12 結城ちとせの手記

ーーー拝啓、橘凛様ーーー


凛くんがこの手紙を読んでいると言うことは、私はきっと、ちゃんとやり遂げたって事だよね?


この手紙がどう言う方法で、いつ、凛くんに渡ったのか、私には確認するすべは無いけれど…せっかくだから少し、付き合ってくれたら嬉しいな!


凛くんは今どんな事を考えているんだろう?


【なんで?】【どうして?】とか考えて、挙げ句の果てには【自分に何か出来なかったのか…】とか考えているのかな?


どうせ凛くんの事だから、人前では何とない顔をして、裏でメソメソしてるんでしょ?どう?アタリ?


先に結論から書くね、今回の事は凛くんに会う前から決めていた事なんだ…


君がトライアングルに入ってきたのは2年か3年位前だっけ?その時よりずっと前から、私の中では決まっていた事で…


だから凛くんが責任を感じる必要なんて一つも無いし、気にする事は無いんだよ?


これは遺書ではないから、もし凛くんが【なんで結城ちとせが死んだのか】を期待しているとしたらごめんね、ここに書くつもりはないんだ!


じゃぁ何を聞いて欲しいのかって?よし、覚悟を決めて書いてみよう!


きっとこの話を凛くんにしたら、私は【嫌な女】って思われるんだろうなぁ…


全く、やんなちゃうよ!人生なんて、本当に思い通りにならないよね…


さて、君がトライアングルにアルバイトとして入ってきた時、私は最初、【難儀な子だなぁ】って思ったの!

カッコつけで、不器用で、人に優しくて口下手で…店長が私に教育係を割り振った時は正直【げっ】って思ったんだよ?


蓋を開けてみれば、そんな心配は杞憂で、すぐ仲良くなれたけどね!


君が来て半年くらい経った頃かな?店長がさ、突然【凛くんはどうなんだ?】とか言うの!

特別君だけと仲良くしてた訳じゃないはずなのにいきなりそんな事言われたから、【え?何がですか?】とか間抜けな返事しちゃって…


そしたら店長、【凛くんはちとせちゃんの事、特別だと思っていると思うよ】とか言うんだよ?


もう最悪…実はね、私、凛くんの気持ちに薄々気がついてたんだよね、で…サラっと書いちゃうけど、私も凛くんの事好きだったの、この時には多分…


でもさ、最初に書いた通り、私は既に自分の結末をその…わかるでしょ?決めていたから…


じきに居なくなる女からの愛なんて伝えられる訳がないじゃない?


だってこの気持ちは、君を縛り付ける呪いになってしまうだろうから…


もうその後はずーと悶々としながら、君が私に過度に気を持たない程度の距離感を維持しなきゃって考えてた。


後から入ってきた子と凛くんが話してるの見かけたりすると、正直心中複雑だったなぁ…


まぁ、仕方がないんだけどさ…子供なのかな、私…


最近ね、迷い初めてたの、違うか…、迷ってたんじゃなくて、未練があったんだ。


君を残して居なくなる事に、君が居ない世界に行く事に…


別に何となく知り合って、たまたま一緒に仕事して、赤の他人なはずなのに、私の中で凛くんがどんどん大きくなっていって…


実感したんだよ、あぁ、私この歳になるまで心の底からちゃんと人の事好きになった事無かったんだなって!


まぁ、凛くんがこの手紙を読んでる以上、私はやっぱりと言うか、結局というか…ちゃんと選べたんだと思うけど…


その未練だけはつれて行きたくなくて、こうして書き置いてるって訳!


私はもう居ないんだし、少しくらい良いかな?良いよね?


我ながらズルいし嫌な女だと思うけど…凛くんなら許してくれる様な気がして…


凛くん、これはラブレターなんだ、恥ずかしくて上手く伝えられないけど、私から凛くんに送る精一杯のラブレター…


ねぇ凛くん?

結城ちとせは橘凛を、愛しています。


なんて答えていいか迷って黙ってしまう君が好き!


誰も見てない所でグラスを磨き続ける君が好き!


帰りがけに雨が降っていて、バイクに跨るのを躊躇う君が好き!


私のミスを何も言わずにフォローしてくれる君が好き!


困ってる人を見過ごせない君が好き!


本当に君が好きでした!


明日、私は君になんで言ってお別れするんだろう…


わからないけど、きっと上手にやれるよね…


勢いって凄いなぁ…読み返してて恥ずかしくなってきた…それじゃぁこの辺で!


またね!


          ーーーー結城ちとせ




PS:良い人見つけて、良い恋してね!青少年!

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