第4話 亮平の囚われ
僕は世界で一番マミを愛してる。
海に向かって大声で叫んでみた。ついでに貝殻も投げてみた。僕の隣りでマミが目を逸らしたように見えたが、気のせいだろう。僕たちは深く愛し合っているのだから。
僕はマミの痛んで枝毛が散らばっている髪の毛一本一本や、トラックでひかれたように平たい足の親指までもが愛おしい。
マミとの出会いは、レンタルビデオ屋だった。借りようとしたDVDを取ろうとした僕の手に、マミの手が重なったのだ。同じDVDを借りようとしていた僕等。運命の出会いだと思った。
「あ、ごめんなさい」
と言ったマミの声が、僕の好きなアニメの声優さんの声に似ていたというのも、惹かれた理由の一つだった。顔を見ると、声は可愛いのに顔は美人だったのも良かった。ギャップはポイント高いのだ。
軽く会釈をして行こうとするマミを、僕は引き止めてしまった。
「観たかったんですか?」
と話を繋いだ。会話が途切れると彼女は帰ってしまうと思ったので、手に取ったDVDの話を延々と語り続けてしまった。それでも彼女は嫌がりもせず、僕の話を微笑みながら聞いてくれた。
そのDVDのタイトルが「痴漢列車」だったとしても。
それに手を伸ばしていたマミの事は僕の中でなかった事にした。だってこれは運命の出会いなのだから。
それからの僕は朝起きてから夜寝るまで、ずっとマミの事で頭がいっぱいになった。
無理やりに近い形で聞き出したマミのアドレスに、毎日メールを送った。ハート乱発のメールを。
嫌だったら迷惑拒否をするはずだと思っている僕は、毎日毎日朝から晩までメールを送り続けた。とにかく褒めた。女性は褒め言葉に弱いと雑誌で見たことがある。
実は僕はまだ童貞なのだ。
三十五歳という年齢にも関わらず、まだ女性を知らないのだ。ピュアなおっさんなのだ。
僕はずっと運命の女性を待っていたのだ。
汚れを知らない女性。僕だけを見つめて、僕だけを愛してくれる女性。今まではアニメの中でしか出会えなかった理想の女性に、初めて出会う事が出来た。それがマミだ。
この年まで綺麗な身体で待っていて良かった。きっとマミも同じだろう。処女に決まっている。
もし、マミが汚れていたら許さない。
僕はこの後、マミと結ばれる予定だ。海の見える白いホテルを予約してある。
お互い初めて同士の二人だから、上手くいかなくて当然なセックスを、マミと一緒にぎこちなく頑張るのだ。楽しみだ。きっと真っ白なシーツが赤く染まるはずだ。そしたらこの指輪を渡すのだ。
「結婚しよう」
恥ずかしそうにマミは小さく頷くはずだ。
ああ、妄想が止まらない。
僕はマミとの運命に囚われていく。
(つづく)
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