第5話 命の囚われ
人生は唐突に終わるのだ。
心も身体も関係なくなる終わり。
二股が真っ直ぐな男にバレてしまった。
海の見えるホテルでセックスをした時、あまりの男のぎこちなさに苛立ち、罵ってしまったのだ。私はセックスの下手な男には我慢出来ない体質のようだ。
そして口が滑った。
世界で一番嫌いな男のセックスがいかにいいか、口が滑ってしまった。それに真っ直ぐな男が、シーツが赤くならないと、何度も訳の分からない事を呟く事にも疲れてしまったからだ。
その結果、今私は山の中に埋められている。
たかが二股ごときで人を殺すのかという言葉はもう出ない。口を開けると土が入るからもう言葉は使えない。両手両足はガムテープでグルグルに縛られているから動かせない。
芋虫のような私。
シャワーを浴びたい。土だらけの身体は気持ちが悪い。夜の土の匂いは鼻にツーンとくる不快な匂いだ。砂浜に埋められる方がいいなと思う。顔だけ出して埋められたいなとも思う。
もうすぐ顔にも土をかけられるはずだ。今現在、真っ直ぐな男は、私の胸辺りに土をかけている。
何がいけなかったのだろう。私はただいろんな快楽を楽しみたかっただけなのに。ここまでされないといけないぐらいの事を私はしてしまったのだろうか。
軽い気持ちだったのだ、私は。今流行りのシェアみたいな感覚で、二股をしてみただけなのに。
ルームシェア、ポテトのシェア、私のシェア、駄目なのか。
私を一人で食べるのは大変だろうから、分けて食べればいいじゃないかぐらいの気持ちだったのに。
私なんて少食だから、絶対に一人で食べきれない。むしろ誰かに食べてもらいたいぐらいなのに。
この男はケチなのか。
自分だけ食べたいって事なのか。子供の頃に習わなかったのか。幸福は人に分け与えなさいという事を、私は子供の頃親からたたきこまれた。
毎週日曜日、親から強制的に通わされた教会で、裸で布一枚のキリストを見ながら別の妄想に囚われていた時に、確か聞いたような気がする。
キリストは人々の罪を背負い殺された。
私は何を背負い殺されるのだろう。
私みたいな人間は、土の中で腐っていくのがお似合いなのかもしれない。土に戻る。私が消える。キリストのように蘇ったりするのだろうか。
鼓動が激しくなってきた。酸素が足りないからなのか、興奮しているのかよくわからないけど、ああ、死ぬんだなと実感した。
囚われる。
消えゆく命に囚われる。
(つづく)
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