(その18)

ピエロが、暗幕を閉じ、黒い箱を一回転させてから再び暗幕を開くと、箱の中は空だった。

長い棒であらぬ方を指し示すと、庭に灯りが点き、バニーガールがポーズを取りながら歩き回るのが見えた。

拍手の音が鳴り響いた。

庭の明かりが消えると、バニーガールはいつの間にか女優の傍らに座る堀内取締役の側に立っていた。

「おお、瞬間移動だ!」

足元の可不可に屈んで言うと、

「子供だましです」

可不可が半立ちになって耳元でささやいた。

バニーガールは堀内を立たせ、その手を取って、演壇へ導いた。

まばらな拍手が起こった。


うやうやしく頭を下げたピエロが、バニーガールから堀内を受け取って演壇へ引き上げると、黒い箱に収めて暗幕を引いた。

黒い箱が一回転して、ピエロが暗幕を引くと、何と中からタキシード姿の山城社長が現れた。

・・・これには誰もが驚いた。

ハンドマイクを握った社長は、

「やあ、みなさん。山城だ。先の取締役会の決議は無効と裁判所に訴え出たばかりだ。明日から出社するのでよろしく」

と復帰宣言をしたが、拍手する者はいず、会場は水を打ったように静かになった。

その瞬間、スポットライトが消え、真っ暗闇になった。

「どうした」

「早く明かりを点けろ」

会場は騒然とした。

出入り口の上の緑色の非常灯だけがぼんやり点灯したが、暗闇の中誰ひとりとして動くことができない。

しばらくして明かりが点くと、壇上にあった黒い箱と黒い台車は、ピエロとバニーガールとともに、あとかたもなく消え去っていた。

・・・女優が悲鳴をあげた。

堀内が座っていた席に山城社長が座っていたからだ。

女優は弾かれたように立ち上がり、山城社長が差しのべた手を振り払い、逃げるようにして宴会場を立ち去った。

山城社長は立ち上がり、同じテーブルに座る新社長や他の取締役をひと睨みすると、肩をそびやかせて悠然と出て行った。

山城社長が立ち去ったあとの会場は、蜂の巣を突っついたように騒然となった。

そのうち、誰かが、

「堀内がもどってないぞ」

と喚いたので、大騒動になった。

「あのピエロだ」

「追え」

何人かの若手社員が駆け出して行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る