貫く想い 4
二人して全員の遺体をグローリーシティまで運び、適切な処理をして、一緒にリンヤの家に帰る頃には、もう日が暮れていた。
玄関の鍵を暗証番号と指紋認証で開け、薄暗い部屋に二人で入る。朝開けたまま出かけたカーテンから、夕暮れの日差しが差し込んでいた。橙色になった部屋は、哀愁を漂わせている。
リンヤは部屋の中心に置いたソファに身を沈めた。ソウも何も言わずに隣に腰掛ける。
道をたがえても、敵対することになっても、ソウについていくと決めた。ソウの選ぶ道に賭けたのだ。とうに腹は括っている。だからといって、かつての仲間と相対することに慣れるわけでもない。特にコウコは交流の深い人だった。
「……あの頃は、さ。たくさんのものが、ちっぽけに見えてたなぁ」
若い頃と、今と、どちらが上かなんて考えるのもくだらないことだ。それでも、あの頃見えていなかったものが、たくさんある。コウコもソウともっと過ごしていたら、こうはならなかったのだろうか。
哀しみの炎が、胸の底を静かに焦がしている。
「あの頃のリンヤは、綺麗だったぞ」
「……は?」
突拍子もないソウの言葉に、毒気を抜かれる。思わずソウの顔を見つめるが、普段雑談をするときと同じ表情をしている。
「一つの目的に向かって走る姿は、綺麗だった。色々大変だったが、あの頃のリンヤが俺は好きだったよ。無論、今のリンヤも好きだ」
「あのさぁ、人間一年生は卒業したんじゃないの? 今、ソウくん何歳なわけ」
長いため息とともに文句を言う。恥ずかしいセリフをこうも次々言える人間が、この大都市の市長などとは信じられない。今の言葉を部下が聞いたら、街を出て行くのではなかろうか。
「でもこういう面が残っているということは、リンヤがそばで支えてくれる中で、殺さなかった部分だ。つまり長所さ」
「殺しておけばよかったかね……」
ソファに身を預けながら、脱力してしまう。背もたれに沿って、背が落ちていく。
「あの頃も、今も、リンヤはずっと綺麗だ」
ソウの囁きと共に、リンヤの体は床に落ちた。
復讐に走ったリンヤも、今なお復讐に走る元デグローニも、綺麗。見えるものが多いから、偉いわけでも、誇るべきでもない。大事なのは、今を精一杯生きること……なのかもしれない。
つくづくソウはいい人間に成長したものだ。否、リンヤもソウも、だろう。二人支え合って、成長してきた。
「やっぱソウくんはさすがだねー」
立ち上がる。腕を天井に伸ばし、思いきり伸びをする。
森で暴れて体は汚い。まずは風呂。それから夕飯だ。
「風呂、一緒入る?」
横目でソウを見ると、その口元が弧を描く。
「あとから行く」
本当に、いい人間に成長したものだ。
「はいよー」
リンヤは一人で風呂場に向かう。手早く服を脱いで、浴室に入る。立ったままシャワーを起動し、頭からお湯を被った。パーマをかけた金髪が、水圧に負けて顔にかかる。雫が次々と顔や体を伝い落ちていく。
コウコの顔が浮かんだ。若い頃のコウコと、最後の『……ありがとう』の声が重なる。
唇が震えた。止めようと思っても、止まらなかった。お湯以外の雫も、混ざり合って、排水溝に流れていく。
リンヤはひたすらお湯を流した。やるせない思いも、哀しみも、全て一緒に流した。
しばらくして、脱衣所の扉の開閉音が聞こえた。リンヤの光が、もうすぐここにやってくる。どんなことがあっても、この男と共にいると、一緒に歩んでいくと、その思いは変わらない。
男の顔を思い描いて、二人で歩んだ道を思って、リンヤの顔には笑顔が浮かんだ。
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