第2話 幸男の囚われ


 俺はこの女のイク時の顔が怖い。


 マミはイク時顔が壊れる。

 思わず目を逸らしてしまうぐらい顔が壊れる。


 イク時は言えよと俺は毎回マミに言う。マミは俺のことを優しいと思っているだろうが、これはお知らせだ。俺へのお知らせなのだ。じゃないと俺だけイケない。それは不公平というやつだ。


 マミは通常は美人といえる顔をしている。なのにイク時だけ壊れる。顔が壊れる。


 最初の頃、顔が壊れるのはわざとなのか、俺への嫌がらせなのか、感じているのも演技なのではと疑った事がある。だが、あの快感が演技だとしたら、マミは最優秀主演女優賞を受賞するだろう。心は嘘をつけるけど、身体は正直なはずなのだから。


 不公平を公平にする為に、俺は一切お金を払わないと決めた。マミと行くホテル代は一円も払わない。その事をマミから文句を言われた事はない。当たり前だ。文句を言われる筋合いはない。


 マミとはクラブで出会った。


 一人で踊っているマミの姿は、周りが引くぐらいエロかった。踊っている腰つきがセックスを連想させるのだ。あのうねり方はただ者ではないと思った。案の定、会ったその日にセックスする事が出来た。その事に対しての意外性はゼロだった。


 だが、その後は期待外れもいいとこだった。


 マミは行為の最中マグロだった。死んだマグロ。まな板の上でぴくりとも動かないマグロ。サービス精神ゼロのセックス。


 あの踊っている時のうねりは全く使われない。なんだか詐欺にあったような怒りが沸いた。その怒りが俺のセックスの原動力になった。そしてマミだけ快楽を貪る。イク時だけ跳ねる。まな板の上で跳ねるマグロ。死んだマグロを生き返らせる為に、俺は腰を突き上げ続ける。

 

 マミはイク時だけ生き返る。マミは顔を壊しながら生き返るのだ。そして事が終わると死んだマグロに戻るのだ。


 マミのイク時の顔は、きっと人が殺される時こんな顔になるのだろうと想像させる顔だ。


 殺される時の顔で生き返る女。


 きっと俺はそれが見たくてマミとセックスをし続けているような気がする。


 俺は何回この女を殺したのだろう。生き返らせては殺し、殺しては生き返らせる。


 俺はマミの生死に囚われていく。



 (つづく)

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