第6話染まった貴女色

 熱を帯びた艶っぽい吐息とギィギィーっとベッドが激しく軋む物音、汗ばんだ身体から発せられる匂いに、私の脳は正常に機能せずに溶けていた。

 重ねられた彼女のスリムな身体の温もりに、正常で居られるはずがない。

 私は同性じょしに、それも二つ歳上の清楚な嘉納棗かのうなつめ絶頂イカされていた。

 アソコが、もう濡れている。

 両親が知れば——この世の終わりだ。

 いや、そうではないだろう……

 母と父は、世間体など気にはしない。

 クズな男女おやは娘を叱れるような行いをしていないのだから。

 娘を淫らな女性オンナと罵れはしない男女やつらだ。

 自身を棚に上げて、淫らとは蔑めはしないだろう男女やつらだ。

 それにしても、嘉納先輩のご両親は娘のこのような行為を咎めないのは何故なのだろうか。

 明瞭はっきりと喘ぎ声は漏れ聞こえているだろうに、両親の耳に。

 文化祭を終え、二ヶ月ほど経った今日——嘉納先輩のご自宅に招かれ、夜も深まろうとしている時刻、蛍光灯の照明を落とし女子二人が一糸纏わぬ姿——産まれた姿である裸で身体を重ねている現状が夢を見ているような錯覚だった。

 主導権は、嘉納先輩にあり、私はただただ身を委ねている。

 彼女が同性じょしに対して恋愛感情を抱き始めたきっかけなどを赤裸々に明かしたのは文化祭から一ヶ月も経たない頃だった。

 喘ぎ声の間に栞、と呼ばれて、これがもう……堪らない。



 嘉納先輩との愛の営み——がどのくらい続いたか、よく判らない程に放心した私は隣に横たわる嘉納先輩の顔を見れず、天井を見つめる。

 ベッドの下に投げられた掛け布団を身体に掛けずに、荒い呼吸を整えようとする私と嘉納先輩。

 汗ばむ身体が冷え始め、くしゅんっとくしゃみが出て、両腕で肩を抱く。

「寒いね、栞。ああ、気持ちよかった。栞はどうだった?」

「はい、気持ちよかったです。もう冬ですから……こういう恰好は、キツいですよ」

「そう……だね、私に付き合ってくれてありがとう。栞と友達になれてホントよかった」

 それと、髪を染めた栞も……見てみたい、と恥ずかしそうに続けた彼女。


 嘉納先輩の喜ぶ顔が見たくて、私は黒だった髪を金色に染めた。

 嘉納棗あなたの色に染まりたくて、染まろうとして……髪を染めた。



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