第3話 理子の囚われ
こんな女消えてしまえばいい。
あたしはマミの事が大好きで大嫌いだ。
人の顔を見る度に、快楽快楽ってそれしかないのか、あんたは。セックスしかない毎日がそんなに偉いのか。自慢じゃないけどあたしはセックスなんて五年前に一回しただけだよ。それも夜近くのコンビニに自転車で行った時に、一回しただけ。したというかされたというか。
コンビニから出てきたちょっとばかりイケメンの男に道を聞かれて、一生懸命説明してたら、
「わかんないから案内してよ」
なんて極上級の笑顔で言われて、ほいほいと夜道を案内してたら、自転車倒された。ついでにあたしも倒された。そんなセックスが一回だけ。そんな一回だけのあたしに、快楽快楽って言われたって、わかるわけがない。快楽って何なんだ。
神社に祈りに行ったことがある。
マミをあたしの前から消してくださいと。
あたしがマミから離れる事は出来ない。マミしか友達のいないあたしには、一人になる勇気がない。だからマミが消えてくれればいいのだ。
でも、奮発して投げた五百円玉が賽銭箱に引っかかり、藁にもすがるような気持ちで引いたおみくじが凶だったので、枝に結ぼうとしたらその枝がバキっと折れてしまった時には、マミという女の恐ろしさに震え上がってしまった。
仕返しをしよう。
ある日唐突に思いついた。こんなにあたしを苦しめるマミに、仕返しをしなくてはという気持ちが沸いてきた。
マミの一番嫌がる事をしよう。
思いついたのが、マミの快楽の男を寝取ることだった。
あまり容姿の良くないあたしに男を寝取る、それもセックスの上手い男、果たして出来るのだろうか。マミは美人だし、あの性格さえなければ完璧なのだから。
でも毎日ステーキを食べていれば、たまにはお茶漬けも食べたくなるっていうではないか。そうだ、あたしはお茶漬けになろう。
まずはお茶漬けの存在を男にわからせなければならない。マミは絶対あたしに男を会わせないから、偶然を装って会う事にした。マミの家からつけていった。
マミと男がラブホテルに入ろうとしている所に、偶然を装って声をかけてみた。
「マミもここ使ってるんだー」
と語尾を伸ばして、男にアピール。マミは喋り方もクールで語尾は伸ばさないから、全部真逆にしてみた。
マミは黒の服装が多いから、あたしは白。マミはヒールの高い靴が多いから、あたしは高校生が履いているようなローヒール。マミは髪が長いから、あたしはショート。
さっき家を出る前に、慌てて自分で裁ちばさみで髪を切ったから、ざんぎり頭になってしまった。何かに似ていると思ったら、松ぼっくりだった。松ぼっくりはお茶漬けになれるのか。
マミがひきつった笑顔で、
「一人で入るの?」
と聞いてきたので、
「三人でー」
と元気よく答えてみた。
「あと二人は?」
とマミが聞くので、あたしはマミと男を指差してやった。マミの顏が歪んだ。
「冗談きつい」
と笑い飛ばされた。
「じゃあまたね」
マミは男の手を掴んで、あたしを振り返る事もせずラブホテルの中に入って行った。
快楽の男は一瞬振り向き、気の毒なものでも見たような目であたしを見ていた。男の目に同情を見た。同情でセックスは出来ないだろうなと諦めて家に帰った。
家に戻り自宅のベッドで、自分で自分を慰めた。
今頃マミはあの男から絶大な快楽を得ているのかと思うと、あたしは興奮した。あたしを見た時のマミの歪んだ顏、迷惑そうな顔、ひきつった顏、全てがあたしの快感を深めた。何度も一人で昇りつめた。五年前に一回だけしたセックスより快感だった。
あたしはマミをいたぶる快感に囚われていく。
(つづく)
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