第2話断れないのをいいことに

「ねぇねぇ、おねーさんに連れてって欲しいとこがあるんですけどぅ〜」

「ラブホは駄目だよ、栞さん」

「おねーさんが行きたいんじゃないの〜そこは。そーじゃなくて〜足湯に浸かれるとこにですよぅ〜」

 藤野伊がいかがわしいスポットにめざとく反応し、からかいを返してからニヤけた笑顔を人懐っこい笑みに変えて真面目なトーンで答える。

「違います。足湯?なんで足湯なんて地味なとこを?」

 律儀に彼女のからかいに否定してから訊ねた。

「うわぁー、必死に否定ぃ〜!地味って……若いのが、インスタなんかの映えなんてのにだけ熱中してると思ってるなら違うからね。って、そういうのを言いたいんじゃなくて……無理ぃ、ですか?」

 ケタケタと愉快に笑い声をあげ、満足したように笑い声が消えるとわずかに鋭い眼差しで心外とばかりに注意してきた彼女。

 ねだるときに甘ったるい声で頼んでくる彼女に、卑怯だなぁと思わざるを得ない私だった。

 彼女の上目遣いでねだられるのは、心臓に悪い。

「ご……ごめん、気に障ること言って。連れて行くのは無理ってことは、ないけど……」

「やったぁーッ!」

 彼女が控えめながらもガッツポーズをとりながら、歓声をあげるのだった。

 周囲の通行人に迷惑をかけないほどの声量で一安心なのは、いうまでもない。


 彼女の喜ぶ様子は年相応に感じた私だった。


 駅前での待ち合わせは、なにかと懸念事項があって落ち着かない。

 私なんかよりも校内の親しい人間らと人付き合いした方が幸せだと、彼女に思う。


 彼女との付き合いが浅いが、両者共に依存する共依存の関係を築いているように思うのだった。


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