3 僕→俺

 あとはひたすら頭をなでてもらった。なるほど、それだけでもよかったのか、と思いつつ、謎の安心感に包まれる。


 好きという気持ちはないが、来てもらった人は好みの顔だ。そんな人と一緒に過ごす嘘の時間にも、安心感はあるのだな、と思った。きっと頭をなでてもらって、ナントカって成分がでているんだろうな。


 髪サラサラだね、と褒めてくれたので、「ありがと💛」と言った。

 ぐへへ……、実はな、一昨日サロンでトリートメントしたんだよォ……。

 と、心の中でニヤリと笑った。行ってきて良かったぜ。

 

 会話の中でYさんの一人称が、「ぼく」から「俺」に変わった。仕事で来てもらっている中で、嘘の中の本当がチラリと姿を現す。Yという名前の隙間から、普段の表情が垣間見えた瞬間にグッとくる。

 

 途中、私の副業にしたいことの確認事項に付き合ってもらった。身体の筋肉がどう動くか確かめたかったので、触らせてもらえるのはありがたかった。

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