも朗報です。
なんとこの世界には『オタクに優しいギャル』なるものが存在するらしい。
僕はそれを探すために、アマゾンの奥地へ出向いた――。
まあ。
実際は隣のクラスに、なんだけど。
隣のクラスの佐々木さん。
もう誰がどこからどう見てもギャルだ。
ただ、オタクに優しいかどうかまではわからない。
でも、少なくとも僕の好みドストライク。
端正な顔立ちに、服をだらしなく着崩して、派手なメイクをしている。
薄めの金髪に、色の濃いリップ。
真っ白な肌、短いスカートから伸びる細い脚が魅力的だ。
そして一人称は「あーし」
僕はそんな完璧ギャルの佐々木さんに、声をかけた。
「こんにちは、佐々木さん」
まずは挨拶から始めよう。
人間っていうのは、エンカウント回数によって好感度が上がるらしい。
なんだったっけ、単純接触効果とかいうやつだ。
毎日挨拶をすることで、お近づきになろうというのが僕の作戦。
「は……? キモ……てかあんた誰? オタクのくせに話しかけんなし。オタクがうつる。あーきもちわるっ……」
「え…………」
僕はその後告白し、当然のごとく玉砕した。
これが中学二年の出来事。
そしてそれからも僕は、あらゆるギャルに声をかけまくった。
しかし、結局のところ――。
「何の成果も!!得られませんでした!!」
◇
「オタクに優しいギャルなんてのはな、この世には存在しないんだよ」
高校に上がる前の春休み、僕は自部屋で、そんなことを説明する。
「そう…………」
あきれた顔で、小さくため息をつき、それに応えたのは僕の幼馴染。
こんな派手な名前をしているが、実際のところ、彼女は地味だ。
誰よりも地味で、地味が服を着て歩いているような人間だ。
ダサダサの私服に、丸縁の分厚い眼鏡。
それから髪型もいまどきありえないくらいのシンプルなロングヘアー。
ギャル好きな僕からすれば、アウトオブ眼中。
まあ、だからこそこうして、いまだに自室に二人きりで勉強会なんてできるのだけれど。
それでも、そんな彼女には感謝していた。
僕の言うことはなんでも聞いてくれるし、今だってこうして愚痴に付き合ってくれている。
オタクではないものの、僕のオタク話にも根気よく付き合ってくれるし。
いい幼馴染だった。
まあ、女性の友人……というよりは、母親や姉に近い存在だ。
「そこで僕は……高校デビューをすることにした!!!!」
僕はそう言って、鏡の前で格好よくキメる。
前髪をワックスで整えて、眼鏡もコンタクトに変えた。
服装だって、自分のセンスでかなりかっこいいものを選んだはずだ。
それなのに……。
「ねえカズくん……本当にそれ、かっこいいと思ってる?」
「え…………。だめ…………?」
「うん、だめ」
「はぁ……そっかぁ……」
「もうね、絶望的にだめだよ? どうしてオタクの人って、黒い服ばかりを着たがるのかなぁ?」
――ザク。
今僕になにかが突き刺さった。
そっかぁ……
まあ、いっつもオタトークをしまくっているからしょうがないね!
とはいえ、僕も無意識だった。
無意識のうちに、黒ばかりを選んでしまっていた。
やはり闇属性の特質は変えがたいな……っふ……。
で、結局のところ、なにをどうやってもダメだった。
蓮華にも手伝ってもらって、僕を魔改造しようとしてはみたものの……。
僕はまったく変われないどころか、いっそうダサくなるばかりだった。
「はぁ……もうダメなのか……?」
まあ、僕にそんなセンスがあったら、すでに脱オタしてるよね……。
それに蓮華も蓮華で男の服なんかには頓着がない。
僕ら二人して、ファッションセンスは皆無だったのだ。
よって、僕はついぞ高校デビューすらできずに終わるらしい。
そして、僕があきらめかけたその時。
僕の頭のなかに、革命的なひらめきが到来する。
「そうだ、オタクに優しいギャルがいないのなら、オタクに優しいギャルを作ればいいじゃない!」
「………………なにを言っているのかな……カズくんは」
「かわいいは作れるんだ!」
「そう…………」
蓮華は遠い目で窓の外を見つめた。
つまりはこういうことだ。
僕には高校生男子をプロデュースするセンスはなかった。
そして蓮華にも、男子を格好よくすることはできない。
だけど――。
僕にはギャルに対する並々ならぬこだわりがあった。
作れる……!
僕になら、最強のオタクに優しいギャルをプロデュースできる……!
ということで後日、僕は必要なものをもって、蓮華の家を訪れた。
蓮華の家は僕の家の隣だから、歩いて一分もかからない。
「で……これはなんなのかな? というか、どういうことか説明がないんだけど……本当になんなのかな?」
「大丈夫だ。僕に任せろ!」
「うーん、大丈夫じゃないと思うよ? カズくんは。……いろいろと」
僕は蓮華に、いろいろと指示をして、持ってきた衣装に着替えるように頼んだ。
もちろん、強引にではない。
まあ、もし蓮華が嫌がったら、土下座でもする覚悟ではあった。
しかし、不思議なことに……というかまあ、これは確信してはいたのだけれど。
蓮華はいつものように、僕の要求をのんだ。
彼女はいつも、僕の思い付きやわがままに付き合ってくれる。
うん、やっぱりいい幼馴染だ。
まあ、文句の一言くらいは言うことはある。
けれども、あきれながらも僕の奇行に、なんだかんだつきあってくれる。
「じゃあ、開けるね……?」
「う、うん……」
蓮華が着替えるために、僕はいったん部屋の外に出ていた。
どうやら着替え終わったようなので、扉を開ける。
そこには、まさに理想のギャルがいた。
あの佐々木さんなんて目じゃないくらい、かわいい。
これでオタクに優しかったら完璧だ。
あれ……待って、蓮華ってこんなにかわいかったっけ?
普段は前髪で顔を隠しているから、わからなかったのか?
そういえば、いつもはダボダボの服を着ているけど、かなりスタイルがいい。
出るところは出ているし、胸なんて佐々木さんより大きいんじゃないか!?
「か、かわいい……」
僕は自然と、そう口に出していた。
「へ…………!?」
「す…………」
「す…………!?」
「すっごいかわいい!!!!」
僕はいつのまにか蓮華の肩をつかんでいた。
「あ、ちょ……カズくん!?」
「あ、ごめんごめん……」
なんだか気まずい雰囲気になってしまう。
蓮華は耳まで赤くなっていた。
普段あんまり褒めることないしな……。
それに、かなりスカートを短くしているから、それも恥ずかしいのだろう。
「と、とりあえず……写真撮らせてくれ!」
「う…………い、いいけど……」
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
うわ……佐々木さんにだったらこんなこと頼めないよなぁ。
またオタクきもいとかって言われてしまう。
でも、蓮華はなにも言わずにオーケーしてくれる。
いました!
いました隊長!
オタクに優しいギャルは、ここに存在します!
僕はその日、蓮華のことを隅から隅までなめるように見て、写真におさめた。
もちろん、いかがわしいことはしてない……よ?
あくまで常識の範囲内だ。
「お願いだ、僕と勉強会をしている間、その姿でいてくれぇ…………」
僕は鼻息荒く、そう頼み込む。
「う、うう……仕方ないにゃぁ……は、恥ずかしいんだからね!」
「わかってるわかってる。このお礼は必ずするから!」
蓮華が大好きなクレープ屋さんにでも連れていってあげれば、喜んでもらえるだろう。
あそこのクレープはおいしいんだ。
けっこう高いから、普段はあまり食べられないけど。
でも、これだけギャルを堪能させてくれたんだから、奮発しなくちゃ。
――チラ。
勉強中、僕は何度も蓮華と目が合った。
ああ……こんなかわいい子が、僕の幼馴染で。
しかもギャルで、僕に優しくて……。
僕はこんなに幸せでいいのかな?
「じゃ、じゃあ……もう遅いから、帰るね?」
「う、うん……じゃあね、また」
僕は部屋を出る。
ギャル変身セットは、蓮華の部屋に置いたままだ。
また来た時に、変身してもらおう。
「はぁ……最高だったな……こんど膝枕でもしてもらおう」
きっと頼めば、そのくらいなら許してくれるはずだ。
ギャルのあの短いスカート、そしてそこから伸びるスラっとしたキレイな脚。
それを枕にして眠れるなんて……最高じゃないか……!
ギャルに甘やかされたいという、かねてからの僕の夢が、近々叶おうとしている……!
「ひゃっはぁー!」
僕はスキップをしながら、家に帰るのであった。
◆
まさかこのことがきっかけで、僕がギャルに囲まれる学園生活を送ることになるとは……このときは誰も想像していまい――。
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