第5話屋上でのキス
人生で初めての憧れた文化祭は、胸中に抱いていた輝きは発していない。
ガッカリ、である。
一人では、仕方のないことなのだろう。
校舎の外も内も喧騒に包まれ、あまりの眩しさに眼が眩み、教室を抜け出し、混み合う廊下をかき分けながら進む。
はぁはぁ、と息を切らしながら三年生のフロアに着いても早々にその上に続く階段に片足を乗せて、上がり続ける。
階段を上がり終え、屋上に出る扉のドアノブに手を掛け、押し開ける。
ギギィー、と扉が悲鳴をあげ、文化祭が発する光りとは違う自然の白みがかる光りが私を迎えた。
「ふぅー、涼しい」
心地良い風が吹いて、頬を撫でていき、思わず声を漏らした私。
「抜け出してきたんだ、キミも……」
「……ええ、そんな感じです」
物干し竿が置かれた方から川のせせらぎのような落ち着く声が聞こえ、一拍遅れておそるおそる返答した。
「……」
「あのっ……」
「もっと華やかで、楽しめると思ってたのかしら?一年生ちゃん」
「はい……そのように、思ってました」
同級生ではなく、上級生だと示され、緊張が身体に纏われた。
保健室のベッドのシーツであろう真っ白い洗濯物が干された物干し竿の奥から姿を現し、私に歩み寄る清楚な先輩。
「あ、あ、あのっ……!」
整った目鼻立ちの顔が迫り、動揺した私は言葉が上手く出ない。
身体がぶつかる距離になったと同時に、私の唇に柔らかく薄い感触がして、何をされたのか理解出来ない。
十秒ほど唇に心当たりのない感触が続き、十一秒後に唇から柔らかく薄い感触が無くなる。
「ようこそ、コチラ側へ。藤野伊さん」
彼女は二歩後退りして、間隔を空けてから右手を頬に添えて、うっとりとした表情で私を見つめる。
彼女の頬は紅く上気していた。
私は、誰かも分からない
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